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リレーエッセイ
岡 知彦(おか・ともひこ)さん 第39回
ゆたかな街をつくるゆたかな出会い


岡 知彦(おか・ともひこ)さん

八尾市人権西郡地域協議会 相談員

しんどさを抱えた同級生との出会いが原点に

 ぼくが育った地域は部落解放運動が盛んで、ぼく自身もごく自然に「解放こども会」に入りました。とはいっても、ビラ配りを手伝いながら、リーダー格の子たちが積極的に活動する様子を見ているという感じでした。
 中学では誘われるままに部落解放研究部に入りましたが、野球部のほうが忙しくて名前だけの参加でした。3年になって顧問の先生から「文化祭でやる劇に出てほしい」と言われ、野球部も引退していたので、ようやく顔を出すようになったのです。実際に参加してみると面白く、差別や人権について考えることにどんどん引き込まれていきました。高校は「解放研があるから」と地元校を選んだほどです。
 高校では差別を実感する出来事もありました。1年生の時、校内のトイレで在日の子に対する差別落書きが見つかったのです。次は自分たち部落の生徒がターゲットになるのではないかと心が揺れ動きました。
 一方で、自分たちの学年をどうまとめていこうかという活動も活発におこなわれていました。クラスに溶け込めない子や学校に来られない子とどう関わっていこうかということを話し合うために合宿をした時のことです。一般地区の子たちも参加し、話し合ううちに、それぞれ自分たちが抱えているしんどさを泣きながら語り始めました。両親ともにおらず、高3の兄とふたり、働きながら自分たちで授業料を払っている子。ひとり親家庭で、経済的にも精神的にも苦しさを抱えている子・・・。
 ぼく自身はといえば、両親がいて、解放奨学金を受けて学校へ通っている。「部落出身者として差別されるかもしれないと言われてきたけれど、少なくとも今の時点ではこの子らよりもぬくぬくと暮らしている。なんでこの子らには奨学金がないのか。このギャップを何とかして埋めたい」と強く思いました。これが、ぼくなりの部落解放運動の原点です。

多くの出会いを通じて成長した高校時代

 高校3年になり、ぼくはいったん就職組を選びました。ところが1年生に担任だった先生に呼ばれ、「おまえはどうしようもないヤツだったけど、いろんな人と出会って変わってきた。人がそうして成長していくことを伝えていくべきじゃないか」と教師になることを勧められたのです。結局、受験に失敗して就職しましたが、ぼくの成長を見守り、声をかけてくれた先生には感謝しています。そして今、「友の会」の活動を通じて若い子たちと関わっていることを思うと、不思議なつながりを感じます。
 もう一人、印象深い先生がいます。ぼくが入っていたサッカー部に、半身マヒの同級生がいて、3年間一緒に部活動をしました。障害の有無とは関係なく、悪口も言い合う友だちづきあいです。そんな彼の姿を見ながら、先生は「あいつは障害をさらして生きていく。だけど部落の人間かどうかは見ただけではわからない。おまえはこれからどう生きていく?」と語りかけてきたのです。とっさに「自分も部落の人間であることをさらして生きていく」と答えましたが、その問いかけはずしりと胸に残り続けています。    

自分がしてもらったことを下の世代へ伝えていく

 民間企業に就職しましたが、青年部や「友の会」の活動には熱心に参加しました。ところが、公私共に忙しくなったメンバーが次々と離れ、活動がどんどん衰退していきました。やがて青年部は事実上、活動停止となったのです。
 そんな状況のなか、ぼくは自分ひとりでも青年部活動を再開しようと思いました。活動は強制されてやるものではない。みんながまたやりたくなった時に来てくれればいいと考えたのです。面白いことに、新たな仲間が少しずつ増えていきました。高校生たちが「自分たちも参加したい」と言ってきたのはうれしい驚きでした。いつの間にか、再び活発な青年部になっていました。
 小学生に高校生が勉強を教え、中学生には大学生が教える。自分がしてもらったことは、下の世代へ返していく。「友の会」ではそんな「タテのつながり」を大事にした活動をしています。また、ぼく自身が多くの人との出会いを通じて成長させてもらったので、若い子たちにさまざまな人との出会いの場を提供することを意識しています。ことさら部落問題をテーマにしたり、解放運動への関わりを求めたりはしません。ただ、「差別を許さない」という気持ちと、活動の拠点である人権ふれあいセンターや青少年会館は、先輩たちが解放運動に取り組んだからこそ建てられたということを、常に忘れないでほしいと伝えています。  

暗いだけじゃない部落の姿を発信してゆく

 4年前に人権ケースワーカー(人権相談員)、進路選択支援相談員の養成講座を受け、八尾市人権西郡地域協議会で相談員として働いています。人権ふれあいセンターで相談を受けるほか、地域の学校の先生と協力して総合学習のプログラムを企画するなど、子どもたちとの関わりも多くあります。
 相談の受付は同和地区に限っていませんが、まだまだ知られていないのが現状です。まずは知ってもらおうと、昨年は八尾市のヒューマンフェスティバルで「みかんを食べながら人権相談」という試みをしました。心を開いて相談してもらうためには、信頼関係が必要です。みかんでも食べながら、人権相談の主旨や西郡という地域でやっている人権の取り組みを知ってもらおうと考えました。
 部落差別は今もあります。悲惨な差別に苦しんだ歴史もあります。けれど部落だからとジメジメしていただけじゃない。助け合い、明るく生きようとした人たちがいたのです。そんなことも含めて、ひとりでも多くの人に人権の大切さを伝えていきたいと考えています。

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