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リレーエッセイ

かわしまよしお氏 第1回
人権教育を生きたものにするために



 大阪大学名誉教授
 ヒューライツ大阪所長

 川島 慶雄(かわしまよしお)さん


法を生かすのは個人の人権感覚

近年、人権という言葉や概念は急速に人々の間に広まったように見えます。男女共同参画社会基本法をはじめ「人権尊重」を謳った法律も整備されてきました。これはこれで喜ばしいことです。しかし、法学研究者のひとりとしてはこうも思うのです。「法律は、終局的には人の行為を規制できない」と。現実に毎日どこかで殺人事件が起きています。「絶対に人を殺してはいけない」という気持ちが人々の心に芽生えてこそ、法律が生きてくるのではないでしょうか。
人権意識にも同じことが言えます。法律があってもなくても「お互いの人権を尊重しよう」と思う心を育てなくてはなりません。これは教育の役目です。たとえば子どもの頃から家庭、学校、地域などあらゆる場でお互いを尊重する感性をはぐくむ機会をつくることです。

負の遺産を世界へ発信したニュルンベルク

2000年、「ヒューライツ大阪」は日本初の「ユネスコ人権教育名誉賞」を受賞しました。表彰式が行われたのはドイツの古都「ニュルンベルク」。ここはかつてナチスの本拠地でもあった保守的な土地柄です。しかしヒットラーが党大会開催のために造りかけていた巨大なスタジアムを歴史資料館に造りかえ、人権の尊さを若い人々に示そうとしていました。歴史に汚点を残す人権侵害の中心であった街が、全世界に向けて自らの道義的責任を果たそうとする姿勢に強く打たれたものでした。
人権通り 街には「人権通り」があります。通りに建つ29本の円柱にはそれぞれ世界人権宣言が1条づつ、ドイツ語と世界各国の言語で刻まれています。26条の「教育を受ける権利」はドイツ語と日本語で書かれていました。市民は散歩をしながら「世界人権宣言」を学ぶことができるのです。これこそがまさに生きた人権教育だといえるのではないでしょうか。こうした取り組みが評価され、「ニュルンベルク」は人権教育賞を受賞しました。
ドイツはまた、旧西ドイツ時代には難民の保護が手厚いことで知られていました。これは戦後の為政者たちの多くがナチス時代に難民であったことに由来します。研究者時代に難民問題に目覚めた私は当時の西ドイツへ2年間留学し、難民に関する裁判の判例を調べました。その「人権尊重」の精神には大いに学びました。
たとえ「負の遺産」であったとしても、過去から目をそらさず、過ちを正して次世代に伝える。ドイツをはじめとする西ヨーロッパの人権意識の底には、こうした思想があるように思えます。人権に対する感覚はそれぞれの国の「歴史」や「文化」が色濃く反映するため一概にはいえないのですが、日本の人権意識とのずれを感じます。

社会のルールを身をもって教えよう

10年ほど前に中国・北京の中国社会科学院に招かれました。「天安門事件」の余波が残る中国で、人権問題を研究する学者たちは矛盾を抱えつつ、外国との交流を切に求めていました。中国国家の人権意識について私が率直に意見すると、苦笑しながら「もう少し待ってくれ」と言いました。どんな国も「人権尊重」の世界的な流れには逆らえません。また、歴史に学ぶ姿勢が大切なのです。
国際的に見れば日本は相対的にはそれほど悪くはないように思えます。しかしたとえば裁判となる人権侵害は多くなくとも、日常生活のあちこちで人権問題は起きているのではないでしょうか。私たちもまた自らを振り返り、人権尊重の姿勢を子どもたちに伝える責任があります。何も大げさなことではありません。たとえば親は「社会」のルールを身をもって教えることです。人が2人集まれば、ひとつの「社会」となります。「社会」を営んでいくためには他人も自分と同じ人間なのだという意識をはぐくみ、最低限のルールを守らなくてはなりません。それがお互いを尊重しあうことになるのだと子どもに伝えることが人権教育の第一歩なのです。

『人権通り(Way of Human Rights)』の写真は、ニュルンベルク市ホームページより提供いただきました。
http://www.menschenrechte.nuernberg.de/e_index.html
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