財団法人 大阪府人権協会
人権相談 人権に関するQ&A リレーエッセイ 人権インタビュー
home
 新着情報
 人権トピックス
 講座・イベント案内
 刊行物・書籍

人権協会からの発信

 メールマガジン発行
 愛ネットニュース
 人権情報誌 そうぞう
 大阪府人権協会ニュース
 大阪まちづくり
プラットホーム
 リンク集
 組織・事業の概要
 大阪人権センター
 個人情報保護方針
 お問い合わせ


     
「特別措置法」終了後の同和問題解決の取り組みの方向について
村井 茂(むらい しげる)さん
 バックナンバーはこちら
同和・人権問題の新たな展開
 村井茂さんの写真人権協会は、これからの新たな取り組みに対応した協会として発展していかなければなりません。「特措法」以後の同和行政というのは、新しい段階、時代に対応した質的に発展したものでなくてはなりません。同和地区の実態は、特に住環境面においては、かつての実態に比べ大きく改善されてきているといえます。しかし、今日なお残された課題があり、大阪での2000年調査でも明らかになったように、社会矛盾が同和地区に集中的に現れ、新たな格差や差別が生じてきている現実があります。とりわけ差別意識と差別事件というのは完全に払拭されていません。多くの人は、33年も特別措置を行ってきたのだからかなり成果をあげている、だからなくすのは極端としても縮小して残そうという考えになりがちなのです。人権協会のめざすところは、そういう考えではなく、また、今までどおりの事業を行えばよいという継続的な発想でもなく、新しい人権の時代をつくるということなのです。一般施策で同和行政を行うということは、これから本格的に人権行政を創造し、府民の人権が守られる施策や行政の仕組みを作り上げていくことであり、それを先駆的に行ってきた同和行政が先頭に立って行うことです。その中に、これからの同和問題の最終的な段階の取り組みが柱になり、部落差別の撤廃ということに展望を見出し、新しい質的な取り組みを発展させていくことが大切です。
これまで努力してきた同和問題の取り組みの成果を後退させないために、「特別措置法」終了以降はどういう方向で取り組んでいくのか、これは非常に重要なことです。市民レベルでも行政でも、様々な分野で、これからの人権尊重社会をめざす新しい取り組みが行われてきています。行政も、府民の人権をしっかり守っていく仕組みづくりや事業をしっかりやっていくことが求められています。その中で引き続き同和問題解決への取り組みをしっかり実施して、この問題の根本的な解決を現実のものとしたい。単に、手法としての特別措置が終わったから同和問題の終わりを意味するのではないことは、国や地方レベルでも基本文書などを見れば、明確にされていると思います。しかし、それは今ある一般対策で「普通」にやればよいとの範囲にとどまるなら、結局は同和行政終了論、あるいは縮小論に限りなく近いのです。人権協会では、発展的な中身を創造して実践し、新しい仕組み作りと事業展開をしなければならないと考えています。
「特別措置法」時代の運動と行政を総括
 <成果>
 さて、同和問題への取り組みの新しい段階を考えるとき、これまでの部落解放運動や、行政が行ってきた取り組みを総括する必要があります。33年間も特別措置という、ある意味で強力な法律や財政の裏付で対策事業を行ってきたにも関わらず、成果をあげてこなかった面については、同じ手法を継続するだけではだめだということを感じています。  まず、これまでの成果についてですが、一つは、部落差別の撤廃は、行政責任であるということを定着させました。そして、1969年に「同和対策事業特別措置法」を制定させ、法律に裏付けられた事業予算が確保されたり、同和対策室といった部署が行政の中に生まれて、行政の体制が整備されました。
 二つ目は、差別の非合理性の認識が広がったことです。誤った起源説など古い形の非合理な被差別部落への偏見がかつてに比べかなり取り去られました。
 三つ目は、これは非常に重視しなければならないと思っているのですが、部落問題に取り組む人の輪の広がりがあります。同和行政が開始されるまで、部落解放運動が広がっていくまでは、被差別部落でも一部の人たちによる取り組みでした。それが部落ぐるみ、ひいてはいろんな、労働組合から始まって市民団体、国民運動といわれるところまで広がっていきました。それだけではなく障害者の人権や、在日外国人の人権、また女性問題など、差別・人権の問題全般に対し、部落解放運動やその成果としての同和行政は、非常に大きな影響を与えました。
