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・・・・・ H29(2017)年度 第6回 ・・・・・

司法と福祉の連携で

障がい者をサポートする

弁護士

高橋 昌子 さん

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新規受刑者の2割にのぼると推定される

 

 

罪をおかして受刑する人のなかには、知的障がいや発達障がいなどのある人がいます。刑務所では、入所時に知能検査(CAPAS)等をおこない、その人にどんな作業が適しているかを判断します。その検査により知能指数が70未満の人が多くいることがわかってきました。現在、知的障がいのある人と、知的障がいと疑われる人を合わせると、新規受刑者の2割にのぼるといわれています。また近年は受刑者のなかに高齢者が占める割合が高くなっており、認知症のある人も増えているといわれています。いわゆる「刑務所の福祉施設化」です。このような障がいのある、刑を終えた人への支援(出口支援)の必要性が認識され、全国で取り組みが始まっています。

とはいえ、課題がいくつもあるのが現状です。障がいのあることがご本人や家族に認識されず、ケアや支援を受けないまま犯罪に至ってしまった事案も少なくありません。裁判が始まっても、弁護士や裁判所も障がいに気付かず、結果として見過ごされてしまうこともあります。弁護士や裁判所や刑務所で、障がい、あるいは障がいと思われる困難を抱えていること、何らかの支援が必要であることが認識されても、支援につながらないこともあります。




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社会では「生活できない」という問題

 

では、具体的にどんな困難があり、どのような支援が必要なのでしょうか。障がいがあり窃盗や万引き等犯罪を繰り返し、何度も受刑している人を「累犯障がい者」といいます。そうした人たちに話を聞くと、生活のさまざまな場面で困った結果、罪を犯してしまったという人が多いことがわかってきました。刑務所に入れば食事や寝る場所が確保されているからと、刑務所に入るために罪を犯す人もいます。「社会に出ても生活できない」という問題を解決しなければ、刑務所と社会とを行き来するばかりの人生になってしまいます。出所後は司法の関わりが切れてしまうこともあり、社会福祉関係のサポートが必要であるという認識が生まれました。

 障がいのある人は、自分がどういう状況にあるかを第三者に説明することが苦手です。役所で生活保護の申請をしようとしても「若いから働けるでしょう」と言われ、受け付けられなかったという事例もありました。そんな時、同席して、本人の意思や気持ちを伝えたり、専門職として支援する人がいれば、生活環境を整えることがスムーズになります。



sub_ttl00.gif 明らかになってきた課題をプラスにとらえ

 

  

刑を終えた人への支援を「出口支援」と言いますが、逮捕・勾留された被疑者の段階や起訴されて裁判を受けることになった被告人の段階の支援、すなわち刑務所に入る前の段階での支援を「入口支援」といいます。

大阪弁護士会では入口支援を司法福祉連携「大阪モデル」としてシステム化し、2014年6月から取り組んできました。現在は大阪社会福祉士会等と連携しています。これまでの相談件数は約160件、年間で約50件の相談があります。また、当初は窃盗や万引きといった軽微な犯罪を想定していたのですが、実際には放火や殺人など重大な犯罪に関わる相談も少なくありません。罪の重大さが増すほど、支援体制を整えるのが難しくなります。さらに、相談件数が増える一方で、社会資源やマンパワーは不足しています。同じような取り組みは各地で始まりつつありますが、実情は厳しく、重大犯罪に関する相談を受けていないところもあります。大阪でも地域との調整、生活保護や障がい福祉サービスの申請手続きなどに行政との連携も必要であると考え、行政機関へのアピールも始めています。

課題は多いのですが、悲観的にとらえてはいません。相談が増えてきているのは、人々の意識が変わってきたことの現れでもあります。大阪では、裁判所や警察・検察に対して、当番弁護士の要請や国選弁護人の選任手続において、障がいがあるとわかった場合には弁護士会に連絡してもらうように依頼をしているのですが、その連絡が定着してきました。このことにより、弁護士が事前に被疑者や被告人に障がいがあることが分かったうえで、被疑者や被告人と接することができるケースが増えました。また、これまでは弁護士が障がいに気付いても相談する場がなく、一人で抱え込んで何もできないまま終わっていた事例もあったと思われます。相談する場ができたことで適切な対応やサポートができるようになりました。こうしたことから見過ごされてきた問題が明らかになってきたのは、とても意味のあることだと思います。



sub_ttl00.gif 障がいの特性を知り、日常的なサポートを

 

  

 

ただ、障がいがあり罪を犯した人の中は、生育歴等に様々な困難を抱えている人がいます。たとえば育った環境のなかで虐待を受けていたり、適切な教育を受けられなかったり・・・。自分自身で障がいを認知できていない場合は、支援につなげることに困難を伴います。認知はできても、自分で自分をコントロールする力が弱い場合も多くあります。サポートには大変なエネルギーが必要で、個人で抱えきれるものではありません。

 また、家族だけが抱え込む事例も多く、家族に責任を求める風潮も根強くあります。しかし、家族が本人の障がいに関してまったく認識していなかったり否定したりすると、適切なサポートを受けられません。その結果、再犯に至ってしまうこともあり、やはり複数の専門職などの関わりが求められます。

 これまでの経験や相談から、障がいのある人が事件を起こす時には、何らかのSOSを出している場合が多いと感じてきました。しかし言葉ではSOSを出せない。それが障がいの特性なのです。事件を起こすまでに、日々の様子をよくみてくれる人がいて、適切な手助けができる環境が必要ではないでしょうか。そうした環境づくりも含めて、司法と福祉、民間と行政が連携しながら取り組んでいきたいと思います。

 この支援の原則を第一にしながら、知的障がいのある人とともに生きる社会とはどんな社会なのか、みんなで考えていきましょう。



H29(2017)年11月掲載