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具体的な人権相談事例

障がい児を抱える外国籍女性の子育ての悩みおよび生活困窮の相談

<相談のあらすじと対応のポイント>

  • キーワード:障がい児を育てる親の子育て不安、生活困窮
  • 相談者:女性(20代後半、外国籍、日本永住者)
  • 家庭状況:夫(30代後半、外国籍、日本永住者)
    子ども(長男8歳、長女4歳)
    ※女性、夫、子ども2人の4人家族
    ※長女に、障がいの傾向が見られる。
  • 障がい児の育児に不安がある。生活に困窮しており支援してほしい。

   家庭状況の図


●相談の経過

  • 相談者の近所の人から、市人権協会に、「障がいのある子どもを育てている外国籍の人(相談者)が子育てや生活に悩んでおり、心配である」との連絡があった。市人権協会から、近所の人を介して、相談に来るよう促したところ、本人が訪れた。

●家族の状況

  • (1)女性(相談者)
    • ①20代後半、外国籍、日本に住み12年の永住者。結婚して8年。日本語を話すのが難しい。熱心なキリスト教信者。
      ②日本に来てから清掃などの仕事の経験があるが、日本語がほとんど話せないことから、いずれも短期間就労となり、現在も定職に就いていない。
      ③子育てや本国の母のことを心配しており、常に神経質になっている。他人との関係づくりが苦手で、かつて職場の同僚とトラブルになっている。また、市が女性の応対のために用意した通訳者ともトラブルになっている。
      ④夫とは離婚したい気持ちが強く、早く別居したいと考えている。
  • (2)夫
    • ①30代後半、外国籍、日本に住んで15年以上経つ永住者。
      ②長年、部品工場で働いてきたが、近年欠勤が多くなり、勤務態度も悪くなったことから初回相談のひと月前に会社から解雇されている。
      ③ここ2、3年でギャンブルにはまっており、借金を抱える状況となっている。
      ④解雇と借金の問題があることから、相談者とけんかが絶えず、手を出すこともある。子どもには無関心であり、特に長女とは関わろうとしない。
  • (3)長男
    • 8歳、小学校2年生。障がいなし。
  • (4)長女
    • ①4歳、保育所等に通所していない。言語の遅れと強度の感覚過敏、こだわり行動があるようであり、知的障がいや発達障がい、自閉症などが疑われた。
      ②環境変化やわずかな刺激で興奮し、すぐにパニックになり、暴れまわって止まらないことから、相談者が制止できない状態であった。興奮時の対処がわからず、相談者は困惑している。

●相談内容

  • (1)長女の言語的な発達の遅れと感覚過敏やこだわり行動に、どのように対応してよいか分からず悩んでいる。
  • (2)夫が知らない間に借金を作っていたことから、けんかが多くなっており、別れたい。
  • (3)当面の生活が不安であるため、生活保護の申請を行いたい。

●対応

  • (1) 長女の育児に関して
    • ①初回相談時、長女の障がいを診断してもらうため、市発達支援課を訪れることを勧めたが、相談者は後ろ向きであった。そこで、まずは育児負担を軽減させるためにも、幼稚園か保育所に長女を預けることを提案した。相談者は、長時間の保育は難しいとの判断から、公立幼稚園に子どもを預けることを決断した。
    • ②その後、改めて市発達支援課を紹介した。同課のカウンセリングにおいて、臨床心理士が長女を自閉症と判断し、数ヶ月ごとに検査と発達相談を実施することとなった。次いで、障がい認定を受け、療育手帳B1を交付され、特別児童扶養手当も受給することとなった。
    • ③幼稚園に入園してからは、長女に、障がい児加配教員が付いているが、なかなか環境になじめず、毎朝の送りにも大変な苦労を伴っている。現在、相談者は、小学校の特別支援学級か支援学校のどちらに進学させるべきか悩んでいるところである。
  • (2) 生活困窮に関して
    • ①相談者は、一度、生活保護の申請を行っているが、夫婦ともに就労能力の不活用と判断され、受給決定はなされていない。そこで、初回相談時に、特別児童扶養手当や、コミュニティソーシャルワーカーと連携した緊急支援や緊急食糧支援などの活用により、生計を成り立たせるよう促した。
    • ②初回相談から2ヵ月後、2回目の相談の際、夫が借金を作って行方不明となるなど、貧困の状況が深刻になっていることが判明したため、再度、生活保護受給申請を行うべく支援を行った。具体的には、夫との別居と離婚調停申し立てを根拠に、世帯分離を前提とした保護申請を促した。しかし、夫が長男に渡した少しの小遣いが収入にあたるという理由で、世帯分離が認められず、保護は適用されなかった。
    • ③その後、相談者とともに市生活保護担当課へ通い、保護の必要性を訴え、最終的には保護に至ったが、保護適用まで2年を要することとなった。それまでの間、相談者は、特別児童扶養手当や教会の友人からの支援、不安定な労働収入により、どうにか生活をしていたが、精神的に疲労し、心療内科にも通うようになった。
    • ④生活保護受給後は、相談者は、「日本語教室」へ通学するなど就労準備を行っている。一時的に就労することもあるが、長く続かず、仕事を辞める度に、市生活保護担当課から、就労指導がなされている。

●評価および今後課題

  • (1)相談対応者が長年にわたり支援を行ってきた事例であり、その間、他者との関係づくりが苦手な相談者とよくコミュニケーションをとり、支援展開しているといえる。
     特に、母親への生活の安定として、就労支援や生活保護受給は、すぐに結果が出ない、長い取り組みが必要であったようである。
  • (2)生活保護制度では、世帯分離が難しい場合や就労能力を有している場合、すぐには保護の決定とならないことも多く、その間の生活の安定を図る支援をどのようにしていくのか、大きな課題となる。
     本事例のように、場合によっては相談者とともに行政機関を訪ね、何がハードルとなっているのかしっかりと把握することが重要である。
  • (3)また、子どもの障がいの認定についても根気強く対応している。外国籍の人に関わらず、障がい児を育てる親は、障がい受容の段階として、①ショック期、②否定・否認期、③悲しみ、怒りおよび不安期、④適応、⑤再起と5段階の心理的段階があるといわれている。
     すぐに障がい認定をすべきと周囲は考えても、親の障がい受容段階が整理できていないと、その作業は難しいものとなる。時間をかけてゆっくり親を見守ることも重要である。
     また、この障がいの受容段階では、慢性的に悲哀を抱える場合もあるため、常に相談対応者は親の思いを聞ける立場にいられるよう関係づくりをしておく必要がある。
     今後は、子どもの状況からさらなる専門的支援が必要になってくる可能性がある。現状定期的な臨床心理士による心理判定と心理相談、加配職員による幼稚園での対応となっているが、障がい児デイサービスや居宅介護サービスの利用など、障がいに特化した支援を考える必要があると思われる。


●連携が想定される資源

  • 生活保護課
  • 就労支援センター
  • ハローワーク
  • 障害者相談支援センター
  • 市町村区障害福祉課
  • 市町村社会福祉協議会
  • 幼稚園での加配職員
  • 心理士による定期的な訪問指導

●利用が想定されるサービス

  • 生活保護
  • 就労訓練プログラム
  • 障害者計画相談
  • 居宅介護サービス
  • 障がい児デイサービス
  • ファミリー・サポート事業