 四つ目は、被差別部落出身者、つまり被差別当事者の自信や誇りを回復した点だと思います。同和行政が本格的に始まる以前は、やはりこの問題に触れられるのは嫌で、非常にしんどい問題で隠したいとか、あきらめがありました。世間の「寝た子を起こすな論」と、被差別部落の側にも「寝た子を起こすな意識」が根強くありました。今日、エンパワーメントというのが注目されていますが、それと反対の状態にあって自己の内に内的な抑圧を強く生じさせている状態にありました。そういうものがエンパワーして当事者が自信と誇りを回復したという点は非常に大きな成果です。
最後に一つ、次の点も私は強調したいのですが、部落解放運動は、わが国の福祉や教育、労働等に関する人権施策のあり方にもかなりの影響を与えたのではないかと思います。たとえば義務教育については、部落の子どもたちが「差別と貧困」の生活のなかで教科書を買えない、給食費を払えないという問題がありました。部落解放運動は、義務教育無償化闘争として運動を行い突破口を開きましたが、後に小中学校の教科書は全ての子どもたちに支給されるようになりました。また、奨学金の問題でも、特別措置での事業はなくなることとなりましたが、解放奨学金制度の廃止、一般施策への移行に向けた取り組みのなかで、一般奨学金の制度改善、底上げを実現してきています。あるいは労働環境では、最低賃金を引き上げる、これは部落解放運動が大きな役割を果たしました。同和地区では、臨時、社外、パートの労働者など、非常に賃金の低い労働者が多くいたということがありますし…。特に女性に低賃金の人たちが多い。大阪で全国一の最低賃金制を勝ち取ったことは、わが国の部落内外の、多くのこうした労働者の労働条件改善の前進へとつながったと考えます。それから福祉施策もそうです。同和行政と福祉行政というのは強い結びつきがあります。施策の水準を引き上げていくのに、部落解放運動や同和行政が大きな役割を果たし、影響を与えました。これも国民の方に知ってもらいたい成果です。被差別の人たちの権利を擁護し、生活を守ることは、全ての人びとの人権を守る施策の引き上げにもなりました。
<残された課題>
 次に残された課題ですが、いままでの特措法時代の同和行政がなかなか突破できなかった課題、あるいは新しい課題が出てきています。今後を考えるとき、残された課題を認識し、それを解決できる次元の同和行政や新しい運動をしていかなければなりません。
 その一つは、約1000部落といわれる未指定地区を残してしまったことです。特措法時代は、特別措置を実施する地域を決めなければならないのですが、手付かずの地区を、33年間法律があったにも関わらず残してしまいました。
二つ目は、その地区内改善の枠内の特別措置で取り組んできたことからくる、諸問題を生み出したということがあります。その代表格が「ねたみ差別」に代表される問題です。特別措置は、差別の結果の実態を改善する事業でしたから、狭い道路を広くしたり、下水道整備や老朽化住宅を除去して公共住宅を建てるなど住環境面はかなり進みました。しかし、特定の地区を線引いて特別財源での事業ですから、そこには、なぜ地区だけが「優遇」されるのかというねたみ差別意識が起こってきます。そして、「ねたみ差別」により部落内外に新たな溝ができました。特別措置事業の捉え方、認識については啓発の不十分さもありますが、そのような溝が今日までなかなか埋まっていないのです。現在もなお「ねたみ差別意識が強い状況にあり、特別措置がなくなった今日でも意識調査結果にはそのことが顕著に出ています。
三つ目は、自立支援の視点を欠落させた救貧対策的措置の長期化による行政依存的弊害という問題です。施策が、自立支援の仕組みや条件を整備して、本人自身が力をつけていくための措置であればいいのですが、そうではなく一律・補償的、対症療法的なものになりがちでなかったかということです。
 四つ目は、本来同和行政は日本の社会から部落差別をなくすための行政なのです。ところが地区指定して特別措置を打つという同和行政は、同和対策審議会答申(昭40年)がしめした幅広い同和行政の定義を矮小化し、差別撤廃行政ではなくて、地域改善対策的な行政という非常に狭いものになってしまいました。要は同和地区指定して同和地区を改善すること、同和地区の人に若干生活支援を含めて、特別な個人給付的施策を打つことが同和行政だということで、同和行政の概念が非常に矮小化されるきらいがありました。結局、手法に引きずられ、同和行政そのものの定義を実際的には狭めて捉えがちになった結果、部落差別をなくすというのが目的ではなく、部落を改善するのが目的になってしまいます。本来、施策の対象は被差別部落だけではなくて社会全体であるべきです。なぜなら、差別は社会にあるからです。特別措置事業中心の同和行政が長く続くと、みんなが同和行政はあの人たちのために、同和教育というのは同和地区や地区の子どもだけを対象にあれこれ対策するものというように、矮小化してとらえてしまいます。こういうことが残された課題として考えねばならない点です。
