HOME >> 人権相談についてTOP > 人権問題を考えていただくために > (1)高齢者に関する人権侵害の現状と課題

人権問題を考えていただくために

高齢者に関する人権侵害の現状と課題

フィオーレ南海 施設長 柴尾慶次

はじめに

 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(通称:高齢者虐待防止法、本稿においては「防止法」と略記。)が、2006年4月に施行された。防止法は、児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)等の法律と異なり、養護者支援を謳った法律になっている。つまり、虐待をしていると思われる具体的な養護者に対して、その支援を含む福祉法的な法律となっている。
 防止法は、養護者でない者による虐待をどうするのかについては、具体的に示してはいない。たとえば、同居しているが養護者でない家族、同居していない親族による虐待への対応。第三者による虐待、あるいは「自虐、自殺、自己放任」に見られるような、セルフネグレクトへの対応など、地域で実際に発生していながら対応できていない事例に対し、防止法は有効な手立てを講じてはいない。
 あるいは、虐待の状況が深刻で、発見時に保護・分離という対応方針で臨み、結果的に分離に至った事案の場合、その瞬間に養護者という立場を離れる虐待者に対し、実際には法的に関われる人がいなくなる状態が発生する。虐待者の具体的支援を行い、回復・再統合という過程を見据えた支援を組み立てていくために、継続的に関われる機関の必要性を痛感している。
 とくに、大阪の弁護士事務所で女性事務員が殺害された事件に関連し、「押しかける虐待者」、「探し回る虐待者」への対応が急務と考えられる。防止法で、防止できなかった二次的な被害という事件に該当する。同様の二次的な被害に、地域包括支援センター担当者、市町村担当者が具体的にストーキングや脅迫電話を受けており、こういった被害を防止できなければ、誰も深刻なケースを担当しなくなってしまう。
 防止法は、他にもさまざまな課題を抱えており、3年後の見直しに向けての課題整理も併せて行ってみたい。