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リレーエッセイ
本岡和巳(もとおか かずみ)さん 第67回
生活再建を視野においた多重債務者支援に取り組む


本岡和巳(もとおか・かずみ)さん

(豊中市消費生活課 多重債務者生活再建相談員)


借金の整理が「問題解決」ではない

  豊中市では2008年6月より多重債務者の生活相談窓口を開設し、多重債務に悩む方からの相談を受けています。窓口の開設にあたっては、借金の整理だけではなく、生活再建までを視野におきました。
  多重債務の相談窓口ですので、来られる方はもちろん借金を抱えています。借金の返済に困っている方は、同時に住民税や国民健康保険料、保育料、給食費などを滞納されていることが多く、市にとっては「債務者」といえます。しかし、借金を抱えた状態での督促や徴収は、ただでさえ借金の督促に追われている人にさらなるストレスがかかり、精神的な疾病につながりかねません。そこで、税金や保険料などを徴収する窓口や福祉サービスを給付する窓口などと連携を図るため連絡会議を設置し、わたしたちの相談窓口と情報を共有して、まずは現在抱えている借金の整理を優先するよう努めています。
  窓口を開設した2008年度の6月から翌3月までの相談実人数は459人でした (女性210、男性249)。2009年度は12月までで417人で、やや減少していますが、借金を整理した後もフォローしている方は増えています。というのは、借金を整理すればすべてが解決するわけではないからです。しっかりと生活再建をし、最終的には滞納されている住民税や国民健康保険料などを納めていただかなければなりません。そのため、弁護士や司法書士など専門家につないだ後も、ご本人の了解を得たうえで、その方に必要だと思われる行政サービスや情報をご案内しています。

低収入、無年金、依存症・・・・

  多重債務に陥る原因は多様です。リストラにあって仕事を失った、あるいはパートなどの非正規雇用で収入が低いといった経済的な困難があります。また、ボーナスや昇給を期待して住宅ローンを組んだものの、不況のために逆にカットされてローンを払い続けることができなくなったケースも少なくありません。家を売却するにしても、競売にかけられれば買値の3割や4割の値段しかつかず、逆に借金が増えてしまうことになります。このようなケースは、個人版の民事再生も視野にいれながら解決策の話し合いをしていきます。
  さらに深刻なのは、高齢で無年金という方です。相談に来られる65歳以上の方の8割は無年金です。これまで低収入ながらも仕事があり、どうにか自活できていたのが、「不景気で仕事がないから、しばらく休んでください。また仕事が入ったら連絡します」などと体裁よく切られてしまう。無年金のうえに収入が途絶え、借金の返済や生計の見通しが立たないという方が増えてきています。
  若い世代では、ギャンブルや買い物などの依存症が多い傾向があります。次々と買い物をすることで孤独感を埋めようとした女性や、アニメのフィギュアに凝り数百万の借金をつくった男性もいました。

「負の連鎖」を断ち切る第一歩に

  さまざまな相談を受けるなかで、見えてきたのは「負の連鎖」です。多重債務に陥れば、返済は困難になります。督促に追われるため、精神的にも追い詰められ、家賃や税金、国民健康保険料などの滞納が始まります。離婚、子どもの退学や家出といった家庭崩壊もおこります。心が安まることがないため、うつ病やパニック障がいといった精神的疾患を抱える人もいます。わたしたちの窓口に相談にこられる方の2割がうつ病やパニック障がいなどの精神的疾患をわずらっています。
  多重債務問題は、「返せないのに借りた」「借り過ぎ、貸し過ぎ」の結果です。それはご本人も重々わかっているため、自責の念に押しつぶされている人が多くいます。だからこそ、「人には相談できない」と一人で抱え込み、必死でお金を返されています。借金が中心の生活で、将来の夢や生活設計を考えることがまったくできないのです。
  こうした状況のなかで相談窓口にこられた方に対して、わたしたちはまず「よく相談にこられましたね。借金をどう整理できるか、一緒に考えましょう」と伝えます。責めたり詰問したりはしません。安心してすべてを話してもらい、現状を正確に把握することが、借金を整理して「負の連鎖」を断ち切る第一歩だからです。

精神保健分野との連携や幅広い経済的支援を

  課題はまだまだあります。専門家につなげた相談者の方のその後をどう把握するのか。個人情報保護法に則りながらフォローしていく必要があります。精神的疾患に対するサポートとケアの態勢がないことも大きな課題です。精神的疾患の背景に多重債務がある可能性は十分にあります。精神保健分野での受け皿が求められます。
  経済的支援のセーフティネットも不十分です。法テラスでお金を借りることは可能ですが、弁護士や司法書士に委任するための費用に限られます。たとえば、自己破産に必要な管財人費用の約20万円を払えず、生活保護を受けながら、切り詰めて費用を貯めている人がいます。こうした「制度の隙間」に陥る人が出ないような仕組みが早急に必要です。
  こうした課題の壁にぶつかりながらも、窓口を訪れた時にはずっと下を向いておられた人が、帰る時には笑顔で「久しぶりにゆっくり眠れそうです」とおっしゃる姿にやりがいを感じます。すがるような思いで相談にこられる方の思いに応えられるよう、一人ひとりの方とていねいに向き合っていきたいと思います。

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