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リレーエッセイ
北口 末広(きたぐち すえひろ)さん 第48回
えせ同和を根絶し、部落解放運動の再評価を


北口 末広(きたぐち すえひろ)さん



自分自身も経験した「えせ同和行為」

 今年(2007年)6月、「えせ同和行為等根絶大阪連絡会議」が結成されました。その名のとおり、「同和」や「人権」をかたって企業や学校、個人などに不当な利益を求める「えせ同和行為」をなくすのが目的です。しっかりとした相談体制をつくり、相談活動や事例の集約、研修・啓発活動に取り組んでいきます。
 「えせ同和行為」に対する問題意識は以前からありました。実は私自身も「えせ同和行為」を受けた経験があるのです。23年前のことです。車を運転していると、一台の車が接触してきました。車を降りると、相手の男性は部落解放同盟を名乗って私を脅そうとしてきました。私は当時、大阪府連で人権対策部長を務めていましたが、自分は名乗らずに「どこの支部の方ですか」と尋ねました。相手は実在する支部名を答えました。しかし、相手の顔に見覚えがなかったため、「役員の方ではないですね」と確認しました。そして、「私も同和地区の出身で、部落差別をなくすためにあなたと同じ団体に所属して、こういう役職に就いています」と自己紹介したのです。途端に相手は態度を変えました。それはまるで虎が猫に変身したようでした。   

差別意識や後ろめたさが悪用される

 私は何かおかしいとは思いましたが、相手が同和地区出身者であることは疑っていませんでした。しかし後日、話をよく聞くと、同和地区出身者ではなかったことがわかりました。そして、私の前に2度ほど同じことをして、うまくお金を巻き上げていたのです。その時、私は思いました。「もし、私が同和地区出身者でなく部落解放運動にも参加しておらず、同和地区や運動体に対する偏見だけをもっていれば、“こんな人と関わるのはかなわん”と思い、お金を払うだろう。そして“あんな奴がいるから同和地区は差別されても仕方ないんだ”と考えるだろう」と。いわゆる「不当な一般化」から部落差別が生まれる現場に遭遇したことは、私にとって非常に大きな経験となりました。
 また、数年前には私の勤めている大学に1冊5万円もする本が送りつけられてきました。担当者は買うとも買わないとも言っていないのに着払いで送りつけられ、困って相談に来たのです。私はその場で電話をして、着払いで送り返すことを伝えました。責任者との話し合いも求めましたが、それ以降、連絡はありませんでした。
  なぜ、私が毅然とした態度をとれたのか。それは私自身が同和地区出身者であり、同和地区を怖いとは思っていないからです。逆にいえば、「えせ同和行為」を受ける側には同和地区に対する差別意識や偏見、あるいは同和問題に取り組んでいないという後ろめたさがあるのではないでしょうか。そうした意識を悪用するのが「えせ同和行為」なのです。   

部落問題解決に資するかどうかが判断のポイント

 「えせ同和行為」を行う側の悪質さと、「えせ同和行為」を受ける側の差別意識や偏見が相まった時、「えせ同和事件」が成立します。つまり、「えせ同和行為」に対する取り組みとともに、人びとの中にある差別意識や偏見を取り除くことが非常に大事です。「えせ同和団体の名前を教えてほしい」という問い合わせがありますが、組織の名前や形ではなく、その行為が部落問題の解決に資するかどうかで判断すべきなのです。部落問題をきちんと理解できていれば、相手の言動が“えせ的”であるかどうかは判断できます。「判断できない」「怖い」と思うのであれば、私たちのところへぜひ相談してほしいし、同時に部落問題について学んでいただきたいと思います。
 1981年の商法改正によって、それまで企業に言いがかりをつけては機関紙などを売りつけていた総会屋が締め出されました。合法的に同じような行為を行うために彼らが目をつけたのが「人権」・「同和」を名乗る、「えせ同和」だったのです。運動体で「えせ同和団体」の一覧表を作ったことがありますが、130近くにのぼりました。しかし、都合が悪くなると簡単に名前を変えます。だからこそ、「えせ同和行為」を受ける側の意識が重要なのです。  

部落解放運動の成果を伝えていくことも重要

 近年、「人権」という言葉に対するイメージが悪くなっています。人権確立の歴史と逆行する流れがあるなかで、「飛鳥会事件」を始めとする不祥事があり、「人権イコール同和」ととらえ、マイナス面ばかりが強調されました。しかしもちろん、人権は同和問題だけではありません。DV(ドメスティック・バイオレンス)やストーカー、児童虐待など多くの問題を人権侵害ととらえ、救済、解決、支援を図る必要があります。その取り組みによって人権のイメージも変わっていくでしょう。
 また、部落解放運動がこれまで日本における人権確立に果たしてきた役割や成果を伝えていくことも大切です。行政、企業、宗教界、教育機関、福祉、医療等々、部落解放運動の対象はあらゆる分野であり、それぞれに影響を与えてきました。国際人権規約の批准にも大きな力を果たしています。また、反差別国際運動(IMADR)をつくり、ジュネーブを中心に地道な活動を続けています。こうした取り組みはなかなか報道されませんが、ひとたび不祥事を起こすと厳しく指弾されます。しかし、これはある意味、部落解放運動の社会的影響力の大きさの表れでもあります。役割や成果が大きいからこそ、そのことに恥じない組織再生をしなければなりません。その一環として、「えせ同和」を根絶していくことを決意しています。    

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