買い物弱者をきっかけとした行政とNPOの協働
~みんなのマーケットプロジェクト(たかくら福祉共生ステーション事業)~ |
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西上孔雄さん(特定非営利活動法人すまいるセンター代表理事) 池之内寬一さん(堺市商工労働部副理事兼商業流通課長) |
高橋悦子さん(堺市健康福祉総務課兼高齢施策推進課参事)
1.取組~事業内容
一時休止していたミニスーパー店舗を活用し、協働で持続可能な総合的な福祉サービス拠点となりえる地域ぐるみのマーケットプロジェクトが展開されています。
【るぴなすの玄関前~朝市の様子~】
(1)取組内容
①高齢者の見守り及び配食サービス
②買い物弱者の支援として日用品の配達
③サロン機能を持ったコミュニティレストランの開設
④ミニコンビニによる物販
⑤就労支援の場の開設(就労継続支援B型*)
*通常の事業所に雇用されることが困難な就労経験のある障がい者に対し、生産活動などの機会の提供、
知識および能力の向上のために必要な訓練などを行うサービス。
⑥朝市の定期開催やマルシェなどのイベント、各種講座やセミナーを開催
⑦「よろず相談」として地域の困りごと相談の開催
上記の取組は、「みんなのマーケットるぴなす」を拠点として行われています。
所在地 堺市南区高倉台3丁目2番2号
(2)関係機関
②関係機関の役割分担
●すまいるセンター
...宅配サービスや配食サービス・見守り活動、サロンの運営
●高倉台校区福祉委員会
...地域ニーズの把握、地域連携のサポート、地域に向けたスーパーのPR
●堺市市場連合会.
..生鮮食品以外の仕入れ、スポット販売手配、スーパー運営の備品の提供と助言
●ライフサポート協会
...店長業務、就労継続B型事業を活用しての店舗運営
(3)予算
収入は、スーパーの売り上げと、就労支援B型の給付金と堺市公募提案型協働推進
事業(平成28(2016)年度末で終了)となります。
2.きっかけ~事の起こりや着火点
(1)ニュータウンの課題
「るぴなす」がある堺市高倉台は、泉北ニュータウンに位置します。
泉北ニュータウンは昭和42(1967)年のまちびらきから48年が経過し、社会環境の変化とともにさまざまな問題が顕著になってきている地域でもあります。
今回の取組の背景になった課題としては、次のようなことがあります。
①近隣センター*の衰退(買い物弱者の増加)
*泉北ニュータウンでは、住宅地と商業・業務施設などの用途が混在しない土地利用を誘導することで、良好な住環境の形成が行われてきました。
小学校区をニュータウンを構成する基礎単位とし、住区の中心部には商業施設や生活支援サービス施設のある近隣センターが設置されてきました。
②少子高齢化(H27(2014)年高齢化率33%)
③若年層の転出(20~30代が特に多い)
③認知症の見守りの必要性が増加
④生活困窮者の増加
⑤コミュニティの衰退(自治会の高齢化)
(2)スーパーの閉店により、高齢者の買い物が困難に
小学校区の商店街でもある近隣センター内にあるスーパーが撤退し、買い物に行けない住民(特に高齢者)が増加してきました。
スーパー用地はその後、有料老人ホームになり、地元の要望で1階にミニスーパーが併設されましたが、小売だけでは成り立たず6年で休止状態になり、再度買い物弱者の増加という状況が生まれました。
こういった地域の窮状の相談が市に寄せられたことが、みんなのマーケットプロジェクトへのきっかけとなりました。
3.取組が実った要素~実現に導いたモノ
(1)官と民との協働関係の積み重ね~誰に何を頼むのがベストなのか知っている~
平成12(2000)年から活動をしているすまいるセンターは、「年齢や職業などに関係なく、泉北にかかわりを持つ多くの人たちの参加で、泉北ニュータウンを住みよい"まち"にしてゆく」をモットーに活動をしています。
すまいるセンターには、泉北ニュータウンを住みよい"まち"にしていくための地域に根差した様々な団体との連携が築かれていました。
そういった背景もあり、市が受けた地域からの相談解決のパートナーにお願いしたのが、すまいるセンター代表理事である西上孔雄さんでした。このことが、企業や福祉、地縁組織などさまざまな社会資源をつなげた取組の緒となりました。
(2)庁内部局を横断した取組
