大阪市東淀川区にある日之出地区は、新幹線が町を二分する典型的な都市部落です。来住者が多く、部落産業はなく、行商や土木作業などの雑業のまちです。わたしは44年前、結婚と同時に日之出地区へ来ました。見るもの聞くものが異文化で、興味をそそられました。葬式やとっくりかえし(婚約披露式)、結婚式などの酒の席で話される昔の苦労話は、軽妙で滑稽な人情味あふれる語り口でした。深刻な差別や貧しさを語っているのに、底抜けに明るいのはなぜだろう。不思議に思ったわたしは、ムラの人々の生い立ちを徹底的に聞き取り始めました。
すると日之出地区には多くの芸人さんがいたことがわかったのです。三味線などの楽器を鳴らし、二人一組で踊ったり歌ったりする法界屋や歌いながら菓子を売り歩くカリカリ屋、流しをする人が少なくなかったのです。さまざまな唄や音頭が唄いつがれてきたことも知りました。「部落には文化がない」という俗説は真っ赤な嘘だったのです。
わたしは、こうしたムラの文化を大切に記録し、いずれ記録集や絵本にして世に出したいと思うようになりました。