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..令和4(2022)年度 第1回...

全国水平社創立100周年をきっかけに

多様な差別問題に気づく

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大阪人権博物館(リバティおおさか)
館長 朝治武さん



sub_ttl00.gif差別解消に取り組む原点となった水平社

 私が館長を務める大阪人権博物館(現在は休館中)は、人権に関する総合博物館であり、水平社に関する展示も行っていました。水平社は私の研究テーマでもあります。

 部落解放運動の原点は、1922年3月に京都で創立された全国水平社です。創立の背景には、1871年にいわゆる「解放令」が明治政府より出されましたが、部落差別の撤廃は進まず、被差別部落(以下、部落と言います)の人びとの生活は困窮する状況がありました。差別をなくしていく取り組みとして、当初は、差別の原因を部落に見出して部落の人々に努力を強いるものでした。次に、部落内と部落外が仲良くして差別をなくそうとする運動が起こります。これは主として部落外の人が部落の人びとを憐れんで助けるものでした。これに対して、部落の人びとから不満が出てきます。そして行き着いたのが、部落の人びとが起ちあがり、自らの力で差別をなくす自主解放の運動、いわゆる水平運動でした。

 水平運動を象徴するのが、全国水平社創立大会で採択された「綱領」「宣言」「決議」です。「綱領」では、①部落の人びと自らの力で自主解放する、②差別をなくすためには職業の自由・経済の自由を勝ち取る、③部落解放は人間性やすべての人びとの解放と結びついていること、と表明しました。「宣言」では、「人間を尊敬する事によつて自ら解放せんとする者の集団運動」、つまり部落差別をなくすためには人間の尊厳を守る運動である、と主張しました。そして「吾々がエタである事を誇り得る時が来たのだ」と言って、部落の人びとのアイデンティティにつながる考え方を強調しました。「決議」では、「徹底的糺弾」を掲げました。今日的な言葉に置き換えると、差別をされた時は泣き寝入りではなく「異議申し立て」をおこなうとしたのです。このように、現在の部落差別解消に取り組む原点・思想・理念が形成されていったのです。



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多様な被差別マイノリティにも広がる影響

 このように水平運動は、部落差別からの解放を求めましたが、当時は部落差別の他にもさまざまな差別がありました。この時期は、世界的にも国内的にも反差別運動が起こってくる時代で、水平運動の理念は、多様な被差別マイノリティの運動に大きな影響を与えました。

 まず1つ目は、部落の女性が婦人水平社をつくり、部落差別とともに女性差別をなくす運動を進め、日本の女性解放運動にもつながっています。2つ目は、在日コリアンへの差別に対する解放運動をおこなう関西朝鮮人連盟が、水平社の支援でつくられます。3つ目は、関西に在住する沖縄の人たちが関西沖縄県人会をつくり、反差別運動を始めます。4つ目は、アイヌの人たちも解平社という組織を水平運動の影響をうけてつくりましたが、名称からも水平社の影響が伺われます。5つ目は、ハンセン病回復者が大阪の外島保養院で、差別をなくすために「日本プロレタリア癩者解放同盟」をつくろうとし、その「綱領」(案)に全国水平社の「綱領」と同じような表現が出てきます。また国外では、植民地朝鮮で差別をうけていた旧「白丁(ペクチョン)」の人びとが、「衡平社」という団体をつくり、水平社と交流しています。

 このように、当時の水平運動が国内外の差別撤廃や、多様な人権確立・課題を提起する運動と深くつながっていたことが歴史的にも見られます。



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差別問題に気づくきっかけとして

 水平運動は、被差別当事者以外の多くの人びとにも影響を与えました。政治家や弁護士、文学者、ジャーナリストなど、多くの人たちが水平社に共鳴して、部落の問題を社会に訴えています。

 水平社の活動を契機に、部落外の人びとにも拡がった部落差別解消の取り組みは、戦後には、1965年の「同和対策審議会答申」、1969年の「同和対策事業特別措置法」へとつながっています。それに続くように、女性や障がい者、ハンセン病回復者、アイヌ民族など、多様な被差別マイノリティの自主的な運動との連帯をへて、施策や法律ができています。また、国や地方公共団体がさまざまな差別問題の解決に向けて積極的に取り組む社会の枠組みもできてきました。

 一方、現在では情報化社会が進展し、ネット上で被差別マイノリティを攻撃、憎悪することが社会問題になっています。これは被差別マイノリティだけでなく、ある特定の個人を攻撃するなど、多様な人びとがネット社会の被害者になっています。まさに民主主義や人権の問題が、被差別マイノリティだけの問題にとどまらず、誰にでも起こりうる問題でもあると気づかされます。

 水平社の活動に影響を受けて、さまざまなマイノリティの問題が社会化されたように、全国水平社創立100周年は、多様にある差別問題に気づくきっかけになると言えます。誰もが自らの権利を侵害される可能性があることに気づき、日本国憲法に規定された民主主義の社会をつくる、誰もが人権が守られることを考えるところに意味があるのではないでしょうか。


                        (2022年8月掲載)