(5) 子どもに関する人権相談
子どもへの虐待の事例
相談者の主訴
最近、近所に引っ越してきた家庭で、毎日のように保護者が子どもを叱る声や子どもの泣き声が聞こえる。最近、新聞やテレビでも虐待について毎日のように報道されており、心配なので市役所に通告した。
相談の経過
通告を受けた市の相談員は通告者をはじめ、その家庭についての調査を実施した。
その結果、転居して間がなく、子どもたちは保育所や幼稚園にも通っていないことがわかり、安全確認と家庭状況の調査のため、市の相談員がその家庭を訪問した。
母親は夫が転勤族で親族や友人もおらず父も帰宅が遅いので、子育てや通う保育所等について相談する人がいない、一日中、子どもと一緒にいるとイライラしてつい叱ってしまうと訴えた。
子どもたちには、特に怪我や変わった様子は見られなかった。
対応
市の相談員は、母の子育てに関する相談や情報の提供等を行うため、訪問指導を開始するとともに、市で設置されている要保護児童対策地域協議会でこの家庭についての報告を行い、支援について検討を行った。
母は家計を助けるためにパート就労したい、保育所に入所させたいという希望があり、保育所入所と、その中で育児支援と子どもの見守りを行っていくという方針を立てた。
その結果、保育所入所により、育児の負担が軽減されるとともに、保育士や他の保護者との交流により母に精神的なゆとりができたことで、子どもに叱りつけることもなくなった。
課題・問題点
核家族化により、このように母親が孤立した育児をする中で、結果的に虐待に至ってしまうことがある。
本事例の場合、近隣からの通告で早期に支援につながり、虐待の深刻化を未然に防止できたが、事例によっては転居、孤立といった状況の中でひどい虐待になりかねない危険性をはらんでいる。
このため、市町村における要保護児童対策地域協議会が有効に機能することと併せ、地域住民のひとりひとりが虐待を未然に防ぐという意識を持てるよう、啓発をしていくことも非常に重要である。