財団法人 大阪府人権協会
人権相談 人権に関するQ&A リレーエッセイ 人権インタビュー
home
 新着情報
 人権トピックス
 講座・イベント案内
 刊行物・書籍
 メールマガジン発行
 愛ネットニュース
 人権情報誌 そうぞう
 大阪府人権協会ニュース
 大阪まちづくり
プラットホーム
 リンク集
 組織・事業の概要
 大阪人権センター
 個人情報保護方針
 お問い合わせ


「大阪府人権協会・人権行政あり方検討会」報告
今後の「人権行政」のあり方と大阪府人権協会の役割について
2008年 8月 20日


検討会報告書PDF版(225KB)ダウンロード
 
HTML版 もくじ
T.なぜ、人権行政について整理する必要があるのか?
U.人権行政についての整理
V.大阪府人権協会の担うべき役割

T.なぜ、人権行政について整理する必要があるのか?

1.同和行政および人権行政を巡っていくつかの混乱が存在していること
(1)同和行政の転換と人権行政の創造へ
 2002年3月末をもって、1969年の「同和対策事業特別措置法」制定以来、名称を変えながらも30余年にわたって実施されてきた同和行政に関わる「特別措置法」が終わりました。そして、この終焉を大きな契機として、改めて「同和行政とは何か?」ということと同時に、「人権行政とは何か」が大きなテーマとなってきました。

(2)地域改善対策協議会の意見具申の提起
 これに先立って、1996年5月には、今後の同和行政に関わる基本方向を示した地域改善対策協議会の意見具申が出されています。その中では、次のような2つの重要な指摘がされています。
 その1つは、「今後とも国や地方公共団体はもとより、国民の一人一人が同和問題の解決に向けて主体的に努力していかなければならない。そのためには、基本的人権を保障された国民一人一人が、自分自身の課題として、同和問題を人権問題という本質から捉え、解決に向けて努力する必要がある。同和問題は過去の問題ではない。この問題の解決に向けた今後の取組みを人権にかかわるあらゆる問題の解決につなげいくという、広がりをもった現実の課題である。」との指摘です。
 ここで「地対協」意見具申が指摘した「同和問題を人権問題という本質から捉え、解決に向けて努力する必要がある。同和問題は過去の問題ではない。この問題の解決に向けた今後の取組みを人権にかかわるあらゆる問題の解決につなげいくという、広がりをもった現実の課題である。」とは、同和問題の解決を「特別な問題」、「行政外の行政」として狭く閉じこめるのではなく、常に「同和問題の中に現れた問題・課題はすべての人の人権課題につながっている」という認識に立つこと。だからこそ、「同和問題の解決は、すべての人の人権の確立に繋がっていくという広がりを持っている」ということであり、「同和問題(同和行政)と人権問題(人権行政)との関係」について、極めて明確にかつ積極的な方向性を提起していると言えます。
 もう1つは、「同対審答申は、『部落差別が現存するかぎりこの行政は積極的に推進されなければならない』と指摘しており、特別対策の終了、すなわち一般対策への移行が、同和問題の早期解決を目指す取組みの放棄を意味するものでないことは言うまでもない。一般対策移行後は、従来にも増して、行政が基本的人権の尊重という目標をしっかりと見据え、一部に立ち遅れのあることも視野に入れながら、地域の状況や事業の必要性の的確な把握に努め、真摯に施策を実施していく主体的な姿勢が求められる。」というものです。
 ここでも、「特別対策と一般対策の関係」について、今日的な「混乱」を予想していたかのように、「特別対策の終了、すなわち一般対策への移行が、同和問題の早期解決を目指す取組みの放棄を意味するものでないことは言うまでもない。」、「一般対策移行後は、従来にも増して、行政が基本的人権の尊重という目標をしっかりと見据え、(略)真摯に施策を実施していく主体的な姿勢が求められる。」と、明確に示しています。

