人権を語る リレーエッセイ


・・・・・H28(2016)年度 第12回・・・・・



認知症への理解促進をめざした認知症カフェとコミュニティづくり
  

チャムール(アムール岸和田)



1.地域や団体の概要 

(1)所在地 岸和田市池尻町   

(2)実施主体 アムール岸和田

株式会社ライフパートナーが運営する認知症対応型共同生活介護(以下、グループホーム)と地域密着型通所介護(以下、デイサービス)
平成23(2011)年3月開設。

(3)立ち上げ 平成26(2014)年7月

(4)アムール岸和田にとっての「認知症カフェ」とは
認知症の人や家族、地域住民、専門職や支援する人など誰しもが集える場所。


2.取組~事業内容リレーエッセイ第12回画像.jpgのサムネイル画像

(1)取組内容

 ①認知症カフェ チャムール(以下、チャムール)の開催

  岸和田市からの委託事業として開催しています。

  日 時 毎月第4土曜日13時半~15時。

  会 場 アムール岸和田

      (デイサービスの場所を活用)

  参加者 第1回(平成26(2014)年7月)

      ?第23回(平成28(2016)年3月)

      延参加者数749人、平均参加者数35人
       *リピーター率約6割。

  運営スタッフ

    アムール岸和田(利用者家族・利用者・スタッフ)

    地域のボランティア、近隣の別法人グループ

    ホームから利用者とスタッフ

*カフェの接客は、アムール岸和田や別法人グループホーム(グループホームやすらぎ)の利用者(認知症の方)が担当(他の運営スタッフがフォロー)。

 ②グループホームと認知症への理解促進のための取組

  年末のもちつき、 認知症サポーター養成講座での講師協力など

(2)予算

岸和田市からの委託費、チャムールでの売上、アムール岸和田の事業費

*アムール岸和田の事業費の割合が大きい。



3.きっかけ~事の起こりや着火点

(1)「誰もが気軽に集える場所」がほしいという地域住民のニーズがあった

 地域には元々居場所作りへのニーズや活動がありましたが、地域の会館はハード面の整備が不十分であり、居場所として使いにくい状況がありました。

(2)身近な所に認知症の人や家族だけでなく、介護者や専門職も含め気軽に集える場がほしい

 アムール岸和田のある久米田地域で様々な人たちが気軽に集え、交流できる場作りへのニーズがありました。

(3)当事者の方の活躍する場面を増やし、地域の方に認知症への理解を深めたい

 認知症に対してマイナスなイメージを持ちがちですが、実際に当事者の方に会っていただくことにより、またグループホームという場所が地域にとってなじみの場所になることで認知症に対して関心を持ってもらえたり、偏見の軽減につながるのではないかという思いがあります。

 また、普段は何らかの介護が必要な認知症当事者の方に接客という出番や役割があることで、当事者の方のやりがいや自己肯定感を高めることにもつなげたいという思いがあります。                          

(4)事業所として地域とのつながり作りを模索していた

 アムール岸和田が地域に根ざす事業所となるため、地域の方達への安心と信頼、地域貢献につながる取組みを模索していました。

(5)アムール岸和田の運営推進会議(以下、推進会議)(注)で「居場所づくり」の必要性が出された

 グループホーム運営上設置する推進会議には、利用者家族や職員だけでなく、地域からは自治会長や民生委員、利用者や利用者家族、行政(介護保険課)、包括支援センター、社会福祉協議会(以下、社協)、介護相談員など地域で取組を行う上でのキーパーソンが集まっています。推進会議で地域の課題を抽出する中で「誰もが集える居場所づくり」の必要性について話し合われたことが、取組みが動くきっかけとなりました。また、アムール岸和田も所属している「全国グループホーム協会」においても認知症カフェへの推進があり、行政担当者に対して説明など運営に向けて後押しをしてくれました。

