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リレーエッセイ
大賀 喜子(おおが・よしこ)さん 第34回
絵本で語りつぐムラの誇り


大賀 喜子(おおが・よしこ)さん

日之出の絵本制作実行委員会
部落には豊かな文化と伝統があった

 大阪市東淀川区にある日之出地区は、新幹線が町を二分する典型的な都市部落です。来住者が多く、部落産業はなく、行商や土木作業などの雑業のまちです。わたしは44年前、結婚と同時に日之出地区へ来ました。見るもの聞くものが異文化で、興味をそそられました。葬式やとっくりかえし(婚約披露式)、結婚式などの酒の席で話される昔の苦労話は、軽妙で滑稽な人情味あふれる語り口でした。深刻な差別や貧しさを語っているのに、底抜けに明るいのはなぜだろう。不思議に思ったわたしは、ムラの人々の生い立ちを徹底的に聞き取り始めました。
 すると日之出地区には多くの芸人さんがいたことがわかったのです。三味線などの楽器を鳴らし、二人一組で踊ったり歌ったりする法界屋や歌いながら菓子を売り歩くカリカリ屋、流しをする人が少なくなかったのです。さまざまな唄や音頭が唄いつがれてきたことも知りました。「部落には文化がない」という俗説は真っ赤な嘘だったのです。
  わたしは、こうしたムラの文化を大切に記録し、いずれ記録集や絵本にして世に出したいと思うようになりました。 

 
絵本にこめられた3つのねらい

 2001年、思った以上に早く、絵本をつくる機会がやってきました。「部落差別と貧困のなかを助け合って、しぶとく生き抜いた先輩たちの姿をムラの誇りとして子どもたちに伝えたい」という声が挙がり、日之出の絵本制作実行委員会が立ち上げられました。地元の父母、地域の保育所、小・中・高校の教師ほか有志30数名が集まり、熱い議論を交わしながらの絵本づくりでした。
 絵本のねらいは3つあります。一つ目は、厳しい部落差別と貧困のなかを強い連帯意識と助け合いによって、しぶとくたくましく生き抜いてきた人々の姿を再現することです。21世紀を担う子どもたちに、生活の知恵やしぶとさ、相互扶助の精神と伝統を「ムラの誇り」として受け止めてほしいと願いました。
 二つ目は、水平社創立80周年の記念としたいという思いでした。全国水平社は1922年に創立されましたが、日之出の寺の住職さんが西光万吉さんの従兄弟であった関係で、日之出ではいち早く東宮原水平社が創立されたのです。
  三つ目は、これまでの部落解放運動で蓄積してきたノウハウをムラから周辺へ、さらに日本から世界へと発信したいということです。困った人がいれば助けるというムラの良き伝統を生かし、新しい人権と福祉のまちづくりが始まっています。そんな日之出の姿をより多くの人に知ってもらいたいと考えました。

  
ムラに伝わる唄や音頭も取り入れた

 絵本には、「おたまさん」が隣近所の人々と“おかいさん”を分かち合いながら生きていく姿を描きました。おたまさんが唱える「おかいさん おかいさん ぐつぐつ ふつふつ こーい こーい。さあや はえ やれ ひとつまみ ぱっ」の呪文。「こーい こーい」は地域に伝わる子守唄から、、「さえ はえ やれ」や絵本の最後の「ほほい しゃん」は地域に伝わる中島音頭から採用しました。
 「おたまさん」は、山中タマエという、故人ですが実在の人物です。肝っ玉が太く、困った人をほっとけず、夫婦げんかをおさめたりヤクザに意見したりしました。バクチ好きという一面もありました。5歳からマッチ工場に住み込みで働き、読み書きは一生できませんでした。布団の仕立ての仕事で孫ふたりの面倒を見、その孫が始めた部落解放運動の一番の理解者でもありました。
 画家は、今や売れっ子の長谷川義史さんです。藤井寺市の出身で、「部落は怖いところ」と教えられて育った長谷川さんは、編集者からの依頼に対し「差別する側のわたしでいいのですか」と訊かれたそうです。「だから、いいのです」といった問答を経て、日之出の高齢者とのよき出会いがあり、「怖い」という気持ちは消えてしまったと述べられています。何回も取材を重ねられ、すばらしい絵となりました。
 長年、朗読活動に活躍された「なにわ語り部の会」から禅定正世さんや錺 栄美子さんたちも参加してくださり、多才、多様な人々と共に取り組むことができました。

    
これからは「静かな暖かみのある運動」文化活動の出番

 絵本制作の段階から、作ってしまったら終わりではなく、絵本を活用しようと準備を整えてきました。青少年会館で外部に公開して朗読ボランティア講座を開催し、朗読講師を養成して学校や子ども会での読み聞かせ活動を行なってもらっています。地元はもちろん、各地で原画展も行ないました。2年前7月には山形で開催されました。高校生集会や支部大会でも絵本のスライド朗読を行い、集会を盛り上げています。また、平和教材として、戦後の生活を学ぶため、部落問題学習の導入など、多様な切り口で活用されています。
 部落には無数の「肝っ玉ばあちゃん」がおりました。彼女らが生活を支え、ムラを支え、運動を担ってきました。絵本という切り口で彼女たちに光を当てることができたことをとてもうれしく思っています。  これからの部落解放運動は、「静かな暖かみのある運動」、文化運動が中心になると考えています。部落差別をはじめ、あらゆる差別の根源はマイナス・イメージにもとずく「忌避意識」(さけ、きらう意識)です。この意識を煽るものとの闘いを展開し、プラス・イメージにつながる自覚自闘の実践をつみ重ね、文化活動を盛んにすることが大切です。それぞれの地域で多彩な文化活動が展開され、人々の心に人権の文化が根付くことを願っています。

絵本『おたまさんのおかいさん』(株)解放出版社 紹介ページ

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