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リレーエッセイ

石田さん 第4回
かっこ悪くある勇気をもとう



 弁護士
 石田 法子(いしだ のりこ)さん


底上げされてきた女性の地位

 1999年に「男女共同参画社会基本法」、2002年には「ドメスティックバイオレンス(DV)基本法」が制定され・・・と、性差別や女性への暴力を許さないという社会的コンセンサスが法律という形になったことはとても大きな出来事だと思います。社会的な面でも個人的な部分でも、女性の地位が底上げされてきたといえるかもしれません。けれども、弁護士としてさまざまな事件や相談に関わっていると、本当に女性がのびのびと生きられる社会になってきているのだろうかと思うことがしばしばあります。法律ができたのは大きな前進ですが、日常生活のなかではまだまだ多くの女性が嫌な思いや我慢をしているように見えます。

「人間らしさ」を抑圧する男性社会

 こういうことを言うと、男性を攻撃しているように受け取られることがあります。実際、あるセクハラ裁判で原告側の弁護団長として活動していた時、一人の男性に「男性の幸福追求権を侵害している」と訴えられました。けれど、もちろん私は男性の権利を侵害する気は毛頭ありません。そもそも一方の権利を主張すれば、もう一方の権利が侵害されるなんておかしな話です。私はむしろ、女性が生きにくい社会は男性にとっても生きにくい社会だと思います。  女性が「女らしさ」を求められる社会は、男性は「強くたくましく」という「男らしさ」を強いられる社会でもあります。強くたくましくあるために、自分の個性を押し殺してしゃかりきにがんばらなくてはいけない。出世の度合いや給料によって自分の価値を判断されてしまう。そういう世界では、人間的なやさしさやふれあいは無駄だと切り捨てられてしまいます。

暴力をふるう男性に教育プログラムを

DVの問題に関わっていると、加害者の男性が「なぜ自分が悪いのか」と途方に暮れている姿をよく目にします。私などは「いとしい存在であるはずの女性を殴って、何が恋人か」と思うのですが、本人は「愛情があるからこそ殴るんだ」と言ってはばからない。人の痛みを自分の痛みとして感じられないわけです。強さを最優先する男性社会のひずみがこういう形で表れているのだと思います。本当にDVをなくそうとするのであれば、逃げてくる女性を保護するのも大切ですが、加害者の男性が人間らしさを取り戻せるようなケアが必要です。

まずは相手の立場に立ってみる

 弁護士になって28年が過ぎようとしていますが、昔では考えられないような事件が増えました。最近は女の子の連れ去り事件が相次ぎ、3人の娘をもつ母親としても胸が痛みます。自分の性的欲望のために抵抗する術もない女の子を無理やり連れ去る。このような、人を人とも思わない犯罪がなぜ増えているのでしょう。以前は、そうした欲望があったとしても実行には至らなかった。今は、欲望を抑える理性が簡単に消えてしまうのかもしれません。これはもう教育の問題だと思うのですが、今とりあえずできることとして、相手の立場に立って物事を考えてみるということができれば、もう少し世の中も変わるのではないでしょうか。できるできないは別にして、いったんは相手の立場になってみる、視点を変えてみる、柔軟に考えてみる……。そうすることで膠着した問題や関係が変えられる場合も多いはずです。これは特に男性に求めたいところです。

日本社会のひずみが外国人女性に

 在日外国人問題に関わることも多いのですが、ここに日本の男女の問題が集約されているのを痛感します。たとえば外国人の妻に対するDVがあった場合、妻は逃げることすらままならないという現状があります。夫から逃げれば在留資格を失ってしまう恐れがあるため、殴られても我慢してしまうのです。外国人、とりわけ東南アジア出身の人に対する差別意識も強烈です。女性であるうえに東南アジア出身ということで、差別や暴力がひどくなるということもあります。手を差し伸べる人も限られるため、被害はより深刻です。行政の一時保護施設でも、文化や言葉の違いを理由に入所を断られたことがありました。仮に緊急的な保護ができたとしても、その後の心のケアや生活支援の仕組みがありません。  私たちの社会が抱える問題が、より弱い立場の人たちを追いつめているという現実を多くの人に知ってほしいです。

戦争は最大の人権侵害

 労働問題に始まり、セクハラ、DV、在日外国人問題と、さまざまな分野に関わってきました。残念なことですが、どれひとつとっても「解決した、差別はなくなった」とは言えません。今、私が最も恐れているのは戦争です。戦争が起きればまたあっという間に女性の地位も逆戻りです。ところが、まさかと思っていた戦争が現実的なものになりつつあります。「テロに屈するな」「自由を守れ」などといった勇ましい言葉はかっこいいものです。それに対して「戦争はいやだ」「仲良くやっていこう」と言うのは弱腰に見えるかもしれません。でもどんな理由をつけようとも、戦争は最大の人権侵害です。「勇ましい言葉に踊らされず、かっこ悪くある勇気をもとう」。若い人たちに、そう伝えたいのです。
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