注)運営推進会議

地域密着型サービスのうち、認知症対応型共同生活介護などの事業を実施する事業者が、利用者、利用者の家族、地域住民の代表者、市町村の職員などに対して、提供しているサービス内容等を明らかにすることによって、事業所による利用者の「抱え込み」などを防止し、地域に開かれたサービスにすることで、サービスの質の確保を図ることを目的として介護保険法にて設置を義務づけられている。各事業者が自ら設置する会議。2ヶ月毎に開催。



4.取組の実現、深まりや発展などに影響した要素

(1)ミッションが明確

 取組の理念は「認知症の偏見をなくす」と明確です。

 それにより、地域やボランティアに求めることがはっきりしています。そのことが、例えば社協が応援のために行った地域アセスメント(地域の状況把握)が比較的容易に行えることとなりました。

(2)様々な思いをつなぐコーディネーターがいて、活動の受け皿があった

 地域には、自分たちの地域をもっと良くしていきたいという思いを持った人がいます。地域のことをよく知っている社協職員が、そういった人たちを発見し、発掘し、チャムールへとつないでいきました。例えば、協力してくれそうな民生委員さんへの声かけ、老人クラブでの周知、地域での介護体操での声かけなどです。

 またそういったコーディネートを受け、その人たちを取組の協働者として巻き込んでいくチャムールスタッフのコーディネート力が取組を発展させていきました。

 また地域には、自治会など所属していない又は積極的な活動をしていないけど、何か地域のことをしたいという思いのある人もいます。そういった人たちをチャムールにつなぐことで、その人にとっては活躍の場を得られ、チャムールは応援者を増やすといったことにつながっています。

(3)株式会社が行う取組に公的なバックアップがあることで地域理解が得られやすい

 事業所だけの取組では地域との連携は難しいと思われましたが、社協の地域コーディネーターなどの協力体制があったため、取組への信頼度が増し地域の方達の理解や協力が得られやすい状況となりました。

(4)取組を積み重ね、顔の見える関係を作っていく

 地域の理解を得ていくためには、焦らず取組を重ねていくことが必要です。例えばチャムール開設に向けて、まず地域の民生委員さんに施設見学や認知症サポーター養成講座を用いて、認知症と施設への理解を深めてもらいました。

(5)取組のキーになる組織や人との協力関係を作ることができた。

 取組には、アムール岸和田の推進会議の応援がありました。推進会議には、自治会長や民生委員など地縁関係でのキーパーソンがいて、地域との協力が進んでいきました。

(6)参加者が協力者になる

 チャムールのリピーター率は約6割で、参加した人が次回には新しい人を誘い一緒に来るという循環の中で参加者が増えています。

(7)ボランティアをサービス提供者扱いせず協働事業者として巻き込む

 こういった取組にはボランティアの存在が欠かせません。ボランティアを単なるお手伝いではなく、この取組を一緒に作りあげるメンバーの一人にする仕掛けがあります。

 例えば、ボランティアさんにも、チャムールの宣伝をしてもらうスピーカーになってもらっています。また、チャムールにて協力してもらっているボランティアの方の事を「チャムラー」と呼名しています。

(8)行政の柔軟さと細かなすり合わせ

 運営主体が株式会社の場合、こういった福祉事業の受託に難色を示されるケースもありますが、岸和田市からそれまでの実績や連携の実績を評価してもらうなど柔軟な対応がありました(委託費月1万円、福祉政策課が担当)。

また、どういった場所にしていくのかについて、当初、担当課とは意見の食い違いもありました(担当課は認知症家族の人の為の集いの場としてで実施してほしい、アムール岸和田は当事者が活躍でき誰しもが集える場にしたい)。しかし、丁寧なすり合わせをきっちり行っていくことで、現在のようなオープンな場としての実施ができています。

(9)他(多)関係機関との密接で適切な連携があった

 チャムールでの取組の体制はアムール岸和田が整え、ボランティアなどの充実を図るのは、社協・地域包括の圏域(久米田)の中でという連携の体制が作れたからからこそ実現できました。

