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人権問題を考えていただくために

いじめ ~その克服と予防

神戸親和女子大学 教授 新保真紀子さん

2.現代のいじめの特徴~集団づくりが問われている

 さていじめの対処・予防のためには、現代のいじめの特徴を認識しておく必要がある。その第一は、思春期特性を理解した対応が必要だということである。いじめは小学校高学年から中学校・高校にかけた思春期前期から中期の子どもたちに集中的に起きており、小4から中2の5学年で全体の約63.2%を占めている(同文科省調査)。おとなに庇護され、親のストーリーを生きてきた子ども期と異なり、おとなへの過渡期である思春期の子どもたちは苛立ち、もがき苦しんでいる。「親に甘えたい/自立したい」、「なんでもできるぞ/なんてちっぽけな自分」、そんなアンビバレントな感情(両面感情)に揺れる不安と不安定な状況に加えて、勉強や受験の重圧も加わる。さらには第2次性徴期の体の変化や、男子の場合は性的な衝動と暴力性も高まる。揺れ動く思春期を生き抜き、セルフイメージや自尊感情を豊かに育くむためにも、おとなたちの支援のあり方が問われている。
 第二に、いじめは個人間のトラブルではなく、クラス・クラブ・仲良しグループで起きている。思春期は ピアプレッシャー(同調圧力)がより高まる時期であり、特定の子どもへのいじめは他の同調者を得て集団化する。こうしたいじめの解決は、個別対応だけにとどめず、よりよい集団づくりを目指してこそ有効な対応となる。
 第三に、いじめは常態化し、しかも突然風向きが変わるように、加害者が被害者になることもある。後述するが、いじめの始まりや終わりは掴みどころがなく、不確かなのである。ここでも集団づくりが解決の鍵を握っていると言えよう。
 第四に、いじめの構図は「被害者・加害者・いじめを支える観衆・傍観者」と言われるが、傍観者をひとくくりにはできない。そこには、いじめに心を痛めながら、「NO」と言えずに沈黙する子どもたちも散在している。教師はこの子どもたちとの関係を温めながら、「いじめはいやだ」と言える層を組織化していく必要がある。この良心的子ども層を多数派に組織できるかどうか、ここでも集団づくりがターニングポイントとなる。
 第五に、「中1ギャップ」の課題も挙げねばなるまい。不登校出現率と同様にいじめもまた、中学1年生での発生が最多であり、小中連携や中学校文化のありかたなど、小中学校が連携して取り組むべき課題も見えてくる。
 最後に付け加えるなら、いじめを取り巻くマスコミの対応である。WHOの自殺報道ガイドラインを挙げるまでもなく、自殺連鎖を起こしやすい思春期への配慮に欠ける報道や、学校・教師不信を煽る報道(一部の学校の隠蔽体質への不信が根拠ではあるが)、これらは結果的に保護者を学校不信や不安に陥れた。敢えて言うなら、この不安や不信はいじめへの過敏で過剰な反応を呼び起こし、学校の地道な取り組みや自浄努力を待てない状況に追い込んだ。私は、いじめに対する敏感な人権感覚は何よりも大切にしたいと思うが、不安や不信に基づいた過敏で過剰な反応は、真の解決に向かわないで、「とかげのしっぽ切り」のような短絡的「解決」ですませることを危惧している。いじめの背景にある子どもの人間関係のねじれや自尊感情の低さ、家庭的な背景など、もつれた糸の整理に時間をかけて取り組まざるを得ないこともある。