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リレーエッセイ
柴尾 慶次(しばお けいじ)さん 第23回
虐待防止は視点の切り替えと法整備から始まる


特別養護老人ホーム・在宅サービス供給ステーション
「フィオーレ南海」施設長

柴尾 慶次(しばお よしつぐ)さん
継続的な関わりができる人や機関がない
 社会の高齢化が進み、介護が身近なテーマとなるにつれて高齢者への虐待がクローズアップされるようになりました。わたしが施設長を勤める特別養護老人ホーム・在宅サービス供給ステーション「フィオーレ南海」でも2002年より高齢者虐待防止センターを併設しています。取り組みをするなかでさまざまな課題が見えてきましたが、なかでも継続的に関わる人や機関がないためにケアマネージャーや支援センターが悩んでいるという実態が浮かび上がってきました。虐待は、発見した時点で虐待者との分離などの初期対応が求められます。しかし措置をすれば終わり、ではありません。そこから家族との関係づくりという大変な課題があるのです。しかし現状ではそういったフォローアップ態勢ができていません。特に虐待をしていたと思われる家族と関わり、調整をしていく担当者や機関がないのです。虐待を受けても、多くの人はいずれ家族のもとに戻りたいと考えます。特に高齢者には自分が築き上げてきた家や財産があり、そこに戻りたいというのは人情として当然のこと。わたしたちも環境さえ整えば帰したい。そのためには帰すための条件づくりが不可欠なのです。
「力の構造」から虐待が発生する
 介護保険制度の見直しのなかで「地域包括支援センター」という構想が出てきました。これは年齢や障害といった“ジャンル”にこだわらず、地域の課題に対応していく支援センターという位置づけです。高齢者虐待にはDVや児童虐待がからんでいるケースが少なからずあり、どんな虐待も根は同じだと痛感してきたわたしたちにとって、歓迎すべき構想です。しかし制度ができたからといって、現場がすぐに対応できるわけではありません。そのため、今年度より虐待の初期対応からフォローアップまで対応できるレベルの相談員養成を目指したセミナーを開催しています。
 人がふたり以上集まるところには「力の構造」が生まれます。それをどうコントロールできるか。その視点がなければ、従来のように「家庭内の問題」「施設内の問題」という切り分けになってしまう。家庭か施設かという垣根を越えて、虐待をボーダーレスなものとしてとらえ、議論していきたいものです。
制度が変われば虐待の状況や人の意識も変わる
 とはいえ、家庭は家庭の、施設には施設の問題があるのは事実です。たとえば1996年に虐待防止研究会が行った調査では、虐待者も被虐待者も8割が女性でした。ところが2003年に厚生労働省からの委託で行った全国調査では、虐待者の5割が男性で「サービスを使わせず、放置する」という虐待を行っていました。40代後半から50代が多く、9割が同居しています。つまり介護保険導入後、仕事についていない中高年の息子が親の年金・資産にしがみつく「パラサイト型」の虐待が増えているのです。それまで虐待者であった女性たちは、介護保険をうまく使って介護負担を軽減し家族関係を調整しているのでしょう。
 一方、施設では認知症の方に対して抑制や拘束もやむなしという雰囲気が多々あります。しかしたとえ認知症であっても、家庭で縛れば「虐待」になるし、道端で縛れば「犯罪」です。施設だからと許されていいはずがありません。最近、ホテルコスト(施設で生活するための部屋代や食事代、光熱費)という概念が出てきて、「利用者に負担を強いる」と反発の声もあります。しかし部屋代や食事代などを払うというのは下宿しているのと同じことで、居住権が発生するわけです。つまりノックもしないで入れば住居侵入罪になりかねないプライベート空間であり、まして抑制するなどとんでもないという意識を施設側がもついいきっかけになるとわたしは考えます。
 このように制度が変われば、虐待の状況や人の意識も変わります。制度や仕組みが変わった時にスムーズに対応を切り替えるためにも、人間関係のなかにある力の構造に目を向けるという根本的な議論が必要です。
被虐待者と援助者を守る法律を
 公にはあまり言っていないのですが、昨年から「高齢者」という言葉を外し、「虐待防止センター」と名乗っています。虐待の問題に幅広く対応できる機関でありたい、そういう人材を育てていきたいという思いをこめています。1年2年で人は育たないし、5年10年で変わるような底の浅いことはしたくない。50年後100年後に評価されることをしていきたいし、常に自分に問い続けていきたいと思います。
 虐待の問題は根深く、非常にデリケートな対応を求められます。被虐待者はもちろん、援助者も守られねばなりません。自分の立場を隠して身軽に動ける立場の人材も必要だし、一時保護には府県境を越えた措置も実現させたい。施設の危機管理体制も欠かせません。本気で関わるには相当の覚悟がいります。そのためにもぜひ法的なバックアップが欲しいところです。1963年につくられた老人福祉法は、認知症の増加や高齢者虐待の社会問題化にまったく対応できません。家族のあり方や社会の仕組みが変わった今、新たな法制度が必要です。まずは虐待を幅広くとらえた「虐待防止基本法」で人権規定をつくり、老人福祉法を見直す。そして「高齢者虐待防止法」につなげたい。高齢化社会の行く末を左右するテーマとして、ぜひ多くの人にも関心をもってもらいたいと思います。
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