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...令和3(2021)年度 第4回...

「もったいない」を「ありがとう」に!       食品ロスの問題を食の支援につなげる活動


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認定NPO法人ふーどばんくOSAKA

事務局長 森本範人さん



sub_ttl00.gif「食は人権」をキーワードにフードバンクOSAKAが誕生

 
 2011年、東日本大震災の際にセカンドハーベスト・ジャパンが被災地に無償で食品を提供していたことがクローズアップされました。また栃木県の部落解放同盟が同様の取組を行っていたことに触発され、2013年4月、ふーどばんくOSAKAをNPO法人として大阪府堺市に立ち上げました。

 まだ食べられるのに捨てられる食品がたくさんあり、一方で食べ物の支援を必要としている人がいます。食べることができないことは、日本国憲法がうたう基本的人権が侵害された状態だと私たちは思います。私たちは「食は人権」という理念のもと、企業や生産者、個人の方から提供していただいた食品を、必要としている団体や施設、人などに配布する食の支援を通じて、地域と人、人と人とをつなぐことで安心して地域で暮らせることを目的に、「もったいない」を「ありがとうに」という合言葉で活動をしています。



sub_ttl00.gifこれまでのつながりや取組がコロナ禍での支援にも活きていることを実感

 
 2020年3月あたりから、新型コロナウイルスの感染が日本でも拡大し、緊急事態宣言が出されて、社会全体の活動が制限されました。このとき社会的弱者といわれる層は、さらに深刻な影響を受けました。外出自粛により、特に字を読むことが難しい人やインターネットをうまく使えない人たちに行政からの必要な情報が届かないといった状況が生まれました。また地域や民間団体による支援活動も制限され、食の支援を受け取ることが難しい状況もありました。

 コロナ禍以前まで、何とか生活をしていた人たちは、コロナ禍でより社会的・経済的孤立を強いられ、どんどん社会から切り離されたのです。その結果、「食べるものがないので送ってもらえないか」などの問い合わせや相談が多く寄せられました。当法人は、貧困対策の組織ではないのですが、このような状況を受け、緊急支援というかたちで食支援を行ってきました。

 この食支援の情報が広まり、問い合わせや相談の件数はさらに増えていきました。今まで1週間に5、6件だった件数が、1日に10件を超え、「数日間、ごはんを食べていません」など内容もより切羽詰まったものになっていきました。さらに相談を丁寧に聞いていくなかで、夫からのDV被害や、離婚、子育ての悩みなど、当法人だけでは対処できない相談も寄せられました。とくに深刻なのは、日本に滞在している海外の方からの相談でした。「仕事がなくなり、ロックダウンによって母国に帰ることもできず、預貯金が尽きて助けてほしい」といった、本当に余裕のないもので、そこには行政や地域の支援が行き届いていない状況が見えました。

 またコロナ禍前までは生活が苦しいながらもなんとか働いていた人から「コロナの影響で仕事を辞めさせられた」といった相談があったり、子どもがいるひとり親家庭の女性からは「休校で出勤が不安定になった結果、仕事を辞めさせられたのでどうしたらいいか分からない」といった相談もありました。もうひとつ顕著だったのは、生活保護を受給されている方からの相談の急増で、その多くの相談者は、生活保護受給者で受給6カ月未満の方でした。このような相談から、コロナの影響は社会的に弱い立場にある人がより困難な状況に追い込まれているといった状況が見えました。

 相談内容にもよりますが、これまで当法人は様々な地域のまちづくり運動とコミットしてきたこともあり、相談者を地域の支援団体や相談窓口、ケースワーカーや社会福祉協議会、子ども食堂へとつなぐことができた事例があるなど、この2年間は非常に多面的な活動をしてきました。


sub_ttl00.gif活動を通じて見えてきた本来の支援のあり方

 
 この活動を通じて感じたことは、食支援はすべての相談の入口だということです。例えば、生活相談の相談員から、「窓口に来られた相談者に、とりあえず食べ物は提供できることを伝えると、落ち着いて話をしてくれるようになった。ふーどばんくOSAKAがあることに勇気づけられた」との言葉をいただきました。このように食支援は、支える側にとっても重要なツールであり、そこからさらに困難なケースの解決につながる可能性があることを、コロナ禍で痛感させられました。

 同時に、緊急支援をするなかで、違和感も覚えました。多くの相談者から「恥ずかしいけれど、支援してほしい」と言われるのを聞くにつけ、この活動が「持てる者から貧困層に恵む」ような取り組みに映っていることです。これでは、支援を必要としている方にとって食糧支援を受けることは、屈辱以外のなにものでもありません。

 先ほど申し上げた通り、「食は人権」であり、満たされない状況に陥った時に支援を受けるのは、その人の権利を守っていくためには必要なことです。しかし、今の社会には自己責任論が横行し、その結果、自分で食を確保できないことを「恥ずかしい」「申し訳ない」と感じ、当事者から支援を求めづらい状況にあります。そのためにも、潜在化してきた非正規労働者の問題や、シングルマザーを取り巻く社会環境などは、自己責任ではないという共通認識が必要です。個人が努力をしても、あらがいきれないことはたくさんあります。

 「がんばりなさい」とか「働きなさい」と、本人の努力だけに委ねるのではなく、その人の過去を見て、子どもの将来を考え、みんなで力を合わせて地域でどう暮らすのかといった社会で支えていくことが必要であり、それをコーディネートするのが当団体の支援のあり方です。その大切さが、この間の活動からより鮮明に見えてきました。

 食品ロスの食材を活用して、いかに笑顔につなげるかが主目的の組織ですので、人が本来もっている力を、食を介して発揮し、みんなが笑顔になれることをめざした支援なのです。

 啓発活動として、こういった社会に対する見方を含めた当団体のミッションを子ども食堂などで説明する取組も行っています。

 

sub_ttl00.gifこれからの活動を、行政や市民の役割とともに考える


 昨年頃からフードパントリーを実施するスーパーが増えています。フードパントリーとは、家庭や店で使われずに残っている未開封・賞味期限前の食品を寄付してもらい、必要としている方に使ってもらうという仕組みです。

 良い取り組みだとは思いますが、私は問題もあると思っています。ひとつは、無料で誰もが寄付された食品支援を利用することができるとなると、食料を買うなども含め計画的にお金を使わなくてもなんとかなる状況を生み、金銭管理といった支援の妨げになる可能性があることです。もうひとつは、支援を受ける方が民間の支援団体とつながりができることはよいことですが、行政とのつながりが減り、築きあげてきた行政との関係性が希薄化され、行政からの支援から遠ざかる可能性があることです。また、運営面において懸念されることは、衛生面の管理と責任の所在の問題です。個人が自由に食品を持ち寄る場合、へたをすると単なる「もったいない」の廃棄場になってしまい、廃棄の管理といった衛生面の徹底ができないという恐れがあります。

 当法人では、寄せられる食品を、責任をもって管理し、必要なところに食品の提供を行い、期限内に消費してもらいます。食品の取り扱いに関するルールを厳格化し、社会貢献活動としてしっかり位置づけているのです。

 今後は、誰もが人権が守られるために行政だけに役割を求めるだけでなく、わたしたち当法人にとってどのようなことができるのか、課題解決に向けた支援のあり方を模索しながら、活動していきたいと思います。



                        (2022年3月掲載)