生活困窮相談から発見した知的障がいのある息子に対する暴力・虐待
母親の生活困窮相談から発見できた知的障がいのある息子に対する父親からの暴力・虐待
<相談のあらすじと対応のポイント>
- キーワード:養護者(父親、母親)による障がい者虐待(経済的、身体的)、母親と息子への家庭内暴力(DV)、母親の生活困窮
- 相談者:母親と次男からの相談
- 家庭状況:
母親(本人)50歳 別居(1人で居住)
息子(次男)28歳、父親50歳代後半(次男と父親で同居)
息子(長男)30歳 別居(1人で居住)
家庭状況の図
●相談の経過
- 近所の人から生活困窮している人が地域にいるとの相談が人権センターにあり、母親との面談を持ち、生活困窮の状況と夫によるDVの訴えを把握する。また、知的障がいのある次男に対する虐待の可能性が見えてきたため、次男とも面談をもち相談対応を行った。
●相談内容および生活歴
1.相談するまでの経過
- (1)母親
- 2年前に夫の暴力が嫌になり、着の身着のまま家を出ていき別居となる。別居後3か月は、友人宅を転々としていたが、生活費が無くなり、市社会福祉協議会にて相談を行う。そこで社会福祉協議会の支援により、社会貢献事業を利用し、転居費用を得て居住場所を確保する。
- 当初、弁当屋で働き生活していたが、人間関係から退職し、失業となったことにより生活困窮となる。その際、母親は生活保護申請を行うものの婚姻関係が続いていることと就労能力があることから、すぐの申請は下りなかった。その後、生活困窮の中、次男と生活をするようになる。
- (2)次男
- 小さいころから父親からの暴力を受けており、身体的虐待と自由がない生活状態であった。
- 母親が自宅を出ていってからは父親と2人暮らしの生活となり、家事を手伝うこともしていたが、母親が一人暮らしをするようになってからは、母親のところに身を寄せていた。
しかし、たまに父親宅で寝泊りするときもあり、その際に次男の障害年金を父親に使用されたり、身体的虐待を受けることもあった。 - 相談実施期間中に、父親により殴られたり蹴られたりした跡が次男の両腕にアザとなっているのを発見した。また、次男の障害年金10万円を父親が使用していることがわかった。
- 次男は父親を怖いと感じており、それまで父親宅に寝泊まりすることもあったが、今後は一緒に住みたくないとの意思をもっている。また、自分のお金を自分で管理したい気持ちがあり成年後見人をつけることは消極的である。今後の生活の場としてグループホームの入所を希望している。
2.家庭の状況
- (1)母親(相談者)
- 50歳。夫(父親)とは2年前から別居している。
- コミュニケーションと学力的な困難さがあり、対人関係が苦手である。
- 次男の障害者年金に頼って生活をしている。
- 子ども(相談者)
- 次男28歳。住まいは母親宅にいることが多いが、父親宅にも行ったり来たりしている。
- 中軽度の知的障がいがあり、療育手帳B1を所持。
- 動作は遅いが生活力はある。
- 障害者基礎年金2級を受給している。
- (3)父親
- 50歳代後半。現在、妻(母親)とは別居している。
- 次男が家にいる際には、暴力を振るうなど虐待をおこなっている。
- 次男の障害年金通帳を取り上げ、ギャンブルや飲食などに使用することもしばしばある。ギャンブル依存はなし
- (4)子ども
- 長兄30歳。一人で他府県に暮らしており、連絡がとれない状況である。
●対応
- まずは、近所の人からの相談を受け、相談員が直接、母親の家を訪問し、状況の確認を行ない、相談者との関係がスタートする。その後は、月に2回程度の来所のなかで相談の実施を行っていった。
- 母親の生活困窮支援については、世帯分離により生活保護の受給が可能となるとともに、地域就労支援センターにて就労プログラムの実施と人権センターでも就職のためのスキルアップ(履歴書の書き方等)などの指導をしている状況である。
- 相談実施の中で、地域就労支援センターと連携し就労訓練を実施するとともに、生活保護の利用支援を開始した。
- 別居した後の妻に対する夫からの暴力行為はなかったが、次男に対する暴力および障害年金の使用が明らかになったことから、人権センタースタッフが次男と一緒に警察へ相談し、対応の協力を依頼。警察同行のもと父親から通帳を回収し、暴力について指導を行う。
- 警察により次男の障害年金がある通帳等を父親から引き上げたが、父親は暴力については否定した。警察も緊急回避の必要性がないとの判断から、「障害者虐待防止法」の適用は見送りとなる。
- 次男に対しては、障害者相談支援センターにおいて、母親宅からグループホームへの移行を目指し、支援を受けるとともに、就労継続支援B型事業所のサービスを利用し、経済的安定を目指すこととなった。
●評価および今後課題
- 支援の対象として、相談者の母親、次男、そして父親とそれぞれがある。優先順位は、母親と次男であるが、今後の生活の安定を考えた際には、父親を含めて支援展開する必要があると思われる。
- この事例では、近所の人の相談からアウトリーチの姿勢で積極的に状況把握に努め、相談者との関係性を構築し、対応していることが評価される事例である。
- まず、母親の支援として、生活保護課および地域就労支援センターとの連携の中で、生活保護受給につなげている。また、次男に対してもすぐに警察に相談し、対応をおこなっている。
- 統計では、身体的虐待が障害者虐待の中で最も多い状況として示されているが、経済的虐待である障害年金の使用は、潜在的な虐待として最も多いものと考えられる。この状況は、母親も障害年金に頼って生活している状況であったため、「障害者虐待防止法」での経済的虐待にもあたる。
- 今回の事例は、警察との連携の中で迅速に対応されたものであるが、「障害者虐待防止法」の適用に関しては、基本は市町村での対応であるため、市町村及び地域の障害者相談支援センターとの連携も必要となってくる可能性がある事例といえる。
- また、次男の障害年金の管理についても本人の意向を尊重しながら支援を検討する必要があるため、成年後見人制度の利用だけではなく、日常生活自立支援事業なども利用の検討も考えられる。]
- 最後に、父親の支援として、経済的な自立や生活保護の受給といったことも視野に支援を考えることも忘れてはならない。DVや虐待といった状況が何かのきっかけから継続されていく可能性があるため、父親に対しても支援の実施ということを考える必要がある。
●連携が想定される資源
- 生活保護課
- コミュニティーソーシャルワーカー(CSW)
- 障害者相談支援センター
- 市障がい福祉課
- 警察
- 大阪後見支援センターまたは大阪司法書士会
- 市女性センター及び市DV担当課
- 再学習支援機関(団体)
- 地域就労支援センター
- OSAKAしごとフィールド
- 障害者就業・生活支援センター
- ハローワーク
- 弁護士
●利用が想定されるサービス
- 生活保護
- 就労訓練プログラム
- 障害者計画相談支援
- 障害者虐待防止法
- 成年後見人制度
- 日常生活自立支援サービス
- 就労継続支援(B型)
- 離婚調停
- グループホーム入居事業所