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・・・・・ H27(2015)年度 第 4 回・・・・・

男性中心社会で

男性が抱えるしんどさを

解きほぐす

『男』悩みのホットライン

代表 濱田 智崇 さん

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中学3年から臨床心理士を志す

 臨床心理士として、ずっと「男性の生きづらさ」を考え、関わってきました。きっかけは10代に遡ります。

 私は中学高校時代を中高一貫の男子校で過ごしました。しかも自宅から遠かったので寮生活です。生徒ばかりか、当時は女性の先生もおらず、小学校を卒業してから6年間は女性と言葉を交わすこともない生活でした。男だけの世界、しかも寮生活で、あまり社交的ではない私は濃い人間関係に疲れたり悩んだりしましたが、学校を休むのも容易ではありません。「男のくせにうじうじするな」という"男の価値観"が当たり前の世界で、誰にも言えないしんどさを抱えていました。

 そんな私が中学3年になった1988年、臨床心理士という資格が誕生します。その中心的役割を果たした河合隼雄さんの本も話題になっていて、私も読むようになりました。河合さんをはじめ、心理学の本を通じて悩むことや弱い自分を初めて受け入れられた私は、臨床心理士という職業に就きたいと考えるようになりました。



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尊重された時に感じた「不安」

 

 河合隼雄先生から直接学ぶことはかないませんでしたが、河合先生のおられた京都大学教育学部に進みました。神奈川県に生まれ育ち、進学校に進学したので、両親や先生、同級生たちからは「なぜ京都なのか」「教育学部に行ってどうするのか」とさんざん言われました。同級生の多くは官僚や弁護士などいわゆるエリートと呼ばれる職業をめざしていたからです。まさに"男の価値観"といえます。社会的地位も収入も高い職業であるほど「男」としての価値が高いという発想です。

 とにかく初心を貫き、京都大学に進んだ私は「男らしさからの解放」を謳うメンズリブに出会います。メンバーは私よりずっと年上の男性ばかりでしたが、「かくあるべし」という発想から解き放たれた世界で、それまで感じたことのない居心地のよさがありました。アカデミズムの世界にも上下関係があり、学生や後輩は上の立場にある人たちを立て、指示や指導に従うという構図があります。しかしメンズリブのグループにはそれがなく、若い私の意見も尊重してくれました。興味深かったのは、当初は尊重してもらえることに不安を感じたことです。上からものを言われて「はいはい」と従ってしまうほうが楽だし、反発していたはずの自分もその構図に慣れていたのだなと実感しました。

 

  

sub_ttl00.gif 男性にとって「相談」のハードルは高い

 

 開設時から関わってきた、日本初の男性専用電話相談『男』悩みのホットラインは2015年秋に20周年を迎えます。私自身は2011年春に男性専用の「カウンセリングオフィス天満橋」を開設しました。ホットラインには今も全国から電話がかかってきます。20年前に比べれば全国的に相談窓口は増えましたが、プライベートなことを相談することへの抵抗や不安からあえて地元ではなく、大阪で開設している私たちのところへ電話をかけてくる男性が少なくありません。

 男性にとって「相談する」ということへのハードルが高いのは、カウンセリングの場でも感じます。インターネットなどで調べて自ら出向いてくる人も、DVなどの問題を抱えて妻から背中を押されて来る人もいますが、本音を話してくれるようになるまで数回かかることが多いのです。なかには「カウンセリングがどれほどのものだ」と構え、びっしりと書いてきたメモを読み上げる人もいます。DVの加害者という状況にある人は、最初はひたすら妻の悪口を並べ立てることもあります。

 しかし吐き出すだけ吐き出すと、ふと冷静になり、自分を振り返るようになります。「今思えば自分にもまずいところがあった」という言葉が出始めると、そこから本当の意味でのカウンセリングが始まります。

 

sub_ttl00.gif 気付きの場を提供していきたい

 

  この社会が男性中心社会であることは間違いありません。女性に対する差別や抑圧が女性を苦しめているのはもちろんですが、「男は男らしく」「男は家族を養うべし」といった価値観が男性も苦しめています。DVは加害者が男性、被害者が女性という場合、女性を深く傷つけますが、繰り返さないためにも男性が自分の気持ちを十分に吐き出し、冷静に振り返る作業が必要です。けれどそうした場がとても少なく、また「相談する」「自分の感情を言葉にする」ということがとても苦手な男性が多いのが現状です。

 中高時代の同級生たちは40代を迎えた今、バリバリ働いている人が多く、たまに会えば名刺交換会が始まります。その光景をみると「やはり男は社会的な立場を確認しあいたいものなんだな」とつくづく思います。父親世代とあまり変わっていないようですが、一方で私の話にも関心を示し「大事な仕事なんだろうね」と共感してくれる友人もいます。

 長年続いた男性中心社会を一度にひっくり返そうとすれば軋轢が生じます。まずは自分自身が「男らしく」の囚われから自由になり、自分らしく生きるなかでカウンセリングや人間関係を通じて、「個」として生きる楽しさや自由さに気付いてもらえたらと思います。


平成27(2015)年10月掲載