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人権問題を考えていただくために

高齢者に関する人権侵害の現状と課題

フィオーレ南海 施設長 柴尾慶次

3.高齢者虐待防止

(1)高齢社会の課題
 高齢社会の課題は、①認知症ケア、②ターミナルケア、③自立支援(介護予防を含む)、ではないかと考えている。とくに、認知症ケアは、その軸がぶれると抑制、拘束、虐待、介護事故につながると考える。
 抑制や拘束、虐待を受けている高齢者の8~9割が認知症高齢者であることを考えると、虐待防止が認知症ケアの確立であるともいえる。認知症ケアが地域で、家庭で十分理解され、その介護方法が確立すること。あるいは介護サービスを提供する専門職において認知症ケアがきっちり確立され、システムとしても地域で認知症の高齢者を支えるシステムが確立することである。
 とくに、地域社会、あるいはコミュニティが疲弊している現状では、まず介護サービスの専門性や仕組みを認知症ケアにシフトして抜本的に見直されなければならないと考える。現状の訪問介護や訪問看護は、時間の切り売りサービスを提供している。このような時間単位で訪問する仕組みでは、認知症の人の不安や混乱に十分対応できない。柔軟にその人の状況に応じて、1日に何回訪問してもいくら、というような包括払いの訪問介護、訪問看護に変えなければ切り売りしている時間だけの責任になってしまい、地域で支えきる仕組み、責任体制とはいえない。
 このように、家庭内虐待にかぎらず、養介護施設従事者等による虐待も、認知症ケアの確立が、遠くて近い虐待予防の道、ということにつながる。


(2)男性介護者の問題
 上記は、虐待を受けている高齢者の側から見た予防という観点である。
 虐待をしている側から見ると、問題はまた異なって見える。日本は世界に冠たる長寿国である。男性の平均寿命が79歳、女性が86歳。そして、この平均寿命の男女差が縮まってきている。どちらも長生きということである。そうすると、夫婦の場合には、どちらが要介護になるのかは確率の問題、ということになる。最近の統計でも、男性介護者が増えており、25%を超えている。
 高齢社会の課題は、別の観点から見ると従来は女性の問題と重なるといわれてきたが、男性の問題でもある。①男性独居、②男性介護者(夫)、③男性介護者(息子)、という3つのタイプの男性の問題がある。
 男性独居の高齢者は、これも増加傾向にあり、現在でも400万人ほど独居高齢者がいるといわれているが、ピーク時には600~800万人、そのうち男性独居が200~300万人と推計されている。そうすると、生活訓練を受けていない男性独居の課題があり、地域に少なからず存在しているごみ屋敷状態の独居高齢者、自虐、自殺、自己放任、といわれるようなセルフネグレクト型の虐待が男性独居の大きな課題である。高齢者虐待防止法においても、セルフネグレクトは定義に含まれておらず、今後増大すると思われる男性独居の高齢者のために、ぜひ対応を検討すべきではないかと考える。
 男性介護者が夫の場合の課題がある。ほぼ間違いなく、夫が介護者になると、完ぺき主義者になる。がんばりすぎる、他から介入されたくない、抱え込み介護、孤立する介護者になりがちである。たださえ、女性であっても介護者という役割を引き受けると、近所づきあいができない、自分の時間が取れない、遠出ができない、買い物に行くのにも時間がはばかられる、というような孤立する介護者になりがちであるのに、男性は、介護者になるといきなり孤立する介護者である。あるいはサービスを使ってもうまく使えない。訪問介護員を依頼しても、その行動を監視し、きっちり仕事しているか「上司の目」で見ている。だから嫌われる。
 男性介護者が息子の場合は、夫の場合との両極端である。つまり、介護しない介護者、サービスを使わせない、そのような虐待者になりがちなのが息子の介護者である。もちろん、一生懸命介護している息子や夫がいることは百も承知である。しかし、そのような傾向になりがちであることは、経済的に自立していないことからいえるのである。夫の場合には、年金世代であることが多い。妻の年金と、自分の年金とで、経済的に被介護者に依存しなくても良いからである。中高年男性は、就労していない限り、無年金である場合がほとんどであり、経済的に困窮している。


(3)男性介護者の会
 そこで、男性介護者に対する支援が必要である。男性独居もあわせて検討しなければ、地域での高齢者の問題は解決しないであろう。孤立死防止のための見守り活動、あるいは、独居高齢者の食事会など、工夫して地域で取り組まれることが必要。
 また、生活訓練を受けていない男性に対し、生活が楽しい、その中に介護がある、というようなメッセージを伝えなければならない。たとえば、男性料理教室を開催し、ピアグループを育てる。男性は、変なところにプライドがあって、男女混成チームではなかなか本音を話せない。介護の苦労話など、混成チームでは話しにくいのである。そこでピアグループ(男性介護者の会)を設立し、短期入所を利用して、たまにはマージャン、たまにはゴルフ、たまには温泉、というような息抜きができないとストレス発散がヘタである。
 男性介護者、男性独居、それぞれに対する地域でのアプローチが、長い目で見ると虐待防止につながる、あるいは、ピアグループで社会起業を支援する等、街づくりやご近所の底力などとの関連でネットワーク作りをしていく地道な活動が必要である。