主な人権侵害事象(差別事象を含む)状況

(2)大阪で起っている差別の現実 ~実際の差別事象から~

同和問題に関する土地差別

ポイント

  • 部落問題とは、歴史的社会的経緯のなかで「被差別部落」「同和地区」あるいは単に「同和」と呼ばれている土地との属地関係を有する、あるいは、有するとみなされる人々が、不当な差別を受け続けている社会問題で、封建的身分制に関わる差別の問題です。
  • この問題は、「同和地区出身者」あるいは「部落出身者」などと呼称され、人びとを被差別の対象にしているばかりか、部落であるとの属性を与えられてきた土地そのものに対しても、他の土地とは区別される差別的取り扱いを招いています。
  • 同和地区やその近隣地(土地)との関わりを持つと、社会や世間から「部落出身者」と見なされてしまうと感じてしまい、「同和地区出身者と見なされる可能性」を避けようとする忌避意識が形成され、同和地区に対する差別意識が生まれます。これが、土地差別と呼ばれる問題の基本となすものであります。
  • 現在も「○○丁目が同和地区かどうか教えてほしい」、「○○小学校の通学校区の中に同和地区があるかどうか教えてほしい」、といった役所への問い合わせが後を絶ちません。1989(平成元)年から2008(平成19)年の20年間に大阪府が把握した宅地建物取引等に関わる問い合わせは138件です。しかし、インターネット上での同和地区かどうかの問い合わせをはじめ、まだまだ表に出ていない差別意識があります。また、年により、ばらつきがあるものの、近年その件数は増加してきています。
  • 「土地差別」の解消を図っていくためには、忌避意識の解消が大きな課題です。同和地区に対するマイナスイメージなどを要因として府民の忌避意識が生まれていることから、その解消に向けた府民の人権意識の高揚を図るとともに、人権問題についての正しい理解と認識を深めていくことが重要です。

◇事例の概要

  • 2006(平成18)年4月頃、富田林市にあるA病院に研修のためにA病院の近隣に住むこととなった研修生Bさんが、不動産業者であるC社の担当者Dに「川沿いはだめ、治安のいい所、セキュリティのしっかりした所」という条件を提示し、「○○○町(地名)」の物件を賃貸契約しました。
  • A病院内で、「Bさんはどこに住んでいるのか」という複数の職員からの質問に、Bさんは、「○○○町(地名)です」と回答したところ、他の職員から反応がなかったので、不信に思いました。
  • Bさんは、担当者Dに「当初、治安のいい所と聞いていたのに、そういう所なんでしょうね」と賃貸物件について確認する中で、Bさんは「同和地区ではないか」と発言をしました。
  • 担当者Dは、「△△△町(地名)はそういう所だけれど、そこは違います。Bさんの住んでいる場所は調べてからかけ直し、返事する」と対応しました。
  • 「○○○町(地名)」が同和地区かどうかを調べるため、担当者Dが、「うちの会社で仲介した○○○町(地名)の物件があり、入居者から同和地区ではないかと聞かれたので、そちらで教えていただけないか」と富田林市(人権文化センター)に問い合わせをおこなったところ、「そのような質問には答えられない。人権侵害にあたる。同和地区かどうか聞くことも答えることも差別になる」との、富田林市(人権文化センター)からの指摘を受けました。

◇事実確認からわかってきたことや対応

  • C社では、賃貸業者が取り組むべき人権の取り組みがほとんどできておらず、担当者Dを含む全社員の意識の中で、「同和地区の存在について問い合わせることなどは差別行為であり、絶対に許されない」という意識が醸成されていませんでした。
  • このことから、C社では、「常に人権に対する真摯な態度を忘れてはならない」という認識をもつため、人権研修や事例研究を全社員に対して行い、人権意識の高揚と啓発に努めるとともに、『大阪府宅地建物取引業人権推進指導員制度』(※1)の導入と、人権問題の取り組みを推進するための人事管理体制の整備、『公正採用選考人権啓発推進員』(※2)を設置するなど、C社内での人権意識の高揚を図っています。
  • A病院の職員の中では、同和地区を含む地域として、「○○○町(地名)」を同和地区であると捉え、「同和地区に対する差別意識」や「同和地区は怖いなどのマイナスイメージ」が存在していることが考えられます。
  • また、A病院に対する聞き取りを通じて、人権研修会や同和地区の実態を実際に見るために現地視察をするフィールドワークを行い、職員の人権意識の向上に取り組んでいたが、人権研修等による職員の人権意識の醸成や人権を大切にする病院をめざしてきた意義などが、全職員にまで行き届いていなかった実態が浮き彫りになりました。
  • 一方、Bさんは、不動産業者C社が同和地区かどうかを調べてくれないなどの対応の不満と、潜在的に持っていた差別意識と同和地区に対するマイナスイメージが合わさり、差別発言をしてしまいました。
  • このことから、A病院では、医師臨床研修プログラムの補完としてオリエンテーション時における人権研修など、医師を対象とした人権研修が行われるようになりました。また、職員の実生活や日常業務において無意識に入ってくる差別意識や偏見をA病院から生み出さないために、人権研修が行われています。

※1『大阪府宅地建物取引業人権推進指導員制度』とは

 大阪府では、宅地建物取引の場において発生している同和地区に対する差別や、外国人、障がい者、高齢者や女性等に対する入居差別をなくしていくため、2006(平成18)年に宅地建物取引関連の業界8団体で構成する「不動産に関する人権問題連絡会」とともに、大阪府知事免許を有するすべての宅地建物取引業者に「人権推進指導員」を置き、その指導員を置くことにより、宅地建物取引業者の皆様が自ら人権問題に関する正しい理解と認識の共有化を図り、入居差別のない社会をめざして、本制度が作られました。


※2『公正採用選考人権啓発推進員』とは

 同和問題をはじめとする人権問題を正しく認識し、応募者本人の適性と能力に基づく公正な採用選考を行うため、常時使用する従業員数が25人以上の事業所(企業)において、公正採用選考人権啓発推進員を配置しています。
 推進員には、人事担当責任者等や、採用選考その他人事管理に関する担当者から、1事業所につき1名を選任されています。
 この推進員に対し、大阪府等が研修等を行うことにより、適正な採用選考システムの確立を図るとともに、推進員が中心となって企業内従業員に対する人権研修の計画・実施等を推進することを目的としている制度です。