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...令和4(2022)年度 第3回...

LGBTQはあなたのすぐ隣に

性の多様性の理解が広がる社会に向けて私たちができること


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大久保暁さん
(暁project 代表)


 

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女の子らしくできない違和感

 私は高知出身で、女の子として生まれました。31歳の時に戸籍を女性から男性に変えて生活しています。高知には、私を昔から知っている人が多いことや戸籍を変えてからの生き辛さもあり、環境を変えようと知り合いが多く、ゆかりのある大阪に出てきました。

 私が違和感を覚えたのは、たぶん小学生ぐらいからです。小学生当時はLGBTQという言葉はなく、当時は「女の子らしくできない」「身体の成長が嫌だな」と感じていました。6年生ぐらいに恋愛対象が女の子だと分かってきましたが、学校では異性愛を前提にした教育しかなく、自分はおかしいのかなと感じていました。その後、女子高に進学しますが、身体の成長は嫌なままでした。女の子を好きになった過去は絶対に人には言ってはいけないと、隠しながら生活をしていました。

 はっきり私がトランスジェンダーだと、セクシュアリティとして分かったのが、245歳前後ぐらいの時でした。いろいろな人と出会う中で、自分の生きづらさはトランスジェンダーだからだと気づいたら、すべてが楽になりました。人生の歯車が本当に合わさったように、全部が動き出して、うまく行き始めたといった感じでした。

 大阪では、LGBTQの集まりに参加していました。そこで、今の妻と知り合いました。妻を紹介者してくれた友人も戸籍を女性から男性に変えているのですが、その友人と妻は高校の親友でした。妻はその友人がおとなに成長していく過程で戸籍などを変えていく姿を身近で見ていたそうです。そうした環境だったこともあり、トランスジェンダーへの偏見もなく、私を受け入れてくれました。

 結婚に対して、周りの反対はありませんでした。私の両親は、まさか結婚できるなんてと思ったらしく、妻に感謝しかなかったようです。また妻の家族も、妻の友人がトランスジェンダーであったこともあり、理解もありました。妻の母は、最初ちょっと驚いたそうですが、「あなたが幸せになれるんだったら応援するだけだよ」と言ってくれました。また妻の父は、「一人の人として彼を見たらすごく興味がある」と言ってくれました。夫婦で子どもが大好きなので、将来は子どもを持つ選択ができるようになればと思います。

 

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活動をはじめたきっかけ

 暁projectを始めたきっかけは、トランスジェンダーで私と同じセクシュアリティで小学校の先生をしている知人から、自分の勤める学校の教員たちに「トランスジェンダーとしての経験を語ってほしい」と言われたことからでした。私の話が役に立つのか?と思いながら話をしたところ、体験談など知らないことばかりだったとの感想がありました。もしかしたら、自分の経験が誰かの役に立つのかもしれないと、先生向けに講演活動も始めました。

 次は生徒たちにと依頼があり、小学4年生に話すことになりました。私が思う以上に子どもたちはとても柔軟でスポンジのように話したことを吸収して、すごくまっすぐな感想をもらいました。子どもたちに伝える大切さを感じ、本格的に講演活動を行おうと決意しました。

 子どもたちに向けての話では、LGBTQの話をきっかけに「顔や国、肌の色、言葉も違ったりすることが当たり前で、人と違うと悩んでいる子はLGBTQに限らずにいること。その違いで、いじめられてもいい人、いじめっ子になっていい人はいない」ことを話します。そこから人権について話しています。

 また子どもたちに「カミングアウトされたら、なんて伝えてあげる?」という話しもします。自分事に置き換えて考えてもらい、「どんな人にだったら相談する?」と聞くと「信頼している人」「親友」と答えが返ってきます。「カミングアウトされたら、それは信頼している証拠だから、しっかり話を聞いてあげてね」と話します。

 講演会後、みんなの前で自分がゲイだと言うことをカミングアウトした子もいました。子どもたちから、その子に対して「言ってくれてありがとう」と泣いている子もいました。みんなの心をちょっとでも動かすことができたのかな、一歩勇気を踏み出せさせてあげられたのかな、と感動的で活動していてよかったなと思ってます。

 

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「いない」存在から相手に選択肢を与える会話へ

 市民向けの講演では、参加者のほとんどが「LGBTQと出会ったことがない」と答えますし、「LGBTQの人となかなか出会えない」という人もいます。これだけLGBTQのことが話題になっていても他人事、遠い世界の話だと感じている人が未だに多くいます。

 LGBTQは、まず知ってもらうことが第一だと思っています。

 LGBTQの人はクラスでは23人ぐらいいると言われており、その数は左利きの人と同じぐらいだとも言われています。例えば、左利きの人と出会ったことがない人はいないと思います。LGBTQの人たちは、ほとんどの人は自分がトランスジェンダーだと公言しながら生活をしていないため「見えていない」だけで、左利きの人と同じだけいると考えると、身近にいると実感しやすいのかもしれません。

