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...令和3(2021)年度 第2回...

多くの困難から罪をおかした人を支え、再起を応援する

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一般社団法人よりそいネットおおさか、大阪府地域生活定着支援センター所長


山田真紀子さん



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困難を抱えて出所する人の生活を支援

 
 
「一般社団法人よりそいネットおおさか」では、2013年度から大阪府地域生活定着支援センター事業を大阪府から受託し、罪をおかした障がい者や高齢者の支援をおこなっています。受刑者のなかに対象となる人がいれば、刑務所内の福祉を担当する福祉専門官から保護観察所に相談が入り、保護観察所の面談を経て私たちに支援の依頼がくるという流れです。これまで1000件を超える支援活動を行ってきました。

 罪をおかした人を「刑余者」と表現することもありますが、私たちはあまり使わない言葉です。過去を考慮しながら支援を考えていくのは大事ですが、「罪をおかした人」という前に、その人自身の言葉を聞き、意思を確認することを中心にと考えているからです。

 私たちが支援するのは、人間関係がほとんど切れてしまって帰るところがない人が多いです。たとえば1回目の受刑なら迎えにきてくれる人がいても、刑を重ねるごとに人とのつながりがなくなっていきます。引受人がいるなどの条件を満たせば、仮釈放で早めに出所したり、出所後に保護司がついて見守りをしたりします。けれど人間関係がほとんど切れてしまった人は身元引受人がいないため、刑の期日をすべて終えた満期出所となります。仮釈放もないので、保護司もつかず、保護観察期間もありません。


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狭い価値観や家族観を押し付けない


 私たちもご本人と何度か面談をし、意向を確認しながら、住まいの確保や日中の活動場所、仕事、障がいのある人には作業所などを調整します。同時に、その人を中心にした「人のネットワーク」をつくりますが、必ずしもスムーズに進むとは限りません。というのは、これまでほとんどの人が福祉サービスなどの支援につながった経験がないからです。見ず知らずの対象者に信頼してもらえる関係をいかにつくるかが大切です。

 支援に関わるにあたって、特に家族の価値観については、自分の物差しで測ってはいけないなと思っています。自分にとって「普通」など、価値観の押し付けがないよう、気をつけています。また、時代背景や地域もその人の価値観に影響を及ぼします。たとえば大阪で育った人と沖縄で育った人とでは環境も家族のあり方も違い、近所との関係も違います。

 私たちが支援した方のなかには、障がいのある方でいじめられた経験のある人が比較的多かったり、児童養護施設で育った人もいます。いじめや親からの保護を十分に受けられないなかで、人との信頼関係が築きにくくなるなど、その人の生き方が影響したりもしています。さまざまな人がいるので、できるだけその人自身の言葉を聞き、自分たちも学び、言動を理解していくことを心がけています。


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犯罪を繰り返す背景にある困難とは


 私たちと出会うのはこれまで支援につながった経験が少ない人たちだと述べましたが、それはすなわちご本人にある社会的な困難さがご本人にも周囲にも認知されないまま生きてきたということです。

 たとえば刑務所で知的検査などをして初めて障がいがあるのがわかり、障がい者手帳の取得をし、障がい福祉サービスの申請をすることになります。もっと早く障がいが認知され、適切な支援を受けられていたら、罪をおかすことはなかったかもしれません。

 他にも読み書きが十分にできない人も少なくありません。そうなると履歴書が書けず、仕事もできません。またお金の計算ができない人もたくさんいます。

 自分がなぜ、どのように困っているかを説明することが困難な人もいます。こうした基本的な社会スキルを身につけられなかったがために、若い頃から刑務所と社会を行ったり来たりし、ほとんど社会経験のないまま過ごしてきたという人が実はたくさんいます。


sub_ttl00.gifどんな人にもチャンスが巡る社会に


 「加害者に税金を使って支援する前に被害の救済をすべきでは」という意見もあります。けれどここまで述べてきたように、加害者となる前にいじめなどの被害にあったり、障がいがあるのに支援を受けられずにきたなど「社会の被害者」であった人もいることを知っていただきたいと思います。再犯防止という観点からも罪をおかした人たちの生活支援は必要です。

 私自身の思いとしては、どんな人にもチャンスが巡ってくる社会であってほしいと強く思います。障がいのある人や罪をおかした人、高齢になった人にも。巡ってきたチャンスを取るかどうかはその人の選択ですが、まずは機会を保障されるべきだと考えています。

 コロナ禍で人の行き来が制限されることになりましたが、私たちはこれまで通りの支援を続けています。コロナ禍で支援を必要とする人たちがどんな生活をされているのか調査をしたところ、若い人はSNSで励ましあうなど、限られたなかでもそれなりにうまく生活していることがわかりました。刑務所での体験もあり、自由を制限されるなかで生きる術を知っているようです。

 このように支援を必要とする人たちも自ら生きる力をもっています。「弱者」として接するのではなく、その人のもてる力が活かされるよう、サポートが必要な部分を支え、再起を応援する社会でありたいと思います。


                             (2021年12月掲載)