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リレーエッセイ
大谷 眞砂子(おおたに まさこ)さん 第71回
自分を引き受けながら成熟していく参加型学習をめざして


大谷 眞砂子(おおたに まさこ)さん

じんけん楽習塾・VAW研究会


不登校の子どもたちとの出会い

 わたしがファシリテーターになったのは、不登校の子どもたちとのかかわりがきっかけです。大阪市の適応指導教室で不登校の子どもたちと20年近くかかわるなかで、いじめに深く傷ついた子どもにたくさん出会ってきました。「いじめをテーマにしたプログラムをつくって、たくさんの人にこの問題を考えてもらいたい」という思いを持ち始めた時、ワークショップで人権問題を考える“じんけん楽習塾(八尾市)”に誘われました。
 そこで継続して参加体験型学習を体験し、多くのことを学びました。 子どもと女性の問題への関心から始めましたが、他の人権課題について学ぶ中で、どの課題にも自分が関係しているし、問題を掘り下げていけばいくほど共通項が見えてくることに気づきました。
 人権を学ぶことが、ほんとうにおもしろいと感じました。やがてプログラムをつくり、ファシリテーターをするようになりました。もともとわたしは自己肯定感が低い人間ですが、“じんけん楽習塾”や、いろいろな人との出会いのなかで、「自分もこのなかにいていい人なのだ」と感じたことが背中を押してくれたように思います。

女性問題は「今の自分の問題」だと気づく

 女性の問題も、改めて「今の自分の問題」と気づきました。わたしは明治生まれの祖父母のもとで育ちました。読み書きができず、子どもを産めなかった祖母は、常に小さくなって暮らしていました。祖父が「もうないのか」と言いながら座敷机の上に放り投げるお金を拾い集め、私を連れて市場に買い物に行くのです。ぜいたく好きな祖父のために上等なものを買わなくてはいけないけれど、それを買えばお金がなくなってしまう。迷いに迷って市場をウロウロする姿をいつも見ていました。5歳の頃には、自分が女であることがイヤだと思っていました。わたしを溺愛する祖母が、「将来はおまえに婿を取って暮らす」と言うのがイヤで、将来のイメージはただ暗いものでした。
 祖父母の養子だった父と母が離婚し、その後、わたしは家を出て、別に暮らしていた弟や母と暮らし始めました。家を出ると言うわたしに祖母は「そうか」と言っただけでした。希望や期待などというものに無縁な人生を生きた祖母の、断念の潔さは見事だったとも、子どものころからあきらめ続けた祖母の人生を表していて痛ましいとも思いました。
 祖母を否定することが、自分の人生を生きづらくしていることに気づいたのは、女性問題でプログラム作りをしていた時でした。  祖母が与えられた状況の中で精いっぱい生きた人で、今、自分が感じている生きづらさに、女性であることで共通しているものがあることに気づいたのです。
  同時に祖母から逃げたかった自分も、祖母を見捨てた自分も引き受けられるようになりました。

自分を引き受けながら変わっていくことを大切に

 参加体験型学習を通じて人と人とが出会い、話を聴きあうことは、それだけでとても大きなことだと思います。「ここにいてもいい」と認められる場は、あたりまえのようでいて実はあまりないように思うからです。一方で、おとなは子ども以上に、知らないことや間違いを指摘されることを怖れているようにも感じられます。だからこそ、最初の出会いは大切にしたいと思います。
 わたしは、人が学ぶ時、それまでの自分を否定し、考え方が180度変わるような変化は危ないと思っています。人の核にあるものは、簡単には変わりません。例えば、「それは差別だと思う」と指摘されて2度とこのような言動はしないと決心する、そうして自分を否定することで問題に蓋(ふた)をする。そうではなく、人とつながりながら、自分のそのような言動がどこから来たのか、その人自身が自分を引き受けながら考えを広げていく時間が大事だと思うのです。時間をかけ、自分を引き受けながら変わっていく。それを共有できることで、周りのわたしたちも一緒に成熟していけることが参加体験型学習のよさだと思います。
 

未熟だからこそ、たくさん学べる

 ファシリテーターとしてのわたしは、「間違いました、ゴメン」「知らないです、教えて」と言える人でありたいと思っています。
 年齢に関係なく、人間はみな未熟です。未熟であるということは、たくさん学べるということです。ですから、自分も含めてまず未熟であることを大事にしていきたいのです。講座のあとで、「こんなふうに生きていてもいいんだと安心しました」と言ってくれる人がいます。そんな時、わたしも同じように感じていることがあります。自信がなくなって、自分を力づけながらファシリテーターをすることもありますが、こういうわたしであることが、参加者にとってプラスになることもあるのかもしれません。
 参加体験型学習にも目に見える効果を求める傾向がありますが、わたしは小さなしずくでも参加者の中に落ちるといいなと思っています。深く落ちたしずくは、ずっと先にその人の人生が変わるきっかけになるかもしれません。長く子どもに関わる仕事をしてきたことで、わたしには、今はわからない、見えないことを信じる力が育まれたように思います。みんなに同じものが伝わらないかもしれないけれど、必要な人に届けばいいと考えています。そして届くことを信じ、参加者とともに学び、考えるファシリテーターでありたいと思います。

(2010年11月掲載)

    大谷 眞砂子(おおたに まさこ)さん
     不登校の児童・生徒のための適応指導教室の指導員・通所ルームのコーディネーターとして主に中学生とかかわる。
     女性と子どもの人権への関心から、じんけん楽習塾に出会い、現在、参加型のプログラム作りと実践、学びを行っている。また、VAW(Violence Against Women:女性に対する暴力)研究会などでも活動中。

  • (財)大阪府人権協会人権啓発指導者養成委員会委員
  • 参加体験型人権・部落問題(RAAP(ラップ))プログラムファシリテーター養成講座講師
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