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リレーエッセイ
加藤 秀樹(かとう・ひでき)さん 第55回
今こそ、一人ひとりの困難に寄り添う就労支援を


加藤 秀樹(かとう・ひでき)さん

NPO法人おおさか若者就労支援機構


働くことの基本はコミュニケーション

私たちNPO法人おおさか若者自立支援機構は、厚生労働省の委託を受けて「若者自立塾」をひらいています。若者自立塾とは、「ニート」や「ひきこもり」状態にある若者の自立・就労を支援するものです。現在、全国に30カ所あります。それぞれに特色があり、私たちは特に「コミュニケーション」、「仲間づくり」に重点を置いています。なぜなら、仕事をしていくうえで最も重要なのが人とのコミュニケーションだと考えているからです。
 気の合わない同僚や上司がいるからと辞めていては、どんな仕事も続きません。逆に、少々つらい仕事でも「あの人みたいになりたい」、「こんな仕事ができるようになりたい」という目標があればがんばれます。「ニート」や「ひきこもり」の若者は、人とうまくコミュニケーションをとれない人が多くいます。けれども自立するうえで人と関わることは避けて通れません。もちろん就労が最終目標ですが、まずは人間関係を築く経験をしてほしいと考えています。

3ヶ月の合宿生活で仲間づくり

 若者自立塾は、3ヶ月の合宿生活が最大の特徴です。初めて出会った者同士、しかもコミュニケーションが苦手なメンバーが3ヶ月間も寝食をともにするのは並大抵のことではありません。なじむのに時間がかかる人もいれば、自分の気持ちをなかなか表現できない人もいます。毎回、約10名のメンバーの状態をみながら臨機応変にプログラムを組み替えます。今は10期目に入っていますが、基本のプログラムは同じでも最終的にはそれぞれ内容が違います。
 もちろん、コミュニケーションに重点を置くという点は共通です。たとえば、演劇体験があります。自分ではない人を演じることで人の気持ちを理解するとともに、全員でひとつのことをやり遂げる達成感を味わってほしいと考えています。表に出るのが苦手な人も、音響や照明など必ず何かを担当し、自分が必要とされていることを実感してもらいます。
 地域との関わりも大切にしています。塾は町のなかにあり、地域の企業には就労でもお世話になります。地域があっての自立塾なのです。また、「ニート」や「ひきこもり」の若者に対する社会的なイメージは決してよくありません。彼らが一人暮らしを始める時、近隣の人が不安に思う意識もあるかもしれません。けれども自立塾の活動を知ってもらっていれば、安心してもらえると思うのです。
 保育園のプール清掃やイベントでの模擬店の出店などをおこなっています。子どもたちも顔を覚えてくれ、「ありがとう」、「このお兄ちゃん、プールの掃除をしてくれた」と声をかけてくれます。塾生にとっては、感謝されたり声をかけられたりする喜びや充実感も味わうことの少なかった感覚です。こうしたことも大事にしていきたいもののひとつです。  

議論を通じて自主性を身につける

 もうひとつ、大切にしているものは「自主性」です。基本的な枠組みをつくるのはスタッフですが、できる限り塾生たちが議論し、コミュニケーションを図りながら活動していけるプログラムにしています。掃除や食事の当番など合宿生活のルールや、空いているコマのプログラムは塾生たちが決めます。そのためのディスカッションの時間は十分とっています。議論するなかで、自分の気持ちを表現できなかった塾生からも自己主張が出てきます。「自分はこう思うが、あなたはどう思う?」といったやりとりも学び、身につけていきます。
 10期目を迎えましたが、期ごとに話し合ってルールを決めるので、決め方も内容もそれぞれにまったく違います。ぎくしゃくすることもありますが、「どんなルールでも、自分たちで決めて自分たちで守ろう」というスタンスを通しています。
 こうしてさまざまな取り組みをしていますが、スタッフだけですべてがカバーできるとは考えていません。週に一度、キャリアカウンセラーに訪問してもらい、就労や生活上の悩み、不満などを話せる場を設けています。また、同じく厚生労働省の事業・若者サポートステーションとも連携しています。  

若者が働く喜びを味わえる仕組みが必要

3ヶ月間、社会で自立し働いていくために必要なことをみっちり実践するなかで、就労意欲が芽生えてきます。せっかくの意欲を維持するために、卒業後の受け皿として地域の公営住宅を借りる「チャレンジハウス」をつくりました。半年から1年を期限に、求職活動をしながら自活に慣れていきます。塾から50mという距離なので、気軽に塾や事務所に顔を出すことができます。チャレンジハウスに入ったメンバーは、その後もほとんど地元に帰らず、塾の近辺で部屋を借り、働きながら一人暮らしをしています。
 3年間で約80名が塾を卒業し、約半数がアルバイトや派遣などで働いています。まじめに働く姿勢を評価され、正社員になったメンバーもいます。一方でなかなか「働く」というハードルを越えられないメンバーもいます。塾生たちと接してきて実感するのは、福祉のラインと就労の狭間にいる人の存在です。福祉を受けるだけの「障害」はないが、即戦力として働くには無理があるという人が少なくありません。彼らが甘えているというだけではありません。企業が即戦力として「使える」人だけを求め、能力のばらつきや個性を受け入れる余裕がないこと、その人に合った働き方を選べない労働現場のあり方など、働くことに対するハードルがあまりにも高いと感じています。
  周囲から「甘えている」、「怠け者」と言われ続けてきた若者たちが就労意欲をもち、自活できるようになるには、時間とさまざまな形での支援が必要です。行政の力も欠かせません。国や自治体の財政は苦しい状況にありますが、これからの社会を担っていく人たちが働く喜びを味わえる仕組みづくりは優先的に取り組むべき課題ではないでしょうか。

NPO法人おおさか若者自立支援機構ホームページ
http://www.oyws.com/    

 

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