(3)「同和行政と人権行政」についてのいくつかの「混乱」の存在
 ところが、「地対協」意見具申が指摘した「同和問題を人権問題という本質から捉える」、「一般対策による同和問題の解決」という根本的なテーマについて、これとは「似て非なる」捉え方がなされ、全国的にも、大阪府的にも少なからぬ「混乱」が生じています。
 その1つは、「同和対策事業に関わる法律がなくなったのだから、これからは同和行政(特別対策)ということではなく、広く人権行政(一般対策)ということで対応していけばよい。」といったものです。中には、「同和対策事業に関わる法律がなくなったのだから、もう同和とか同和行政とは言えない」といった極端なものまであります。
 しかし、言うまでもなく、「特別措置法」という法律はなくなりましたが、同和問題を解決するための法的根拠としては、まず日本国憲法がありますし、日本も批准している「国際人権規約」や「人種差別撤廃条約」等の国際条約、さらには「人権教育・啓発法」等があります。さらに付言すると、同和問題の解決をめざして取り組まれるのが同和行政であり、それは歴史的にも、1969年に「同和対策事業特別措置法」が制定されるずっと前から(戦前には、政府は「融和事業」といった形)実施されてきた事実があるということです。つまり、「法」の有無に関わらず、同和行政は「部落差別が現存するかぎりこの行政は積極的に推進されなければならない」ということです。
 もう1つは、「人権行政の範疇に同和問題の解決という課題も含まれているのだから、ことさら同和行政として展開する必要はない。」といったものです。しかし、この理屈でいけば、障がい者差別や女性差別、在日外国人に対する差別、児童虐待など、それぞれの差別問題や人権侵害の解決をめざした行政展開も、「人権行政として行えばいいのであって、ことさらにそれだけを取り上げてやる必要はない」ということになってしまいます。
 そして、何よりも重大なことは、こうした認識の結果として、同和行政(それのみならず人権行政)の停滞と後退といった状況が生まれてきたということです。
 また、ここでは人権行政が抽象的なものとして想定されていることです。人権行政という「具体的にどうするのか?」という実践的な分野での「人権」が語られているにもかかわらず、むしろ「イメージとしての人権」、「雰囲気としての人権」が漂っていることです。そのために「人権行政=人権啓発」という認識にとどまり、具体的な差別や人権侵害の事実に目を向けることなく、「人権を大切にしましょう」といったような「抽象的な、心がけ的な人権啓発」にとどまってしまっている状況もあります。 ここで重要なことは、「人権問題とは、部落差別や障がい者差別、女性差別、在日外国人に対する差別といったように常に具体的な問題であること。したがって、抽象的、一般的な人権問題はない」ということを改めて踏まえておくことだと思います。つまり、それは「『くだもの』という抽象的な『モノ』は存在せず、あるのは常にミカンやリンゴといった具体的な『物』である」というのと同じことだと言えます。

2.人権行政の創造と実践は緒についたばかりであること

 一方で、「人権行政とは何か」というテーマについては、実は行政的にも確たるものができあがっているわけではありません。実は、人権行政について本格的に語られるようになったは近年のことです。1996年の地域改善対策協議会の意見具申も1つの契機となって人権行政が語られるようになったのであり、それまでは同和問題や障がい者問題、女性問題等、それぞれ個別の課題・分野に関わる行政として展開されており、人権行政として語られたり、意識されたりすることはほとんどなかったと言えます。

(1)「人権行政あり方検討会」の設置
 そこで、2004年9月に大阪府が中心になり、大阪府人権協会等も参画して「人権行政あり方検討会」を設置し、2006年3月に「『人権行政』について−中間とりまとめ−」が出されました。そして、「まとめ」の中では「今後、さらに『人権行政』の概念について議論を重ね、そこから浮かび上がってくる課題を一つひとつクリアすることにより、『人権行政』の目的の実現、ひいては『すべての人の人権が尊重される社会の実現』をめざしたい」と述べています。
 このように大阪府に限らず、全国的に見ても、人権行政は緒についたばかりです。したがって、大阪府においてもこれからその創造と実践が求められている段階だと言えます。

(2)「財政再建プログラム」の中で改めて問われた「人権行政とは何か?」
 一方、こうした状況の中で本年2月6日に橋下知事が就任し、同18日に「大阪府財政非常事態宣言」がされ、4月11日には「財政再建プログラム試案」(以下、PT試案)、6月5日には「大阪維新プログラム案」(「財政再建プログラム案」含む)が公表されました。こうした一連の論議の中で、「一般施策と言っても、府民から見て特別対策と受け取られるものについては、一切認めない」、「人権行政について、府民には分かりにくい」、「人権相談事業等のコストが高すぎる」等の指摘がなされました。

3.論議を深めるための共通の「指標」が必要

 そこで、できるだけ府民のみなさんをはじめ、多くの人に分かりやすいものにし、「無用な誤解や論議」を避けるためにも、「大阪府人権協会として考える人権行政とはこうだ」、「私たちはこれに基づいて取り組みを進めている」という、今後の府民や行政との共通の「指標」が必要だと考えました。
4.「まとめ」の位置づけ