 「出会ったことがない」だけでなく、普段の会話でも異性愛が前提で同性愛者の存在は「いない」と扱われることが多いです。それが無意識の差別なのかもしれません。

 また、同性カップルが福利厚生を受けられなかったり、家族として認められない現状があります。LGBTQのイベントであるレインボーフェスタには、女性同士や子どもを抱いている家族が多く参加していますが、公的に結婚は認められていません。LGBTQのイベントには、たくさんの企業が参加していますが、ほぼ大企業です。当事者の多くは、中小企業で働いていることが多いはずなので、もっと中小企業にも参加してほしいと思います。また国ももっと前向きにLGBTQの取組を進めてほしいと思います。

 他に、私はトランスジェンダーが生殖器を取る手術をしないと性別が変えられないのは人権問題であり、差別だと思います。戸籍変更要件の緩和と法律で同性婚を認めること、この2点を早く認めてほしいと思います。それらが認められると、日本中でもっとLGBTQについて知る機会が増えると思います。

 オランダは、同性婚を世界で最初に認めています。そのような国では、恋愛の話になると「どんな男性がタイプなの?」ではなくて、「あなたの恋愛対象はどっち?男性なの女性なの?」というように選択肢を持って会話をします。LGBTQの当事者であることに誇りを持って生きている人が多く、「恋愛対象は?」「私はレズビアン」「私はゲイ」「子どもが欲しいし、こんな家に住んでこんなことをしたい」という将来の夢まで話せるそうです。

 言葉を選ぶだけで相手を傷つけないことはたくさんあると思います。好きな人を尋ねる時も「彼氏」や「彼女」ではなく、「パートナー」や「つれあいの人」というなど、相手に選択肢を持たせてあげられるような会話ができるといいのかなと思います。

 

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変わったことと、変わらないこと

 幼い頃から、LGBTQに関する知識があれば、感情を素直に言えるようになると思います。

 今はLGBTQがテーマの絵本などがあります。絵本では、人は小さい時は男女問わず好きになり、誰々が好きと言っています。子どもへの読み聞かせなどで、物心ついた時から様々な家族の形があり、好きになる人がどんな人でもいいと伝えることが望ましいと思います。今はまだ異性愛前提の社会で、子どもたちはおとなの影響を受けるため、おとなの言葉は本当に大事だと思います。

 昔と変わったことは、LGBTQがテレビで笑い者として扱われなくなったことです。昔は自分たちより上の世代の人たちは、家族がそれを見て笑っていたら、親から笑われるかもしれないと思い、自分のセクシュアリティを家族には言えませんでした。でも今の子どもたちは、そもそも家族でそれを見て笑う構図がないためか、自分のセクシュアリティを一番初めに家族に言うことがすごく多くなっています。本当に良い環境になったなと感じています。もちろん、今でも親に言えない子もいますが、私たちの時代に比べると家族に話しやすくなった環境になったと思います。

 変わらないところは、国レベルのLGBTQに関する法律です。今は過渡期だと思います。

 学校の先生方は、文部科学省から通達によりLGBTQの児童生徒への対応を行ってきましたが、「どう教えるか」についてはマニュアルもなく手探り状態です。教科書に載ることが全てだとは思いませんが、知るきっかけにはなります。LGBTQ関連の法律が整備されて、教科書に載ることで、先生方ももっと伝えやすくなるでしょう。

 また、今はSDGsにジェンダー平等も入っているので、以前に比べたらLGBTQのことも伝えられるようになりました。しかし、教科書にはまだまだジェンダーバイアスが入っています。女の子は長い髪をくくり、可愛いらしい服装、男の子は男らしくというような典型的な絵しか使われないものが多かったりします。今の時代では、男の子でもスカートをはいたり、女の子でも髪が短かったりといろんなスタイルがあるので、そういったことも考えてほしいと思います。

 また不必要な男女分けはなくせばいいと思っています。どうしても、身体的に男女で分けなければいけない時もありますが、不必要に男女で分けるということをしないでいいようになればと思います。

 大阪や京都では、高校入試の受験票の性別欄がなくなりました。また履歴書に性別欄がなくなっている例もあります。

 

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性の多様性に理解のある社会へ

 講演会では、苦労話もしますが、笑いやクイズを入れたりしながら、明るく活動しています。苦労話ばかりだと、聞いている子どもたちは「LGBTは大変なんや」「かわいそうやな」と受け取ってしまいかねません。溝みたいなものが埋まるようにと思っています。

 また相談場所があることも大きいことだと思います。大阪は、淀川区が日本で最初にLGBTの相談窓口を開設した歴史のあるところです。そういった取り組みがすごく大事だと思います。モデルケースのように取り組みが広がればいいなと思いますし、安心感も生まれるでしょう。ただ行政の相談窓口は、かたいイメージもあったりして相談しづらい場合もあります。しかし、今では民間団体なども相談窓口があるので、行きやすいところを選べることも安心感へとつながっています。

 私が若い時代は、ロールモデルがいませんでした。戸籍を変えるところまで突っ走りましたが、今は選択肢が増えてきています。いつか、わざわざLGBTQの講演活動をしなくてもいい多様性が当たり前の時代が来るようになればと思っています。


                             (2022年12月掲載)