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リレーエッセイ
亀井 明子(かめい あきこ)さん 第16回
教師時代に遭遇したさまざまな“暴力”を原点に


暴力防止情報スペース・APIS
亀井明子(かめい あきこ)さん
生徒から性虐待を打ち明けられて
 わたしは、「暴力防止情報スペース・APIS」をはじめ、フェミニストカウンセリング、COSMO(ドメスティック・バイオレンスのサポートグループ)、SSHP(スクール・セクシュアル・ハラスメント防止)、CAP(子どもへの暴力防止)など、子どもや女性に対する暴力防止を目的とした市民活動をしています。幅広く活動しているせいか、古くからフェミニズムの視点をもってこうした取り組みをしているように思われることが多いのですが、実は2000年まで大阪の公立中学校の教師でした。わたしの活動は、教師時代に遭遇したさまざまな“暴力”が原点なのです。
 最初は、一人の女子生徒が身内から性虐待を受けていることを打ち明けてきた時でした。部活を一生懸命やっている、元気で明るい彼女がそんな重い現実を抱えていることに驚きました。話を聞いてしまった以上、このまま家に帰せない。そう思ったわたしは彼女の意思を確認したうえで、その日からわたしの家で預かり、安心して任せられる先を探しました。児童虐待という言葉すらほとんど使われていなかった時代で、大学でも虐待や支援について教えられてはいませんでした。自分の判断が正しいのかどうか迷いながらも、子どもたちはそれぞれ背景をもっていることを身をもって知ったのです。問題行動を起こしてくる子どもに対しても、行動そのものを云々するのではなく、その子の背景をみていくことを大切にしました。
DVや孤立に悩む母親
 子どもの背景をみていけば、保護者が抱える問題に行き当たります。子どもと関わるなかでは保護者との信頼関係が非常に重要なので、わたしは積極的にコミュニケーションをとっていました。そこで母親から今で言うDV(ドメスティックバイオレンス)の被害を打ち明けられたことが何度もありました。子どものためにと我慢を重ねてきたけれど、中学生になった子どもから「自分たちもこんな状態は嫌だ」と背中を押され、遠い親戚を頼って大阪へ出てきたという母親。姑や教師から子どもの問題行動の責任を問われ、追い詰められて苦しむ母親……。人はカミングアウト(自ら公表)するとガチガチになっていた肩の力がフッと抜けます。けれどカミングアウトするには大きなエネルギーが必要だし、後のフォローも欠かせません。子どもたちから相談を受けることも多く、きちんと対応する責任を感じたことからカウンセリングを学び始めました。その過程でフェミニズムの視点を取り入れたフェミニストカウンセリングを知り、子どもや女性に対する暴力が生まれる構造や男性中心の社会のあり方が見えてきたのです。
スクールセクハラに巻き込まれる
 友人の娘さんが学校でスクールセクハラに遭い、学校側と解決に向けての話し合いをしたのがきっかけで、友人知人を通して持ち込まれる相談に個別対応するようになりました。「学校のことを相談できるところがない。あなたにやってほしい」と言われましたが、まだ教師をしていたわたしには全面的に引き受ける余裕はありませんでした。
 ところがある時、わたし自身がスクールセクハラに巻き込まれたのです。勤務先の中学校で、女子生徒に対する教師のセクハラ行為が発覚。当初は女性教師を中心に「許されないことだ。きちんと対応していこう」という空気がありました。けれどもわたしが情報提供などの協力を申し出ると、加害者側についた教頭から「同僚をやめさせようとした」と名指しで非難され、流れが一変しました。対応すればするほど校内が混乱し、教師たちが分裂していきました。「いつまでやってるの」「他学年のことに首をつっこむな」という声がきこえてきて、ついには職員室に入ろうとすると体に震えがくるようにまでなったのです。一週間、学校へ行けませんでした。
 受け持ちの3年生を何とか卒業させ、辞めようと思いました。でも被害者はまだ学校に在籍しています。その子を置いて辞めるわけにはいかないと、被害者が卒業してから退職しました。
政策・施策決定の場に女性を
 「学校で子どもが人として扱われるようにしたい。けれども学校という組織のなかにいたのでは消耗するばかり。市民活動を通じて子どもや女性への暴力防止を訴えていこう」。そう考えて、今に至ります。カウンセリングのカの字も知らず、もともと教師になったのも女性が一生続けられる仕事だと考えてのこと。こうした活動をすることになろうとは想像もしていませんでした。でも男性社会のなかにある暴力構造に気づいてしまった以上、見過ごすことはできません。
 教師になった年から今に至るまで、子どもや女性に対する暴力は認知こそされ、減ってはいません。その理由を突き詰めていくと、子どもや女性に対する施策ができていないことに気づきました。そもそも施策を決定する場に女性がいないのです。国会から学校まで、何かを決める場では男性がほとんどです。ただここ数年、超党派の国会議員によってDV防止法や児童虐待防止法がつくられていったことには希望を感じています。
 暴力の被害者をサポートする活動と同時に、政策提言をしている世界女性会議ネットワーク関西にも所属し、行政も含めた政治への関わりを持ち続けています。社会における暴力の構造を変えていくためには、議員が市民の代弁者としての役割を果たしているかどうか見極めていくことも大切だと考えています。
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