 本年3月末、特措法が終了しましたが、同和行政は終わりではないかという声が聞かれます。このように、同和行政の定義が矮小化されると、特別措置を終わるのなら、これからは一般行政と呼んだらいい、同和行政と呼ばなくていいではないかという意見が出てきます。しかし、部落差別を日本社会からなくすという普遍的で大きなテーマが同和行政です。同和地区と一般地区の格差を是正することが目的になってしまうと、同和教育は同和地区だけでよいという考えになってしまい、社会から差別を撤廃することはできないでしょう。そうした考え方は、「特措法」がなくなれば、同和地区の課題への対応を否定しようという考え方にもつながっていきます。日本の社会から部落差別をなくすためには、それこそ北海道から沖縄まで同和行政・同和教育は必要なのです。わが国全体として、人権行政の本格的実施、人権教育・啓発活動の全面展開、その重要な柱として同和行政・教育の新たな時代に対応した展開が必要です。
 最後になりましたが、これまでの同和行政は、住環境面での改善が中心で、本来の自主解放にとって重要な教育とか産業や労働に関する施策が、相対的に弱かったのではないかという点も確認しておかなければなりません。また、差別意識・差別事件の問題については、十分成果を上げているとはいえない状況にあると私は思います。
制度やシステムに対する取り組みの強化を
 村井茂さんの写真 同和地区は良くなったから、これからは地区外の差別意識が問題だという人が多いのですが、まだまだ教育や労働、産業、それから意識の問題、地区の人たちの被差別体験などのソフト面の問題は、長引く不況の影響もありさらに厳しくなっているといえます。これまでの同和地区対策が成果をあげたのは、それはハード面が中心でソフト面はまだまだ相対的に弱いのです。先に述べたように、さらに差別意識や差別事件についてはこれまでの同和行政はあまり成果をあげているとはいえません。差別の結果に対する取り組みに比べて、差別を生み出している原因に迫る取り組みが弱かったのではないかと思います。具体的には、制度とかシステムに対する取り組みが弱かったという反省があります。部落解放運動(指導部)は、かなり前からこの反省にたって幅広い国民運動を組織してきていますが、新しい人権・同和行政の方針や制度・システム等の確立はこれからだと思います。
 例えば交通事故の問題を例にとれば、怪我をしている被害者への対処を先に行うのは当たり前ですが、それで終わってはいけません。事故が起こった原因を詳しく分析して、加害者責任を追及するとか、被害者の生み出されやすい状態を放置していれば、また被害者が生まれるのですから、事故の起こりにくい環境を作らなければなりません。部落差別では、差別身元調査が平気で行われている中で、就職差別や結婚差別の反対といっても、悪質な差別を禁止する、あるいは規制する制度を作らなければ、啓発だけでは不十分です。差別が起きたときだけ、結果対応で行政も取り組みますといったところが根本的な解決にはならず、そういうことをもともと生み出しにくい社会の意識や制度を作っていかなければなりません。人権の「予防」(教育啓発、差別行為の規制など)、「支援」(相談体制の整備及び支援機関・施策の整備など)、「救済」(人権侵害被害者の速やかな保護救済)のシステムをしっかりと確立することが必要です。
 基本的人権の尊重は、憲法の3大柱の一つであり、ご存じのように第14条にはすべて国民は法の下に平等であって、差別されないということが入っています。しかしながら、日本社会の人権尊重の取り組みは、現実の差別をなくすための法律の整備、人権擁護の実効的機関の設置などの、制度やシステムに対する取り組みは弱かったのです。これまでは障害者の問題にしろ、いろんな問題で差別されてる弱い立場にある人に、あまりにも気の毒な状態ならそれを福祉という形でやりましょうということでした。昨今、この福祉の問題では、人権という視点に立った福祉にならないといけないというように変わってきました。ですから、同和問題解決も被害者対策先行は大事で、合理的なことですから、これを踏まえつつ、被害者を真に救済すること、そしてそれにとどまらず、被害者を再び生み出さないため、その原因に切り込んだ取り組みを行っていく時代なのです。そのことが結局は国民全体の人権を守るシステムを作っていくことと結びついていくでしょう。
