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人権問題を考えていただくために

いじめ ~その克服と予防

神戸親和女子大学 教授 新保真紀子さん

4.いじめの解決と予防に向けた取り組みを

 いじめは、対等ではない人間集団の間で起きる人権侵害・暴力である。「ともに生きる」ことを学ぶべき学校や学級では、当面のいじめ対処とは別に、長期的にいじめを予防し、対立を平和的に越えることを学ぶプログラムが必要だ。WHOの提唱したライフスキル(1993年)は、プログラム作りの指針となるだろう (2)。私も中学校教師だったときに、いじめ予防プログラムを実践したことがあるが、子どもたちが自分自身やクラスメイトの新たな面を再発見し、教師が子どもたちの心の内を再発見できた興味深いものだった。ポイントは、教師自らが肯定的な評価を日常的に子どもたちに返しながら、安心のフレームの中で子どもたちの経験知や学習知を鍛えることだ。また、怒りや悲しみなどの感情の伝え方やコントロールを学ぶことも、共感を重ねるトレーニングなども欠かすわけにはいかない。毎日の暮らしの中で生起する集団内のできごとを、人権感覚を研ぎすましながら一つ一つ解決していく学級活動があってこそ、上記のプログラムは生きてくる。子どもは生活者であり、生活に根付いたリアリティある人間関係作りや対立の越え方を身体化することを大切にしたいと思う(3)
 子どもの声を聴き取ることができる活動やシステムづくりを通して、いじめが起きない学校づくりをめざすこと、そして対立が起きても、子どもたちがそれを平和的に越えて、「いじめよりもっと楽しいことが学校にはあるのだ」と実感できるような学校づくりをめざすことが、今こそ求められている。さらに、いじめは子どもたちの家庭や家族関係などが背景にあって起きることもしばしばである。地域や家庭との協働関係や相互支援をどう構築するかも大きな課題であろう。以下に挙げる項目について、学校・地域・家庭が相互連携しながら自己点検してみてはどうだろう?


☆学校や学級は

□教職員が、体罰など一方的な力で支配する(Power and Control)ことはないか?

□優勝劣敗主義・競争第一主義など、ハラスメントやいじめの土壌となる体制はないか?

□学校や学級に、正義が貫かれた、安心できるフレームが作られているか?

□いじめなど人権侵害があった場合、声を聴きとり、対応を協議できるシステムが整っているか?

□教職員がチームとして学校運営に関わり、相互に情報交換やサポートしあっているか?

□学校改革のリーダーやミドルリーダーの存在があるか?

□子どもたちの自尊感情を育み、エンパワーする取り組みを重視しているか?

□子どもの多様性が認められているか?

□教職員と子どもたちの関係は、肯定的で話しやすいか?

□子どもたちとつながる日常的な取り組みや情報のキャッチができるパイプはあるか?

□子どもと子どもの関係が豊かにつながり、支え合い、相互批判できる関係にあるか?

□基礎学力定着のための取り組みがすすめられているか?

□授業で「分からない」ことが「分からない」と安心して言え、教えあえる雰囲気はあるか?

□地域や家庭との協働や、専門機関との連携は進んでいるか?

☆家庭は

□家族関係は良好か?

□マルトリートメント(不適切な養育)はないか?

□学校や担任と信頼関係はあるか?

□保護者の学校参加・参画は進んでいるか?

□地域で孤立していないか?

☆地域は

□弱者が生活しやすい地域か?

□近所つきあいや地域活動・PTA活動などがさかんか?

□学校との協力/協働関係は良好か?


(2)意志決定スキル(Decision making skills)・問題解決スキル(Problem solving skills)・創造的思考(Creative thinking)・クリティカルな思考(Critical thinking)・効果的なコミュニケーションスキル(Effective communication skills)・対人関係スキル(Interpersonal relationships skills)・自己認識(Self-awareness)・共感性(Empathy)・情動への対処スキル(Coping with emotions skills)・ストレスへの対処スキル(Coping with stress skills)である。

(3)紙面の都合で書ききれなかった子どもと子ども、子どもと教師がつながる日常的な学級集団づくりの実際は、以下の拙著を参照されたい。『いじめを越えて』(部落解放・人権研究所)、『子どもがつながる学級集団づくり入門』(明治図書)、『わたし 出会い 発見 Part6』(大阪府人権教育研究協議会)


「2006年度版 大阪府内における人権相談及び人権侵害事例・分析報告書」(2008年3月発行)より