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・・・H30(2018)年度 第3回・・・

障がい者虐待の防止と対応はきめ細やかな法体制と

ストレングスの視点から


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東大阪大学こども学部こども学科

准教授 潮谷 光人 さん

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厳しい環境にある障がい児/者の権利擁護を

 

両親が児童養護施設で働いていたこともあり、もともとは児童福祉に関心がありました。その気持ちは今もありますが、大学時代に障がいのある人や子どもの施設をいくつか見る機会があり、とても厳しい環境にあることを知ったのです。より強く改善の必要を感じ、「障がい児/者の権利擁護」へと専門を変更して現在に至ります。

大学院生時代に「おおさか地域生活支援ネットワーク」というNPOを設立し、施設の福祉サービス第三者評価の実践や施設オンブズマンの活動を始めました。活動を通して、施設の大人数の生活や狭い居住環境が、刺激のコントロールの苦手な障がいのある人にとってはストレスになっている状況、その対応に苦慮している職員の姿がみえてきました。子どもも含めて、障がいのある人はコミュニケーションのとりにくい障がい特徴をもっていることがあります。大きな声を出したり暴れたりするという行動に対して、とっさに力ずくで押さえようとする。それが結果的に「虐待」となってしまうことがあります。




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「分断社会」が優生思想を根付かせる





 障がいの有無や能力で「命の価値」を選別する優生思想を背景に起こる虐待もあります。2017年、相模原市にある障がい者施設で19人もの人が殺される事件が起こりました。事件後、加害者が非常に差別的な考えをもっていたことがあきらかになり、大きく報じられました。しかし彼だけを偏った思想の犯罪者と片づけることはできません。私たち誰もがもつ、つまり私たちの社会そのものに根付いている優生思想のなかで、彼の価値観も育まれたのではないでしょうか。

 心理学にザイオンス効果と呼ばれる作用があります。人は慣れ親しんだものやよく会う人ほど親しみを抱くという心理現象です。逆にいえば、慣れ親しんでいないものに対しては距離感や拒否、違和感をもちます。

 私たちの社会は、障がいのある人とない人が幼い頃から分離され、出会う機会が極端に少ない社会です。そのため、出会った時には拒否感や怖さ、優越感を抱いたり、コントロールしたいという欲望が生まれることがあります。出会ってこなかったからこそ、優生思想にも影響されてしまうのではないでしょうか。




sub_ttl00.gif 職員同士でプラスの評価をしあう

 

また、相模原事件の加害者にはさまざまな挫折体験があり、自己肯定感が非常に低かったといわれています。自己肯定感が低い人はアイデンティティーや自己評価の対象となる相手を求めます。相手の感謝や服従があれば満足するのですが、うまくいかないと怒りが湧いて力づくでコントロールしようとする。これもまた虐待へとつながります。

福祉サービス第三者評価は虐待を生まないような管理システムが施設内にあるかどうか、きちんと稼働しているかどうかをみます。虐待が起こるのはシステムの問題でもあり、逆にシステムを構築できれば防ぐことができます。具体的には職員同士でプラスの評価をしあうこと。それも毎回、仕事が終わるたびに職員同士でお互いにプラスの評価をしあいます。ストレングスの視点に基づく評価法です。ストレングスとは「できていないこと」や「弱み」ではなく、「できたこと」「強み」に注目することです。誰しも苦手や未熟な部分をもっています。そこばかり注目して克服することを求め続ければ、どうしても辛くなります。むしろ得意なことやうまくいったことに目を向けるほうが、さらに「もっとよくしたい」という意欲が出てくるでしょう。障がいのある人の相談支援に用いられる手法ですが、支援者にも有効です。




sub_ttl00.gif 法改正で訪問型支援や保護態勢の充実を





 2012年12月に障害者虐待防止法が施行され、通報はかなり増えました。虐待が増えたというよりも、法律によってようやく表に出てくるようになったということだと考えています。同時に計画相談というサービスができたことで、家族状況が可視化されてきました。単にサービスを提供するだけでなく、家族の介護状況や経済状況を把握できるようになり、虐待の発見が早くなるとともに家族への支援や情報提供が可能になったのは大きいと感じています。2017年に施行された地域包括ケアシステムも利用しつつ、地域で分野の垣根を越えて相談支援ができる態勢が大事だと思います。

今ある制度の課題としては、家族に対する訪問型の支援や相談機能が弱いことです。特に親御さんは「親亡き後」を考え、障がいのある子どもを何とか社会に適応させようとします。しかし本人には大きなストレスとなり、パニックや暴力を引き起こすという事例が少なくありません。特に行動障がいのある人は家族に対する訪問相談は、もっと充実させる必要があります。

さらに、現在の障害者虐待防止法には児童虐待防止法には位置づけられている48時間ルール(虐待情報を受理してから安全確認するまでの目安時間を48時間以内とする)の位置付けがありません。そのため、虐待の確認が非常に遅れているのが現状です。保護する場所の問題もあります。特に行動障がいのある人が虐待を受けて傷つき、混乱している状態で施設に入所したり入院したりしてもうまくなじめるのか。保護の判断をするにも時間がかかっています。その間、誰が支援していくのか。ケースごとに対応しているのが現状ですが、やはり法律での位置付けが必要だと考えています。

児童虐待防止法が施行されて20年近くになります。この間、何度も法改正を重ねてきました。障害者虐待防止法も細やかな改正がおこなわれ、より現状に即した支援ができることを目指しましょう。




H30(2018)年9月掲載