 今差別だけではなく、子どもの虐待やDVなどさまざまな人権侵害が起こっています。ひどい実態が出てきたときには実効的な対応を迫られます。現実に深刻な被害者の実態が多くあるのに、まだまだ救済するシステムや防止する制度が弱いのです。
 悲劇を生み出さないようなシステム、それによって万一悲劇が生まれたときにそれを救済するしっかりとしたシステムの確立が早急に必要なのです。
人権のネットワークをつくる
  ですから、これまでの成果をさらに発展させながら、残る課題に対応できる段階の取り組みを、われわれ人権協会もしっかりいろいろな機関・団体等と一緒になって行っていきたいと考えています。今日、さまざまな人権団体、NPO・NGOと言われる組織、行政機関はもとより様々の市民団体・グル−プの取り組みがありますが、そういう人たちと連携してネットワークを作ってく努力をしています。先日、人権相談に取り組んでいる行政機関、専門機関、それからそういうNPOの人たちと連絡会を作ろうということで、大阪府の人権室と人権協会で呼びかけさせていただいて、おかげで163団体・機関が一同に介しまして結成式をしました。それぞれのグループがそれぞれの取り組みをしていていいものを持っています。その蓄積を共有化して、府民のさまざまな人権相談に応えるため、お互いが持っている力をさらに活かし高めるネットワークにしようとしています。我々だけでできることはそんなに大きくありません。人権協会では本部自身の職員は20人もいませんから、やはり府民の方で、いろいろな実践をされている人たちとのネットワークを広げていきたい。そういう意味で、行政では人権行政を創造していく、府民的には人権ネットワーク作りを行い、一緒になって全体の輪を広げていく、その輪の中心になって役割を果たせないかなと思っています。
新たな人権行政の創造
  今日、これまでの同和行政の中でつくられた隣保館(人権センタ−)を活用し人権相談が行われています。また、同和地区に同和事業促進地区協議会というものがありますが、今年度から人権の地域協議会というかたちで発展改組して各地でスタ−トしています。このような同和地区を拠点とした人権センターが、同和地区の人だけの対応ではなくて、地域周辺を含めた人たちの自立支援センター機能、同和地区内外の交流・協働を促進するコミュニティーセンター機能、それから人権啓発生涯学習機能、こういう3つの機能を持つ人権センターとして、名称も新たにして、人権施策の拠点施設としてさらに発展させようということで、取り組みがすすんでいます。これからは特別措置の手法や対象という狭い枠、同和行政の目的の矮小化を打破する時代だと思います。「特措法」以後ということを積極的に捉える、そのために新たな発想で打って出ようということです。もちろん、私たちは今の状況を楽観視しているわけではありません、現実には地区の生活環境は依然厳しい状況があります。ですが、現に「特措法」時代は終了したのですから、特別措置継続論から脱して、むしろ部落差別を根本的になくす、これからの段階の同和行政の方向を示さなければなりません。そういう段階が来ているし、そうでないと「部落差別が現存する限りこの行政は積極的に推進されなければならない」と内閣同和対策審議会答申が訴えた、同和行政の発展は難しいでしょう。
 これからの同和行政の発展には人権行政の本格的実施ということが問題になってきます。その中に同和問題の解決ということをあらためて重要な柱に据え、そして、国民の人権を守るシステムを整備し、人権施策を積極的に推進するべきです。同和問題解決が特別措置手法に封じ込まれている間は、多くの成果はあったものの、差別をなくす目的を達成できていません。一方、一般施策で同和問題の解決への取り組みを考えると、一般施策は使い勝手が悪い、そこに問題点がたくさんあるという声が当然あります。改善・創造、新たな制度、システムの確立の視点を抜きにして、一般施策活用型の取り組みは、問題点を多く持っていることは事実です。しかし、一般施策の不十分なところを改善していくため被差別部落内外の人が一緒に考えていくことが非常にプラスの動きとして捉えられます。一般施策の積極活用は、@一般施策の改善、レベルアップの追求A同和地区内外住民の連帯行動の促進B個々のニ−ズに応じた自立支援型、奨励型への転換C同和対策事業という狭い枠からはみ出していくD施策のバラエティと当事者の選択権の確保E「一人ひとりの生活や人生に焦点を当てた観点での取り組み」「差別の現実把握の豊かさ」が要求される――といった点がでてくるし、こういう視点こそこれからの重要な点です。
2000年度大阪府実態調査