 今回、大阪府人権協会としてまとめる「人権行政とは何か?」については、議論を進めていくうえでの「たたき台」・「指標」にすぎません。今後とも、関係行政や関係団体および府民のみなさんからの意見等をいただきながら、適時必要に応じて補強し、さらに内容を深化・充実させていきたいと考えています。

U.人権行政についての整理

1.人権行政とは何か?
私たちは、人権行政とは「すべての人々が違いを認め合い、自らの意志によって自らの生き方や幸福を追求していくことができるような、基本的人権の尊重の実現をめざして展開される行政」だと考えています。
 言うまでもなく、人権とは、国際的には1789年のフランス革命時の「フランス人権宣言」に始まり、今日の国際的な人権の考え方の土台となっている1948年の「世界人権宣言」に見られるように、時代とともに深化していくものです。
 したがって、私たちが人権行政と言う時の「人権」とは何か?という共通した理解・認識が必要となってきます。そうしないと、人権行政という言葉や概念が「同床異夢」的に、あるいはご都合主義的に使われ、混乱や停滞を招く結果になります。
 そこで、大阪府人権協会としては、「人権行政とは、法に示された人権の実現をめざす行政」と考えます。そして、この「法に示された人権」とは、国内法では、まず憲法であり、法律や地方自治体の条例です。また、国際的には、世界人権宣言をもとにした国際人権規約や人種差別撤廃条約等の国際人権諸条約に規定された内容であると考えています。

2.人権行政のめざす「3つの基本目標」

 こうした認識のもと、私たちは人権行政がめざすべき「基本目標」として、次の点を考えています。
 第1には、はじめに「法や施策ありき」ではなく、差別や人権侵害を被っている当事者の立場や状況を踏まえつつ、当事者との協働によって対応策や施策を構築するという姿勢がまず重要であると考えます。
 第2には、差別や人権侵害によって壊された「人と人との豊かな関係づくり」をめざすことです。今日的な人権課題が「心身の障がい・不安」、「社会的排除や摩擦」、「社会的孤立や孤独」といった問題が重複・複合化していることを踏まえ、こうした課題を抱える人たちを無視したり排除することなく、社会の大切な構成員として包摂する「インクルーシブ」な地域や社会づくりをめざすことです。
 第3には、単に「格差是正」や「救貧対策」にとどまることなく、1つ1つの施策や支援を通じて「誇りを持って生きる一人ひとりの自立支援」をめざすことです。
 一般に、人権行政とは「一人ひとりの人権を大切にする」、「人権という観点からすべてを見つめる」という「人権を軸とした社会の創造」をめざすことであると言われます。すなわち、ここで言う「人権を大切にする」社会とは、すべての人が法的な権利を享受できるというだけでなく、社会の構成員として承認され、包摂された存在であることを問うています。また、このことを踏まえ、個人の意欲や能力が発揮され、社会との豊かなつながりを創造する社会、これこそ「人権を軸とした社会の創造」だと考えます。

3.人権行政推進にあたっての「3つの基本視点」と「3つの具体的課題」

 そして、人権行政を推進する際の基本的視点として、次の視点が必要だと考えています。
 第1には、「人権行政の出発点、前提として差別や人権侵害の実態を踏まえること」です。「調査なくして政策・施策なし」と言われるように、常に、政策立案や施策の検証を行うためには、実態把握を行う必要があります。そして、定期的な実態調査の実施、行政データや相談事業、ヒアリング調査等を通じた実態把握等、実施時期や実施方法・内容についても工夫が必要です。
 第2には、「差別や人権に関わる当事者の参画とエンパワーメントを図ること」です。人権行政の推進にあたっては、差別や人権に関わる当事者の参画とエンパワーメントを図ることが不可欠です。そのためには、単に「施策の対象者」としてではなく、「人権施策の推進者・パートナー」として、人権政策立案の段階から、施策の実施、点検まで、常に参画を図ることが必要だと考えます。
 第3には、「官と民の協働の力によって進めていくこと」です。多様な実態や新たな人権課題の顕在化等、既存の行政施策や行政の力だけでは対応できないこともたくさんあります。したがって、当事者団体や専門機関、NPO、地域住民等、「民」の力を「不可欠な構成員(パートナーシップ)」として推進していく体制・システムの構築が必要です。

