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産経新聞大阪府内版掲載【2008年3月30日(日)朝刊】
〜 「自己責任」ですませる社会にNO!を。〜

雨宮処凜(あまみや・かりん)さん雨宮処凜(あまみや・かりん)さん
1975年生まれ。現在は生活も職も不安定さに晒される人びと(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。著書に『生き地獄天国』『右翼と左翼はどうちがう?』『ワーキングプアの反撃』(共著)など。

感情を押し殺すことだけに集中していた
 小学校時代、アトピーの症状がひどかった時に「汚い」と言われたのが、いじめの始まりでした。「汚い私は元気で明るくしていちゃいけない、目立っちゃいけない」と萎縮していきました。
 中学生になると、給食にゴミを入れられたり制服を脱がされたりと、いじめは過激で集団的になりました。つらかったですが、親に言うなんてとても考えられませんでした。3人きょうだいの長女として「いい子」であることを親から強く求められていたので、いじめを受けているなんて恥ずかしくて言えなかったんです。先生も「いじめなんて面倒くさい問題に関わりたくない」という雰囲気で「この人に相談してもろくなことにはならない」と判断しました。
 誰にも救いを求められない状況のなかで、いじめられていることについてちょっとでも考え込めば絶望するしかありません。つらくて「死にたい、死にたい」と思ってしまう。だからとにかく一切ものを考えないようにしていました。頭のなかでずっと九九をとなえたり、歌ったりするんです。表面的にはただ黙っているだけなんですけど、頭のなかは感情を殺し、何も考えないようにすることに必死でした。

いじめから解放され、爆発した感情
 それでも完全に感情をコントロールすることはできませんでした。突然、叫びそうになったりするんです。そんな時はコンパスの針を自分の手に刺して気を紛らわせていました。
 学校へは通い続けました。「中学に行かなければ高校や大学へ行けない、就職もできない。社会のレールから外れてしまう」という恐怖感がすごく大きかったんです。
 高校入学を機に、いじめていた人たちと離れることができました。すると、それまでの強い緊張が一気に解け、押し殺していた感情が一気に爆発しました。悔しさや情けなさ、「なんで私がいじめられなきゃいけなかったんだ」という強い怒りが次から次へとあふれ出し、自分でもどうしようもありません。それからビジュアル系バンドの追っかけを始め、家出を繰り返し、リストカットなどの自傷行為もするようになりました。
 精神的な苦しさに比べれば、肉体的な苦しさはどうにでもなります。逆に、肉体を痛めつけることで心の痛みをごまかすことができるんです。自分が苦しいことを誰かに知ってほしいという気持ちもありました。
  そんな私に、周囲の大人は怒ったり説教したりしました。だけど誰よりも「このままじゃいけない」と思っていたのは、私自身だったんです。3年間奪われ続けたもの――感情や自尊心――は取り戻すのにも3年かかります。自分の心や体を痛めつけて、痛みを感じながら・・・。そういうこともわかってほしかったですね。

「自己責任」という暴力が蔓延する社会
 高校を卒業した後も、自分の居場所や「やりたいこと」を求めてさまよいました。今、非正規雇用で働く人やニート、ひきこもり、母子家庭など社会の中心から排除されている人たちとともに「反・貧困」を掲げた活動に取り組んでいます。それぞれ、自分の努力とは関係なく、非人間的な扱いを受け、家や仕事をなくしたりしています。人を道具として扱い、安く使い捨てるような企業に対してではなく、使い捨てられた人に「自己責任だ」と言う社会はとても暴力的です。社会全体に「いじめの構造」が広がっているように見えます。
 子どもや若者に対して、「困難は乗り越えるもの」「覇気や向上心がない」「我々の若い頃はもっと大変だった」などと言う人がいます。確かに昔に比べて生き方の選択肢が広がり、多様な価値観が認められているように見えます。けれども実は「自分が選んだんだから、結果もすべて自分で引き受けろ」というメッセージが含まれており、一度レールから外れたら二度と戻れない仕組みになっているんです。
  社会にはいろいろな人がいます。価値観も性格も生き方もさまざまです。だけど、どんな人も排除されることなく「そこにいるだけでオッケー」と言える社会が、みんなにとっても生きやすい社会なのではないでしょうか。そんな社会を一緒につくっていきませんか?  


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