買い物に困難をかかえる住民への支援を1つの部局だけで解決しようとするのでは
なく、商工労働部と生活福祉部がそれぞれでできることを考えていき、連携して進めた
ことが事業の実現につながりました。
(3)活用できる制度や事業があった
取組実現に必要な資金として、堺市公募提案型協働推進事業(すまいるセンターと市健康福祉総務課が事業主体)の採択を受けたことが大きな弾みとなりました。
また、スーパーのリフォームなどに必要な予算は、商工労働部が所管する商業活性化支援策を活用してまかなうことができたなど、部局を横断した協働によりスーパー開設が進んでいきました。
(4)地域資源の連携
地縁組織である自治会、地域の福祉活動を担う校区福祉委員会、堺市内の小売市場が団結し、商業振興を図ることを目的とする市場連合会、福祉やまちづくりの分野で活動するNPO法人(すまいるセンター)、社会福祉法人(ライフサポート協会)といった民と行政がそれぞれの資源を活用しての取組が行われています。
(5)取組の継続性を担保する仕組みづくり
①スーパーを障がい者の就労支援の場とする
スーパーを就労継続支援B型の実施場という社会福祉事業を活用することで、スーパーの売り上げ以外の収入を確保しました。
②スーパーの仕入れにおける廃棄ロスを減らす
生鮮食品以外の商品を市場連合会から仕入れ、売れなかった商品は返却する仕組みをつくることで、廃棄ロスを減らす仕組みをつくりました、
(6)対話による合意形成の積み重ねで信頼関係を醸成
みんなのマーケットプロジェクトでは、関係者が月に1回程度集まり運営会議が開かれています。会議では、現状の報告だけでなく今後の事業展開について話し合われています。
立場や考え方などさまざまな違いはありますが、対話を重ねることによる相互理解の深まりと、取組を行う上での一体感が育まれています。
(7)コーディネーターの存在
さまざまな資源や、立場や考え方の違う人たちをつなぐ動きを西上さんが担っていることが、取組が進む要素の一つとなっています。
4.事業による変化
(1)買い物弱者の問題解消の一歩へ
スーパー継続の基盤がつくられ、買い物問題の解消につながっていきつつあります。
(2)地域に集える場所ができた
スーパーに併設するサロンでさまざまな相談や講座を行うことで、日常の相談や居場所ができました。また、子どもたちの居場所にもなっています。
(3)それぞれの取組を組み合わせる(みんなでつくる取組に)
事業を進めていく上で、運営会議など含め互いに意見を出し合い、お互いの立場や思いへの理解が進む中で、要望や苦情などを言う側・それをやる側と分かれるのではなく、みんなでつくっていこう、というように関係者達の意識が変わっていきました。
(4)障がい者の自己受容感へつながった
地域で障がい者の就労支援の場をつくることで、利用した方が自己受容感や有用感を持てる場ができました。
(5)地域での障がい理解が進む一歩に
日常利用するスーパーで店員である障がい者の方と接することで、障がい者への理解が進んできました。
5.課題や提言、展望
(1)庁内連携が大切
商業と福祉の連携など、地域づくりのためには庁内で連携した取組が必要です。
(2)官民協働で地域づくり
特に地域の課題への取組は、官民協働のものであるほうが解決に進んでいきます。
(3)持続可能な仕組みをつくる
持続可能な仕組みをつくるためには、さまざまな事業の組合せで行うことにより、1つの事業がしんどくなったら取組の存続が危うくなる状況に陥らないように、リスクを分散させていくほうが望ましいです。
(4)広い受け口をつくっておく
行政などさまざまな助成金を活用するためにも、どんな部局からも予算をとれる受け口をつくっておくことが必要です。
(5)地縁組織との連携
地域での取組においては、自治会と校区福祉委員会が緊密な協力体制を組めるかがポイントです。
(6)拠点は小学校区に1つ必要
小学校区に1つの拠点づくりが必要です。拠点には、そこに行くと自分たちのやりたいことができる、といったプラットフォーム的な機能があるほうが望ましいです。また、そのことにより、若い人などもあつまってくる仕掛けが必要です。
(7)地域包括ケア会議ともなり得る場に
将来展望として、この取組が地域包括ケア会議になり得る場として育てていくことがあります。
(2016年3月掲載)