 また、近隣のグループホームからは運営協力を得たり、チャムールでお出しするケーキは市内の障がい者の作業所にお願いしたりと、行政や地域以外にも様々な機関との連携により取組が進んでいます。

他にも、近くの小・中学校へ認知症サポーター養成講座の講師として行ったり、中学生をアムール岸和田のもちつき大会に誘ったりと、つながりの輪づくりを進めています。

 自分の所だけで取組を完結させようとせず、できないことは手伝ってもらうというように、上手に周りの力を借りていくことが必要です。

(10)取組の広報に力を入れる

 チャムールの取組を紹介できる機会があればどんどん出かけていき、とにかくたくさん

の人に知っていただけるように努めました。

 一つめには、地域のコミュニテーソーシャルワーカー(以下、CSW)が定期的に行われている介護予防体操の時にチャムールの取組みやPRを行ってくれた事が大きな広報となりました。そのCSWと地域の方との信頼関係が絶大で、そのCSWがPRするものであれば、一度出向く必要があると介護予防体操の参加者も思われたようです。

 二つめに、自治会の掲示板(13箇所)にチャムールの手造りポスターを掲示してもらう事ができました。地域の中で「なんだこれは?」と疑問に感じられた方が自治会長などに問い合わされ、説明いただいていたこともありました。

 三つめには、岸和田市の委託事業ということで、市の担当課もPRに協力してくれました。このようなことからも様々な箇所で日頃より顔の見える関係性がいかに重要であると感じさせられました。

(11)わくわく感や楽しさを大事にするからこそチャレンジが生まれる

 偏見や何らかの課題があるからと、人や施設との関係を閉じていると不安や負担が増してきます。敢えてオープンにするというチャレンジをしていくことで、逆にそれが減ってきます。難しいことを難しい顔をしてやってもなかなか人は集まりません。

 まず、関わるスタッフ自身が楽しめる活動にしていくことが活動へのエネルギーとなり、新しいチャレンジも生まれます。そして、難しい課題だからこそ、活動に楽しい要素を入れていくことで、たくさんの方に参加していただきやすい取組となります。



5.取組による変化

(1)認知症の当事者の方や家族の方の居場所となり、認知症への理解と偏見の軽減につながっています。

 地域で住まわれている認知症当事者の方や家族の方が参加してくださり、その後介護保険サービスにつなげることができたり、定期的な参加につながったりと当事者の方の居場所となっています。

 また、アムール岸和田前(久米田池遊歩道)を散歩していたカップルが、徘徊と思われる高齢者をアムール岸和田に案内してくれたり、中学生が徘徊と思われる高齢者を連れてきてくれたことがありました。また、チャムールの参加者から、「施設に入るような状況になることはあかんという思いだったけど、こういう施設があると思うと楽になる」と、認知症について前向きに受け止めたり、当事者を避けるのではなく支援しようという状況づくりにつながっています。

(2)中学校とのつながりが深まりました

 もちつき大会以後、グループホームのイベントとして開催したバーベキューにも自主的に中学生が参加してくれました。そういったつながりの中で、中学生が職場体験にアムール岸和田に来てくれるなど、つながりが深まっています。



6.課題など

 中学校とのつながりは徐々にできてはいますが、学校全体としてのつながりまでに至っていません。

 今後、一部の生徒だけでなく学校全体との連携を進めていく必要があります。

 参加される地域の方から回数を増やしてほしいという声が聞こえていますが、月に1回が運営する上で、長期にわたり持続する事も考え、現状ではこのペースが最適であると感じています。

 また、参加者の9割が女性であり男性の参加者が極端に少ない状態で、男性にも参加してもらいやすい仕掛け作りが必要だと考えています。アイデアはいくつかありますが、具体的な動きにはなっていないのが現状です。

 さらに、平成29(2017)年4月から開始される介護予防・日常生活支援総合事業(例えば通所型サービス、緩和型Bなど)への配慮や工夫も必要になってきます。





(2017年3月掲載)