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リレーエッセイ
高見一夫(たかみ かずお) 第66回
適性を見つけてチャンスを広げる職業訓練に取り組む


高見一夫(たかみ かずお) さん

(A´ワーク創造館(大阪地域職業訓練センター)館長
 ・ (株)ワーク21企画代表取締役)


複雑化する仕事の現場がストレスを生む

  今、仕事をめぐる状況は非常に複雑化しています。高度経済成長期のように求人も条件も右肩上がりという状況とは一変し、求人が絞られるうえに、仕事の内容も複雑で多様化し、しかも変化が激しくなっています。たとえば以前は単能工といって一人ひとりが担当する仕事をもっていました。しかし今は多能工化が進み、一人で幅広い仕事ができることを求められます。急激な経済の変化の中では、これは企業にとっては当然の要求です。ひとつの仕事しかできない人よりも、さまざまな仕事ができる人を雇うほうがコストを抑えられるからです。しかし働く人には大きなストレスがかかります。そのうえ成果主義、能力主義となれば、同僚も仲間ではなくライバルです。近年、うつ病になる人が増えているのも無理はありません。

経営者と従業員の間にあるギャップとは

  (株)野村総合研究所の「若年労働者活用実態に関するアンケート調査」(2005年)によると、自社の従業員のスキルに満足している企業経営者は2,3割にとどまっています。また、規模の小さい会社ほど満足度が低くなっています。一方で、採用時には熱意や責任感、人間性を重視する傾向がみられます。つまり、企業は熱意や人間性を見込んで採用しますが、いったん入社した人に対しては専門スキルや資格、課題解決能力など非常にグレードアップした能力を求めているのです。経済のグローバル化が進むなか、企業には以前のように時間をかけて新入社員を育てていくだけの余裕がありません。しかし従業員にはスキルアップを求めたい。こうした経営者の思いと従業員の実際のスキルというギャップを埋める職業訓練を提供する場が必要です。
  定着率の低さも大きな課題です。同じ調査によると、定着率に差が出る中小企業の取り組みは、労働条件や成果主義導入の有無ではなく、「相談しやすい雰囲気を意識して作っているかどうか」と「自己啓発・キャリアアップのための援助を行っているかどうか」です。企業は従業員にスキルアップを求めていますが、従業員は逆に企業側にスキルアップを支援することを求めているわけです。そこでA’ワーク創造館では、中小企業を中心とした在職者の方に、世の中の流れを反映したスキルを提供しています。

就労が困難な人を地域レベルで支える

  ニートやひきこもり状態にある若者に対する支援もおこなっています。たとえば、「これから学級」という講座では、なかなか就職に結びつかない人たちがコミュニケーション力をつけ、仲間づくりができる内容にしています。講座を卒業した人は、大阪市平野区の商店街に拓いたリサイクルショップ「ねこまる」を企画運営してもらいます。ささやかなコミュニティビジネスですが、接客やお金の管理などの経験によって自信が生まれます。なかには就職につながった人もいます。このように、カリキュラムを修了した後も自主的な集まりにスタッフが参加しています。
  A´ワーク創造館も含め、大阪では就職困難者といわれる方々を地域レベルで支えていこうという取り組みが積極的におこなわれています。「ねこまる」もそうですが、最近は商店街の門戸も開かれてきました。ある商店街ではNPOが開いたリサイクルショップに人が集まることが商店会に大歓迎され、そのNPOの理事長が商店街振興組合の会長に選ばれたということもありました。また、「フルタイムは無理だけど、週3日、あるいは1日2、3時間なら働ける」という人がこうした店に参加することで地域が元気になるということも起こってきています。  

適性を見つけてチャンスを広げる

  失業率はあがる一方ですが、決して仕事がないわけではありません。働きたい人と仕事とをマッチングさせるためのコーディネイトがないのだと私は考えています。「働く力」を養ったり職業訓練を受けたりする場も十分ではありません。スキルだけの職業訓練なら通信教育でもできますが、本当の意味での職業訓練とは、自分のことをきちんと話せて、相手の話も聞くことができること。そして講師とコミュニケーションがとれ、若干のスキルアップをして元気になって卒業していくことです。就職が困難な人だけに注目をしていると、「挨拶ができるか」「通勤できるか」などと最初からハードルを設け、「あれもこれもしなさい」と追いつめてしまいがちです。そうではなく、その人ができることを見つけ、それをきっかけにチャンスを広げられるよう支援することが大切です。
  A´ワーク創造館では、府立公園の指定管理を受ける団体と連携して「パークマネジメント科」という講座を行っています。これは国の緊急人材育成基金事業を活用して生活給を得ながら訓練を受け、理論も体験も習得した後に公園管理の就職をめざす講座です。このように学びながら自分の適性を見つけていくコースも今後広げていきたいと考えています。
  これからの職業訓練や人材育成は、「すぐれた人材」を輩出することを目的とするよりも、一人ひとりに合った方法とペースでスキルアップしていくことが求められています。それがひいては社会全体の生活や経済を底上げすることにつながると考えています。  

(財団法人大阪府人権協会は、A´ワーク創造館を運営する有限責任事業組合大阪職業教育協働機構に参画しています。)

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