4.人権行政推進における「第三者機関」の必要性と役割

 最後に、人権行政の推進に関わっては、次のような観点・理由から大阪府人権協会のような「行政機関とは別の機関・組織が必要である」と考えています。
 第1には、差別問題や人権侵害の解決のためには、今日的な問題である「孤立や排除・摩擦」といった点を踏まえ、被差別・社会的マイノリティの人たち自身の組織化と社会参加(行政参加等を含む)の促進が不可欠だと考えていますが、この点について、行政が「当事者を限定する」ことや「当事者を組織する」といったことには無理があるし、困難であるからです。
 第2には、人権に関わる課題は多様であり、今まで想定されていなかった、あるいは社会的に認知されていなかったような「新たな課題」が次々に生起してきたりしますが、これに対して既存の制度や施策だけでは解決できないことも多くあります。そのためには、どうしても「官と民の協働」で取り組む必要であるからです。
 第3には、人権問題については専門性やノウハウの蓄積が求められますが、行政(職員)では専門性等が継続されにくいという点があるということです。
 第4には、人権行政の内容は、時代とともに、あるいは具体的な実態に対応して深化していくものですが、こうした人権行政の創造は、行政のみでできるものではなく、被差別・社会的マイノリティの当事者および当事者組織の声を反映することが不可欠であり、そのためには、当事者(組織)と行政とを繋ぐことができる「第三者機関」の存在が必要になってくるからです。
 第5には、地方自治体自身も、ある意味では権力的な要素を含む行政機関であり、人権を侵害する可能性があることを踏まえる必要があります。この点からも、「国家機関(国内人権機関)の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」。1993年12月国連総会決議 )で謳われた観点を踏まえ、「被害者」の立場に立って問題の解決にあたる「第三者機関」の存在が必要だということです。

V.大阪府人権協会の担うべき役割

 これまで整理してきた「人権行政とは何か?」を踏まえながら、この中で大阪府人権協会が担うべき役割について明らかにしていきたいと思います。

1.大阪府人権協会の位置づけ・性格について

 第1には、これまでの歴史的経過等を踏まえ、引き続き、大阪府や市町村の「人権行政の推進に協力する機関」としての役割を発揮できるよう機能強化をめざします。特に、今日的な状況を踏まえ、市町村における人権課題の解決に向け、市町村との連携を強化し、人権協会のノウハウやネットワークを活かした支援を行います。
 第2には、一口に人権課題といっても、様々な人権課題が存在しています。そのすべてについて大阪府人権協会が取り組める訳ではありません。したがって、大阪府人権協会は、人権課題の中でも特に、被差別・社会的マイノリティ(ここでは、社会的に排除や孤立等を強いられている人々を指す)に関わる「当事者の行政参加・社会参加等を促進する機関」をめざします。
 第3には、こうした当事者の立場に立ちつつ、当事者と行政をつなぐ「第三者機関としての公益法人」たり得ることをめざします。

2.大阪府人権協会の担うべき役割について

 大阪府人権協会の担うべき役割は、被差別・社会的マイノリティに関わる「当事者の行政参加・社会参加等を促進する」ことですが、その中でも、次の課題に重点的に取り組んでいきます。
 第1には、何よりもこれまでの歴史と成果等を踏まえ、「同和問題の解決」に取り組んでいきます。
 第2には、被差別・社会的マイノリティに関わる課題の中でも、「制度がないところをやる」、「今日的な(予兆される)新たな課題に先駆的に取り組んでいく」、「社会的認知や当事者の取り組み等が弱い課題について取り組んでいく」ことを基本視点にして取り組んでいきます。
 第3には、既に当事者が組織化され、取り組みが進められている既存の反差別・人権の当事者組織については、その独自性と自主性を尊重しながら、ネットワーク型で連携・協働して取り組んでいきます。
 第4には、被差別・社会的マイノリティの当事者の行政参加・社会参加等をできるだけ多く増やすだけでなく、その参加の質をもまた問う取り組みを重視します。
 第5に、これとかかわって、人権行政の推進にあたっては、「人権相談事業は何を持って効果があったと評価するのか?」といった、人権施策に関わる「評価軸(評価システム)」づくりに取り組んでいきます。今日、財政問題とも関わって「対費用効果(コスト論)」が問われていますが、単に数や量だけでなく、その中身や質を含めて総合的・客観的に評価できるような「評価軸」をつくり、これを広く公表し、これを基にしながら、「評価」と「改善」ができるようにしていく必要があります。
 
このページのトップへもどる

大阪府人権協会トップページ