  大阪では、2000年に総合的な実態調査を行いました。同和地区住民の意識調査、府民の意識調査、同和地区住民の生活の実態調査、被差別体験の調査、差別事件の調査、過去のいろいろな調査の集約、それから地区概況調査、事業実績調査という8種類の調査なので報告書だけでもすごい量になります。一言二言では申し上げにくいのですが、たとえば同和地区の意識調査では、差別の体験をしたことがありますかという質問に対して、28.1%の人があると答えています。そのうち過去10年間のうちにあると答えた人は4割ぐらいいました。これは決して古い体験ではないのです。それから同和地区の人と地区外の人の結婚というのは増加しているのですが、その人たちに結婚差別体験があったか聞くと24.7%の人があったと答えています。また結婚していない人に聞くと、結婚しようと思っていた相手はいたけれども破談になったという人が17.4%います。その破談経験がある人のうちの3割を超える人は部落差別が関係したために破談したと答えているのです。結婚まで進みかけていたのに破談になった人のうち、31.8%は自分が同和地区出身者だということで破談になったとしています。
 それから府民の意識なのですが、例えば8割以上の人が被差別部落と同和地区の存在を知っています。だから「寝た子を起こすな」というのはナンセンスなのです。知らさなければわからないというのはウソで、実際はほとんどの人が知っているのです。しかも義務教育が終わる頃にはすでに知っている人が多数なのです。ただ問題は知っている内容なのですが、非常にマイナスイメージで知らされていることが多いのです。だから正しく教えるという方法しかありません。その府民の意識にもかかわらず、あまり関わらないほうがいいと思っている人が36.7%ですから、まだ同和問題に対して忌避意識が強いのです。
「同和地区の人たちは、日常生活で仲間はずれにされたりすることがあると思う」と答えた人が41.6%、また、家やマンションを購入するときに同和地区を避けると答えた人が38.1%で4割近くになります。府民の6〜7割の人が、今日もなお部落差別があると答えています。だから府民も部落差別がなくなったとは思ってないのです。この事実を直視しないわけにはいきません。
この実態調査で分かったことですが、将来差別をなくしていけるという明るい展望を見出すこともできました。寝た子を起こすなの方がいい、同和教育をしないほうがいいという間違った考え方も相変らず高いのですが、一方で、同和地区の人も地区外の人にも差別をなくしていくための積極的な姿勢が見られる回答があります。それは正しい知識の同和教育や啓発をしっかりやっていくべきであるという解答と、同和地区の人とそうでない人がもっと交流するべきである、一緒になって人権の街づくりを進めていくという、そのような共同の行動をしていくべきであるというもので、この二つが両者とも高いのです。このあたりがこれからのキーワードではないかと思います。
 次に、同和地区の生活実態として何点か指摘をさせて頂きます。たとえば、失業率の問題ですが、これは男女共に大阪府の平均をかなり上回っています。40歳代の男性の失業率を見ると、府の平均の2倍になっています。雇用形態の問題では、常雇の割合とか月給制が増加してきているなど、今までなら中高年層は厳しい労働にあってそれを引きずっているが、これからの若い人は安定した仕事につくという傾向がありました。しかし、今回の調査ではそういう傾向はいえません。若い人でも安定就労につけないという状況が見られます。このように、進学率や中退問題など教育の問題、失業率の高さ不安定就労など労働の課題が残されています。
 また、重大な差別事件が発生するなど、同和問題の解決がされているといえない状況にあると、昨年(2001年)9月に大阪府の同対審が答申で明確に述べています。
今後の同和行政の柱
  私は、今後の同和行政の柱として、次の4点を指摘したいと思います。
一つは偏見・差別意識の解消と人権意識の高揚を図るということで、これは啓発や教育の推進ということで、よく言われていることです。
二つ目は、同和地区及び周辺地区の人なども含めての、自立と自己実現を達成する取り組みの支援を行うことです。人権相談や総合生活相談事業、また、地域就労支援事業といった新しいメニューも含めて、一般施策をコーディネートし、相談しやすい窓口を設けていきます。「特措法」時代以上に、そういう仕組みをしっかり作らなければいけないと思っています。
 三つ目は、地区内外の住民の交流・協働を促進していくことです。差別というのはやはり同和地区の人と地区外の人の関係性を断ち切るもので、やはり豊かな交流、人間関係というのを構築するための条件整備や事業を重視してすすめていきたい。
