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人権問題を考えていただくために

いじめ ~その克服と予防

神戸親和女子大学 教授 新保真紀子さん

3.子どもたちの声から

 現大阪府人権教育研究協議会が2000年におこなった約8000人の「大阪の子どもたち調査」 (1)からは、いじめの現状についての子どもたちの声を聴くことができる。


要約すると、

1.いじめの加害・被害体験者はともに4割前後おり、いじめは常態化している
2.いじめは「同じクラスの子」間が約80%を占める
3.いじめの場所と時間は「教室の中で、休み時間」が最多で、約60%
4.「授業中」と答えた子どもたちが、中学校では加害者21%、被害者26%もいる(無視、冷やかしやからかいなど、教師が教室にいてもコントロールできていなかったり、教師自身がいじめと気づいていない状況もかいま見える。)
5.害者のいじめの理由は、「なまいきだから」(小39%、中28%)、「けんかしたから」(小34%、中26%)、「友だちがいじめているから、何となく」(小21%、中28%)である
6.被害者は、いじめられた原因を「よくわからない」(小38%、中32%)、「自分が生意気と思われたから」(小25%、中26%)、「(相手が)弱いものいじめをする子だから」(小21%、中23%)と感じている。
7.いじめの終焉は、「何となく終わった」(小61%・中86%)が最多で、続いて「相手の子が先生に叱られた」(小25%・中21%)、「いじめていた子と話し合った」(小21%・中20%)、「友だちが止めてくれた」(小中とも14%)、「みんなで話し合った」(小13%・中16%)など、正攻法の話し合いでその解決に至っている
8.被害者の相談相手は、親(小39%、中38%)、友だち(小31%、中26%)、先生(小25%、中34%)(全て複数回答)だが、「だれにも相談しない」子どもたちが、小32%、中37%もいる
9.自尊感情の低い子どもたちが、いじめの被害者にも加害者にもなる率が高い。


 こうして見ると、いじめは「生意気だから」「けんかしたから」「友だちがいじめているから何となく」始まり、「何となく終わる」というパターンが多いことになる。これはいじめ被害者の子どもにとっては、明確な解決を見ずに「いつまたいじめが再開されるか」という、不安と恐怖と孤立感に苛まれつつ耐え忍ぶ状態が続くことを示している。さらに、自尊感情の低いいじめ被害者が、だれにも相談せずに一人で抱え込んでいる状況は、きわめてリスキーである。周りのおとなや同級生が、どれだけこの子どもの声を聴き取れるかによって、いじめ解決の結果は大きく違ってくる。いじめ自殺報道が続いたときに、おとなたちは「これしきのことで負けるな、甘えるな」「生きていればきっといいことがある」「私はいじめに打ち勝ってきた」「君にも悪いところが」など、「強くなれ」「我慢しろ」基調のメッセージが発信され続けた。これではいじめ被害者は、声をあげられないだろう。教師をはじめ、スクールカウンセラー、スクールサポーターの大学生、地域の方々など、子どもたちのそばにいてくれる多様なおとなたちが、「いつもそばにいるよ。話してごらんよ」「つらかったね」というメッセージをまず届けてほしいと思う。


(1)大阪府同和教育研究協議会 2000 『大阪の子どもたち 子どもの生活白書 2000年度版』pp3-56 この調査は小学校6年生と中学3年生8400人を対象におこなったもので、被害者・加害者の自尊感情といじめとの相関や、いじめへの対処行動などが明らかになった。