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リレーエッセイ
原田 和明(はらだ・かずあき)さん 第61回
再犯を防いでこそ「更生」。そのために必要な支援とは何か


原田 和明(はらだ・かずあき)さん

相談支援センター「であい」


知的障がいのある人が罪を犯したらどうなるか

 わたしは、生活保護法更生施設の生活指導員を経て、知的障がい者通所授産施設の指導員、知的障がいを中心とした障がい者の支援センターの相談員として活動してきました。この間、障がいのある人たちが罪を犯してしまったケースにかかわったことから支援の必要性を感じ、取り組んでいます。
 消防車が来るのを見たくて自転車に火をつけた人もいれば、いつも公園で一緒に遊んでいた子どもから憎まれ口を叩かれ、ふざけてお尻をポンと蹴ったことを裁判に訴えられた人もいます。自分が空き巣に入られた手口を真似して今度は自分が空き巣に入り、お金がなかったので下着を盗んだというケースもありました。逮捕されたり裁判になったりすると、状況や動機、自分の思いを説明しなければなりません。しかし知的障がいのある人は言葉でうまく表現することが苦手です。迎合しやすいという特性もあり、時には事実ではないのに肯定してしまうこともあります。その結果、不利な状況を作り出してしまう危険性があり、場合によってはえん罪の可能性も生まれます。実際に、本人が使うはずのない言葉や理路整然とした理屈を使って書かれた調書が作成されたことがあります。危険だと感じたので、検察に具体的な知的能力レベルや特性を知らせ、調書をとる際に留意するよう弁護士を通じて申し入れるということを続けてきました。最近ではふりがなをふった調書やすべてひらがなの調書が出るようになり、少しずつですが改善が見られるようになっています。

「矯正」のシステムがない日本

 もちろん、知的障がいがあっても、他人を傷つけたり罪を犯したりすることが許されるわけではありません。ただ、誰でも裁判においては事件の背景や生い立ち、心身の障がいなどは情状を酌量される部分です。心神耗弱や心神喪失が量刑に影響を与えることは刑法に定められたとおりです。知的障がいのある人を特別扱いするということではなく、罪を犯した人が自らうまく伝えられない事情や障がいの状態について、事実として伝えているのです。その事実を踏まえたうえで裁判を進めてほしい。裁判員制度が始まった今、ますます強く思います。
 「矯正」も大きな問題です。海外では知的障がい者と健常者「矯正」教育を別にしているところが増えています。たとえばオーストラリアのビクトリア州では、裁判の際に公的な機関が介入し、生育歴や背景、障がい程度等を調査して、今後の支援プログラムを裁判官に伝えるといったことがおこなわれています。イギリスやアメリカでも一定のシステムが見られます。
 しかし、日本では知的障がいがあると認定されても一般の刑務所に収監されます。わたしが生活保護法更生施設に勤務していた頃を思い出すと、多くの人が知的障がいのある人で、なおかつ前科がありました。その実態から、刑務所が知的障がいのある人であふれていることは安易に予測がつきました。つまり、知的障がいについてまったく考慮されず、言われたとおりに自白して、わけがわからないままに刑務所に入ったという人たちがたくさんいるということです。  

罪を犯した人の人権を守ることが再犯を防ぎ、社会を守る

 障がい者福祉の視点から、そうした人たちの人権をいかに守るかということをわたしたちは考えているわけですが、それは同時に再犯を防ぐことであり、社会防衛や被害者の人権を守ることでもあると考えています。そのためには、執行猶予中や刑務所を出所した後の支援が欠かせませんが、いくつかの課題があります。ひとつは、本人も周囲も障がいを認知しておらず、適切な福祉的支援を受けられずにきた人が少なくないことです。仕事が続かないため、生活能力がなく、窃盗などを繰り返すことになります。
 生活にそれほど困っていないけれど欲求を我慢できずに犯罪を繰り返す人もいます。子どもに対する強制わいせつなどが典型的です。性犯罪に限らず、都市部で生活している人には風俗やパチンコ、競馬など、刺激的な誘惑がたくさんあります。そのなかで加害者にも被害者にもなりやすいというリスクがあります。欲求を我慢できないという人に対しては、本人と話し合ったうえで地域から離れた施設で規則正しい生活を送るという方法をとることもあります。  

生活保護や療育手帳の発行基準の弾力的運用を

 また、刑務所を出所したものの、受け入れ先がないという人も多くいます。まずは生活保護で生活の基盤をつくることから始めるのですが、受け入れ先がない人は刑務所の所在地を住所地として生活保護を申請することになり、刑務所のある自治体に、主に事務的な部分において大きな負担がかかります。生活保護の弾力的な運営が求められます。さらに、療育手帳の発行基準が実施主体である都道府県と政令指定都市によってまちまちであることも支援を難しくしています。全国統一基準でないため、発達検査を含む療育手帳発行手続きについて、本人の帰住予定地の実施主体がおこなうことが原則であり、大変な労力がかかるのです。基準が統一され、生活保護と同じく弾力的な運営がなされれば、出所後の福祉的な支援もかなりスムーズになります。
 知的障がいのある人が罪を犯すと、障がいの部分がクローズアップされがちです。しかし罪を犯さない人が圧倒的に多いのは言うまでもありません。罪を犯してしまった人には必要なサポートをしたうえで公正な裁判をおこない、福祉的な視点に基づいた支援プログラムを組んで支援する。それが本当の意味での「更生」となり、社会にとっての安全につながると考えています。   

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