新着情報

...令和3(2021)年度 第3回...

DVを温存する社会を変えるために何ができるか

加藤伊都子さん 写真.jpg






有限会社フェミニストカウンセリング堺、

認定フェミニストカウンセラー

加藤伊都子さん




sub_ttl00.gif

女性への暴力を生み出す男性優位社会と女性差別


 DV(ドメスティック・バイオレンス)と聞いた時、多くの人は殴る蹴るといった身体的暴力を思い浮かべるのではないでしょうか。身体的暴力は音や悲鳴、怪我などで「見えやすい」のですが、暴力はそれだけではありません。経済力を誇示する一方で生活費を渡さない、「おまえなんかに何ができる」などとパートナーをおとしめる、力づくで性行為を強要する。これらは「経済的暴力」「精神的暴力」「性的暴力」、すなわちすべて「暴力」であり、人権侵害です。

 2019年度の配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等の調査結果(内閣府男女共同参画局)では、女性からの相談件数が全体の97%以上を占めています。女性から男性へのDVもありますが、圧倒的に多いのは男性から女性への暴力です。背景には「男性優位社会」と「女性差別」があります。政治や企業のトップは圧倒的に男性が多い、シングルマザーの年収が平均200万円に満たない、というのは個人の努力や才覚によるものではありません。

 私が受けた相談でも、コロナ禍以降、「自分はテレワークで子どもが家にいて、昼間は子どもの世話で仕事ができず、寝不足でおかしくなりそう。」など、女性に負担が集中し追い詰められる内容を語られた方がいます。

 女性は家事育児を中心に担うことが多く、正規ではなく非正規を選ばざるを得ない状況があります。その反面、男性は経済的役割を期待され、正社員も男性の方が多い状況です。そのことが結果的に男性に有利な賃金体制になっています。

 また家族単位でとらえる社会制度なども、女性が個人として自立するのをはばんでいると私は思います。


sub_ttl00.gif

「男女差」は本能ではなく、社会を反映した「文化」


 日本でこうした男性優位社会を存続させてきたシステムのひとつとして、「教育」があります。教育とは学校でおこなわれるものだけではありません。乗り物に興味をもつ男の子に「やっぱり男の子だね」などと声かけをしたことはないでしょうか。「男女では生まれた時から興味関心が違う」とまるで本能のように言われることがありますが、実際は「生まれた時から育てられ方が違う」のです。

 たとえばスポーツ。18・19世紀の女性はスポーツすることを許されていませんでした。一方、男性は子どもの頃から身体を使って相手に打ち勝つトレーニングを重ねます。父から子へ、先輩から後輩へと「競争に打ち勝つ」という価値観が継承されてきた男性と、「しとやかで気遣いのできるように」と育てられる女性とでは体格や腕力以前に価値観や生き方そのものに大きな違いが生まれるのは当然です。男女差は本能ではなく、社会の「こうあるべき」という意識を反映した「文化」です。そしてDVとはそうした社会構造から生まれたものなのです。


sub_ttl00.gif

暴力の被害者が加害者となる背景


 よく「男も辛いんだ」という言葉を聞きます。それも事実ではあるでしょう。「男はこうあるべき」というプレッシャーと競争社会の厳しさに苦しむ男性がいるのも知っています。だからといってその苦しさを自分より弱い立場にある人にぶつけることがあってはいけません。

 私は被害を受けた女性のカウンセリングをしていますが、加害者のカウンセリングに関わる専門家の話を聞く機会もあります。そこで加害をした男性には、自身も暴力を振るわれながら育ったり、ひどいいじめを受けたりしながら、「自分は暴力をふるわれた」「傷ついた」と自覚しないまま成長してきた人が多いと聞きます。「部活でしごかれたから強くなれた」「先輩の言うことを聞くのは後輩として当然」と周囲も本人も暴力を愛情や絆、通過儀礼としてすり替える。「辛い」と思ったとたん、男として「負け」になるからです。親から高い学歴を求められ、ひたすら勉強を強制される「教育虐待」を受けた人も多いそうです。

 自分がそうして生きてきたので、妻がのんびりしていたり、子どもが不登校になったりするのは許せない。だから力を行使して「正そう」とするんですね。「男も辛いんだ」ではなく、まずは自分が傷ついてきたことを自覚することが必要です。自分の傷つきや悲しみを自覚した時に初めて自分がしてきたことと向き合えるようになると思います。


sub_ttl00.gif

暴力の概念を広げ、女性を孤立させない

 
 社会がすべきことはたくさんあります。「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)」が施行されましたが、保護命令の対象は身体的暴力に限定されるなど抜け落ちてしまう被害がたくさんあります。202010月、日本弁護士連合会がDV防止法の改正を求める提言を国に出しました。国(内閣府)はDVを「身体的暴力、精神的暴力、性的暴力」と定義しているのですが、監視や外出の制限をする「社会的暴力」とお金を渡さない、あるいは取り上げるなどの「経済的暴力」も暴力であることを明記すべきという内容だと思います。「人の尊厳や権利、自由を侵害する行為は暴力であり、人権侵害である」と社会全体の共通認識としなければDVをはじめ女性に対する暴力は温存され続けます。

 私たち市民にもできることがあります。ここまで述べてきたような暴力を生む社会構造や社会通念を知り、例えば、児童虐待の事件で母親だけがバッシングされるなど、女性が何か不利な状況にある時、「何があったんだろう」と考え、悪口は言わないこと。そしてそれを助長する報道や情報に惑わされないこと。女性が集中的にバッシングを受けていて「おかしい」と思ったら応援する。議論も説明も不要で、「○○さん、応援してます」「同じ思いです」の一言でいいんです。「あなたは一人じゃありませんよ」というメッセージを伝え、孤立させないことが大事です。

 私たち一人ひとりの意識と行動で社会から暴力をなくしていきましょう。

                             
                             
                            (2022年2月掲載)