 それから、部落差別事件、虐待などの人権侵害事件という個別の深刻な事件が起こります。これに対しては教育による予防、それから人権の支援、日常生活に困難性を抱えている人を応援していくことに加え、保護・救済というものが必要です。例えば虐待されている子どもの問題では、親権を制限してでも子どもをひきとり直ちに救済しなければならないということがあります。女性が夫から暴力を受けているという相談が来たときは、専門機関につないで対応し、すぐに「シェルター」等に避難させる等のことも必要です。そのくらいしなければ駄目なケースがあります。現状では、そういうシステムが必ずしも十分用意されておらず、相談を受けても解決策がなければ救済はできないし、予防や支援というだけでは、間に合いません。
「教育・啓発」「自立支援」「交流・協働」「保護・救済」、これらは、部落差別の問題に限らず実は人権行政そのものの内容なのです。人権行政を構築していくということの中に、新しい同和行政の推進体制を整えるのです。これからの人権行政の構築の内容と同和問題解決のための柱は、当然のことながら、強く結びつき、重なっています。
 わが人権協会の責任の大きさも感じていますが、多くの方々の連帯と応援をいただいて、府民の十分な評価を得られるよう努力していきたいと思っています。
新たな社会の構築−三つの変革への挑戦
  部落解放運動では、いま3つの「変革」ということが重要なテーマになっています。社会変革、人間関係の変革、それから自己変革です。この3つの変革が、これからの取り組みの3大戦略だと提起されています。社会変革とは、要するに差別の構造を打ち破って人権を軸にした社会システムというのを作っていくための変革です。今の社会を生きている限り、どのような分野にいる人であれ、差別構造の中で非常に遅れた制度やシステムの社会で生きるのか、人権を軸とした社会の中で生きるのかということを問題にする必要があります。
 二つ目は、差別について考えていくならば、社会というよりも個人個人にも、他者との関係における自己の価値観やあり方を問わなければならないということです。人と人の豊かな関係づくりというのが人権侵害・差別を乗り越えるのには重要だと思います。たとえば、差別でも利害衝突したときに相手をやっつけようと思ったり、敵意をむき出しにする差別もありますし、同じように扱われたら自分も不利益になるからそういう人との関係を避けようとすることがあります。ときには、自分の状態の低さや惨めさをごまかして慰めるために蔑むような関係として他者を見たりします。あるいは相手の文化とか考え方を認めずに、自分の考え方だけを押し付けるなど、さまざまなところで差別事件が起こっています。差別というのは人と人との関係性が非常に貧しく、歪むことから起こってきます。
 これからの社会は、人権尊重の価値観をもとに、違いを認め合い、お互いを尊重し合って、豊かな関係づくりをしていくことが大切ではないでしょうか。つまり社会変革とともに、人間関係も変革しよう、新しい人間関係を創造しようということです。人は様々なレベルにおいてつながっており、相互依存の関係にあります。多様な存在の中に「意味ある他者」を見いだすことで、人の生は豊かになるのではないでしょうか。差別や偏見によりずたずたに断ち切られた関係から、意味ある豊かな関係を発展させて、社会に豊かな人権文化を育てていきたいものです。
 もう一つは、自己変革です。例えば被差別者の場合、特に部落出身者の場合なら、自分が部落出身者であるということを隠したり逃げたりすることで本当の誇りというのは出てきません。差別する方が間違っている、自分は逃げたり隠れたりする必要はないと胸を張って、自分のふるさとに誇りを持つ、自分のアイデンティティを大切にする、そういうところに本当の自分の正しい生き様があると思うのです。差別の現実とは「人間の尊厳が傷つけられているありさま」です。それは、「差別からの解放」は、「一人ひとりが生き甲斐と誇りを持って生きる姿」の中にあることを教えています。自分の生き方を自分が選択し、自分らしく生きる自己実現の追求、それが、いまキ−ワ−ドとなっている私達の「自立」という考え方です。「自己変革」とは、こういう一人ひとりの自己実現をめざすということです。
「自立」をめざすのは、被差別部落の側だけではありません。差別している人は本当に誇りを持っているのでしょうか。差別的な価値観に支配されていることによって、なお多くの市民も自立を果たせずにおかれているのではないでしょうか。
 バックナンバーはこちら
このページの上に戻る

大阪府人権協会トップページ