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林田照男(はやしだ てるお) さん 第68回
社会問題が集積する西成で、「反貧困」学習に取り組む


林田照男(はやしだ てるお) さん

大阪府立西成高等学校


直面する「貧困」を理解し、立ち向かうために

  わたしが勤務する西成高校は、ある意味、日本社会のシンボル的な存在ではないかと思っています。日本最大の寄せ場「ありいりん地区」があり、大阪市内でもっとも大きい被差別部落があります。あまり知られていませんが、在日コリアンや沖縄出身の方もたくさんいます。また、生活保護世帯も多く、男性の平均寿命は国内でもっとも短いというデータがあります。まちは老朽化した家屋が密集しており、再開発が進む隣の阿倍野区とは対照的です。
  このように日本の社会問題が集積する西成で反差別・解放教育を実践してきましたが、「貧困」が急速に拡大するなかで西成高校の生徒たちの多くも貧困と直面する状況となりました。もともとしんどい状況を抱えた子が多かったのですが、わたしたち教員はこれまで「夢を追いかけろ」、「がんばれ」と叱咤激励する教育をしてきました。しかし、生徒たちと向き合っていくなかで、今、求められているのは、「貧困」をしっかりと理解し、立ち向かえるおとなになるための教育ではないだろうかという考えにいたりました。そこで、2007年度より「反貧困」を軸にした総合学習のプログラムを組み、実践しています。

学校生活に表れる「貧困」とは

  現在、生徒たちの半数以上が毎日アルバイトをしなければ生活を維持できない状況にあります。1日6,7時間働き、月8万円程度の収入を得てもほとんどが家計に入れています。不況の影響もあり、親の仕事が不安定なためです。
  「貧困」が学校のなかで具体的にどう表れるのかというと、まずは授業料の減免です。西成高校では半数近い生徒が申請し、通っています。また、ひとり親家庭がかなり多いのも特徴です。
  中退問題は大阪府でも力を入れて取り組んでいますが、西成高校でも本当に多いです。しか、しこれまでは「やんちゃな子はやめていくんだよね」と、半ば仕方ないことと受け止めてきました。しかし、今は「やんちゃになるにはやんちゃになるだけの何かがあったのではないか」と、とらえています。「何か」をつきつめていけば困難を抱えた家庭環境があり、さらにつきつめていくと「貧困」があったという場合は少なくありません。中退に対して「なじめないからやめる」というところで踏みとどまっていてはいけないという視点に立ち返って取り組まねばならないと考えています。
  虐待も多くみられます。しかし、教員との信頼関係が築かれ、生徒自身が話してくれるまでに時間がかかります。そのため、どんな状況で学校にきているのかが把握できない1年生の段階で中退していく生徒が多いのです。事情がわからないまま、やめていく生徒を見送るのはとてもつらいことです。  

生活がにじんだ感想が「教材」となる

  こうしたなかで「反貧困学習」に取り組んでいます。2007年度は「自らの生活を“意識化”する」、「現代的な貧困を生み出している社会構造に気づく」、「“西成学習”を通して、差別と貧困の関係に気づく」という3つの視点を念頭におき、テーマを設定しました。2008年度から「現在ある社会保障制度についての理解を深める」、「非正規雇用労働者の権利に気づく」、「究極の貧困である“野宿者”問題を通して生徒集団の育成をはかる」、「“新たな”社会像を描き、その社会を創造するための主体を形成する」の4点を加えた7つの視点としました。
  具体的には、テーマに沿った視聴覚教材や自主作成プリントなどを用いながら学習します。漫才コンビ・麒麟の田村裕さんの自伝『ホームレス中学生』を教材にしたときは、田村さんの人生をグラフ化した「パワーグラフ」を書かせると同時に、生徒自身のグラフも書いてもらいました。生徒が自分の状態を把握できると同時に、担任も生徒の状況を知ることができます。必ずつけるコメントには「自分も居場所がなかった」、「良いことのほうが断然少ねえな。今後に期待やね」といった言葉がありました。こうした言葉に触発されて、ほかの生徒が語り始め、学習が深まっていきます。生活がにじんだ感想こそが、本当の意味での教材です。  

「西成に生まれ育ってよかった」

  労働基準法を学んだ生徒が、歯科医院でのアルバイトを不当解雇されたことがありました。相談を受けて、労働基準監督署に行くことを勧めました。そこでアドバイスを受け、結果的に解雇予告手当をもらいました。生徒は、身をもって労働者の権利を学んだのです。再就職できない父親を見下していた生徒が、「勉強して、なぜ父が再就職できないのかがわかった」と話してくれたこともあります。さらに、「西成に生まれ育ってよかった」、「しっかりと西成のことを伝えられるようになった」など、自分たちの生活を前向きにとらえてがんばろうとする生徒が増えてきました。
  わたしたち教員は教科を教えることについてはプロですが、社会制度については知らないことも多くあります。地域やさまざまな分野の人たちとのつながりを広げ、さまざまな角度から生徒たちを支援できる学習環境をさらに整えていきたいと考えています

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