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リレーエッセイ
橋井 幸子(はしい・さちこ)さん 第54回
今こそ、一人ひとりの困難に寄り添う就労支援を


橋井 幸子(はしい・さちこ)さん

茨木市地域就労支援コーディネーター


相談者との信頼関係を築くことから始まる

 2002年度からスタートした地域就労支援事業は、障がいのある人や母子家庭のお母さん、ホームレスの人など、いわゆる「就職困難層」といわれる人たちの就労を支援しています。たとえば障がいがあるといっても、家庭の事情や障がいの程度などはそれぞれ違います。そこで、まずはじっくりとお話を聞くというところから始まります。
 誰でもそうですが、「この人なら信頼できる」と思えなければ、本当に悩んでいることやしんどい気持ちを話すことはできません。そして、その人が抱えている事情やしんどさを理解しないまま仕事を紹介してもうまくいきません。困難な事情がある人ほど、ていねいな聞き取りと信頼関係が不可欠なのです。
 これまでさまざまな場面で自信をなくしたり傷ついたりしている方も多く、信頼関係を築いていくのは簡単ではありません。夜間に相談を受けることもありますし、1回の相談に2時間かかることもあります。家庭の事情や精神的なしんどさなど、簡単には解決できない課題がいくつか重なっているケースも少なくなく、相談を受ける自分自身がつらくなることもあります。それでも少しずつ信頼関係ができ、相談者が前向きな気持ちになってこられたり、笑顔が見られるようになったりすると、本当にうれしく思います。

若者たちも人とのつながりを求めている

 相談者は18歳から60歳まで幅広い年代にわたっていますが、最近はニートやフリーターと呼ばれる若い人たちの就労も大きな課題です。JOBカフェ大阪と連携して若者講座を開いた時には奈良県からの参加者もあり、20人強の若者が集まってくれました。その出会いを通じて、若い人たちが何をしていいのかわからずに不安を抱えていることや、社会に出た時に人とどうコミュニケーションをとればいいのかわからずにいることがよくわかりました。なかには、家族の介護や家事手伝いのために仕事に就けないというケースもあります。じっくり話を聞いてみると、ニートやフリーターという「状態」だけを見て、「甘えている」「覇気がない」などと決めつけるのは間違っているのがわかります。
 この講座には、地域の部落解放同盟の青年部がスタッフとして参加してくれました。手伝うだけでなく、受講者とスタッフという枠を超えたつながりができたようです。
 講座はワークショップ形式でおこないました。二人一組になって自己紹介などをしたのですが、参加した人たちの顔がすごく生き生きしていたのが強く印象に残っています。みんな、人とのつながりや社会との関わりを求めていると感じました。
 また、引き込もりやニートと呼ばれる方々の親対象のセミナーや相談会もおこなって来ました。参加される親御さんの悩みは深刻です。カウンセリングをさせていただいた後、こちらが本人との面談を強く希望し、会うことができたケースもあります。とても真っ直ぐでナイーブな印象の男性でした。働く意欲が感じられたため、地域にある「沢良宜いのち・愛・ゆめセンター」での清掃作業の仕事をあっせんしました。今では自信をもって作業に励んでくれています。「いつもきれいにしてくれるね」と声をかけると、何ともいえない笑顔で応えてくれます。 

部落での暮らしを通じて学んだ課題と支え合い

 私は奈良県の出身です。進学した高校が同和教育推進校で、そこで初めて部落問題と出会いました。最初は、熱心な同和教育をうっとうしく感じたりもしました。でも部落に生まれ育った友だちができた時、「きちんと学ばなければ友だちのことを理解できない、もう他人事ではない」と思ったのを覚えています。
 夫とは友人の紹介で知り合いました。結婚の話が出た時に初めて部落の人だと打ち明けられましたが、両親も私も「そんなことは関係ない」という考えでした。けれど彼は、私を自宅に連れて行く時には部落だとわかる施設を避けて通り、私にどう打ち明けようか悩んでいたようです。それを知り、部落差別の存在を改めて感じました。
 子育てを通じて解放運動に関わるようになりました。「教育の会」や保護者会、「保育守る会」といった活動に参加するなかで人権や教育をはじめ、いろいろなことを教えてもらったのです。また、女性部活動にも参加し地域の人たちとのつながりができると、部落の課題が現実問題として見えるようになりました。逆に、支え合うことの大切さも身をもって知りました。こうした経験が私自身を強くしてくれたのだと感じております。  

相談の現場で掘り起こした課題を解決する事業が必要

  「仕事」は、生活全般に関わります。仕事があるということは、それだけで人を支えてくれるということを実感しています。最初に書いたように信頼関係が基本ですが、そのためには専門家然とするのではなく、時には私自身の弱みをさらけ出すこともあります。相談を受ける側の私も、悩んだり苦しんだりしながら歩んでいることと、「ともに歩みましょう」と伝えたいからです。
 同時に、相談の現場で掘り起こした課題を解決するためには、施策につながるような「課題を吸い上げるシステム」と事業展開が必要だと痛感しています。相談に来られる方一人ひとりと向き合うからこそ、何が求められているのかが具体的に見えてきます。
 相談には、時間と人手が必要です。相談者が自分で考え、選び、納得するというプロセスが重要です。効率を求めてプロセスをないがしろにすると、せっかく就労できても続かないということになってしまいます。相談事業や自立支援機能を低下させる行政施策が実行されると、ますます困難を抱えた人たちが増大し格差拡大社会が進行し、地域コミュニテイーや市民生活の破壊に繋がるのではないでしょうか。
 現在、あらゆる分野で自立支援事業がおこなわれ、社会的に弱い立場にある人たちに自立を促す流れがあります。けれどもさまざまな障がいや母子家庭、ホームレスなどさまざまな社会的ハンディをもつ人たちが、自立できるだけの仕事を得るのが非常に困難なのが現実なのです。
 今こそ、一人ひとりの困難に寄り添う就労支援が強く求められています。  

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