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・・・・・ H27(2015)年度 第 8 回・・・・・

「生きる力」を

取り戻す

きっかけの場として

若者居場所工房 ぐーてん

運営スタッフ 柴垣 恭子 さん

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「みんなOK」の思いをこめて

 若者居場所工房「ぐーてん」はH22(2010)年9月、緊急雇用創出基金事業の一環として豊中市から委託を受け、豊中市庄内に開設しました。牛乳パックを使った紙すきや不定期で開催するフリーマーケット、地域のお祭りへの参加などをしています。「ぐーてん」とはドイツ語で「良い」という意味です。「みんなOK」「誰もがGood」という思いをこめました。運営母体であるNPO法人ZUTTOは、すべての人が年代や性別、国籍といった違いにとらわれることなく、あるがままの自分で生きられる社会づくりを理念としています。生きづらさを抱える若者の居場所づくりはぜひ取り組みたい事業のひとつでした。

 緊急雇用創出基金事業自体はすでに終了し、H25(2013)年度からは独自事業として継続しています。財源がないなか、企業の助成などを受けながらの運営は大変です。しかし社会のなかに居場所がない若者にとって「ぐーてん」のように一息つける場はとても重要なのです。



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さまざまな事情から居場所を失う若者たち

 居場所がないとはどういうことか、想像しにくい方もいるかもしれません。学校を卒業あるいは中退したものの、仕事がみつからなかったり、続かなかったりしてそのまま「所属」を失った若者は、家以外の居場所がありません。自尊心が傷つき、自信を失っている場合も多いため、「働きたい」という思いはあっても、一歩踏み出すことが困難です。働くために必要な知識や経験がないこともハードルになります。また、働く以前に「人とコミュニケーションをとる」という経験を求めている若者もいます。そうした若者にとっては、いきなり職場というステップではなく、ゆるやかに参加できる居場所が必要なのです。

 参加者はいつでも募集しています。さまざまな公共機関にリーフレットを置いてもらったり、インターネット上にホームページを開設したりして活動内容を発信しています。参加する人の年代は10代後半から30代が中心で、状況はさまざまです。発達障がいの診断を受けている人や、診断は受けていないものの発達障がいの傾向がみられる人が比較的多いのはひとつの特徴です。



sub_ttl00.gif それぞれに次のステップを見つけていく

  いずれにしても全体的に生きるエネルギーが低下しているように感じられる人が多く、これまでの人生のなかでさまざまに傷ついてきたことが想像されます。そうした人たちが定期的にスタッフや他のメンバーと関わり続けることで少しずつ自信を取り戻し、自分のやりたいことを見つけていきます。たとえば高校を中退した人が「学び直しをしたい」と通信制の高校に再入学したこともあります。自分で見つけてきたアルバイト先で認められ、正社員に誘われた人もいます。

 スタッフが「こうしたら」と具体的に何かを勧めることはありません。一緒に作業やイベントをするなかで「昨日は何を食べた?」「夜はよく眠れる?」といった雑談を通じて「実は」と相談されたり、その人の生活背景を何となく知ったりします。まずは「ここは安心して何でも話せる場」として参加者に受け入れてもらうことを大事にしています。


 

sub_ttl00.gif 「いつでも待ってくれている」という安心感を基本に

 NPO法人ZUTTOのメンバーである私が「ぐーてん」のスタッフになったのは2012年4月です。若者支援や就労支援の経験はなく、最初は「みんなのためになることをしなければ」と気負っていた部分もあったかもしれません。生活のペースをつくってほしいと毎回来る時間を確認したり、遅れる時や休む時は連絡をするよう念押ししたりしていましたが、ある時、自分が小言を言っているような気分になりました。「これでいいのか。本当に大事なことは何だろう」とあらためて考え直した時、「一番大事なのは、いつでも待ってくれているという安心感ではないか」と思い至ったのです。私は以前、営業職として働いていて、常に時間と目標を追いかける生活でした。「社会人としてちゃんとしなければ」と思い込んでいたのだと思います。けれどどのように参加するかを参加者自身に委ねるようにすると、自分自身もとても楽になりました。今はみんな気軽に遅れて来るし、気軽に休みます。けれどその人にとって「ぐーてん」が必要な場であるかぎり、休み休みであっても必ずまた来てくれます。「ぐーてん」に対する安心や信頼を感じて、うれしく思っています。



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「生きる力」を取り戻す

  参加者はやがてそれぞれに「ぐーてん」を卒業していきます。アルバイトを始めたり、ほかにも居場所ができて忙しくなったりと事情はさまざまですが、だいたい半年から1年ほどでメンバーが自然に入れ替わっています。こうした経験から、人にはもともと「生きる力」が備わっていることをつくづく実感します。必要なのは、生きる力のエネルギーが低下した時、ほっとできる場所、安心して話せる仲間、休める時間です。ささやかながら、今後も「ぐーてん」という場を開いていきたいと思っています。             



平成28(2016)年1月掲載