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・・・・・ 第111・・・・・

異国で暮らす

同胞の心と暮らしに

寄り添い続ける

関西生命線 

代表 伊藤みどり さん

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自分自身の経験とキャリアを原点として

 

 

  「関西生命線」がスタートしてまもなく25年。多くのみなさんに寄付やボランティアという形で支えられてきました。関西生命線は「台湾語と北京語によるいのちの電話」というキャッチフレーズのとおり、ごく限定的な言語による相談電話です。それは、私自身が台湾で生まれ育ち、日本人である夫との結婚をきっかけに来日した経験をベースにした活動だからです。台湾では「いのちの電話」でソーシャルワーカーとして働いていました。人の心の問題はいのちにも関わることなので、ケースは1件1件慎重にていねいに対応しています。また、組織を拡大すればフォローしきれない部分が出てくるため、自分の身の丈に合った活動を大切にしてきました。

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疎外感が人を追い詰める

 

  私が来日したのは1977年です。翌年には「帰化」して日本国籍を取得、2人の娘を育てました。夫も家事や育児に協力的で家の中では何の問題もありませんでした。

  けれど、一歩外に出ると、ことあるごとに「違い」を思い知らされました。日本語がある程度話せるようになっても、細かいニュアンスは難しく、疎外感をもつこともありました。

  1988年、大阪で台湾人ホステスが4人、続けて道頓堀川に飛び込み、うち一人が亡くなるという事件が起こりました。とても他人事とは思えず、胸が痛くてたまりませんでした。「家庭は教育の原点」と題した内容の文章を新聞に投稿しました。文章の最後に記載した私のプロフィールに「現在、外国人向けの電話相談を準備している最中です。」という箇所に興味を持たれ、取材の申し込みを受けました。「あればいいのに」と言っているだけでは何も変わらない。日本にないのであれば、台湾でやってきた自分がやるしかない。台湾の「高雄生命線」や日本の「いのちの電話連盟」等に協力をお願いし、夫の勤務先である企業の労働組合から場所や資金提供等を受けて「関西生命線」が誕生しました。

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異国生活でのストレスに寄り添う

  活動を始めてみると、労働組合の皆さんと私の理念に隔たりがあることが分かってきました。残念ながら1年後に独立。以来、事務所は自宅に置き、個人や法人の寄付で運営しています。

 現在、相談ボランティアは私を含めて4名です。ボランティアへの教育は、ケーススタディが中心で、ときどき精神科医をはじめ専門の先生にお願いし、トレーニングしています。台湾語と北京語ができるのはもちろんですが、日本で10年以上暮らしていて、日本の文化や価値観を理解していることが条件です。必要に応じクライアントを尊重した上で、面談や家庭訪問等を行っています。

  相談内容で最も多いのは、「心身問題」です。夫婦間のトラブルだけでなく、母国を離れ、異文化での生活に心身とも疲れ、強い不安や不眠に辛い思いをしている人たちがいます。うつ状態にあると思われる人には、精神科医につなぐこともあります。医療に限らず、様々な機関や専門家等と連携し、社会資源につないでいくのも大切な役割です。

  子育ての上でも文化の違いからくるストレスがあります。例えば、お弁当。台湾ではお弁当の文化はあっても、日本のように綺麗なお弁当は作らないため、見た目がよくありません。これがいじめの原因になり、親も肩身の狭い思いをしたりすることがあるのです。単なる一個のお弁当でも、外国人にとっては悩みの種です。お弁当づくりに悩む人からの電話相談から、「外国人向けのお弁当講習会」を開き、その後、『外国人のためのお弁当』の本(日漢英の3ヶ国語)を出版しました。また、電話相談から浮かび上がってきた課題と支援のあり方をまとめた『外国人を援助するためのハンドブック』も発行しました。

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楽しい年間行事でつながり、励まし合う

  孤立しないよう、ふだんからつながっていこうと年間を通じて様々なイベントを行っています。毎年夏には泊まりがけで「外国人が異国で適応するための交流の集い」、9月には「お月見大会」、旧暦の大みそかは「水餃子・火鍋(中華風寄せ鍋)大会」をします。それぞれ20年以上続いています。こうした行事のために「活動ボランティア」として参加してくださる人が70名ほどいます。手作りの水餃子やビーフン、月餅などなつかしい故郷の料理も準備して、みんなで一緒に食べ、語り合います。年間の相談電話の件数は少しずつ減ってきており、ここ数年は350件弱となっています。悩む人が減っているというよりは、大学が留学センターに相談窓口を設置したり、自治体の国際課や人権課、あるいは国際交流センターなどに相談窓口が設置され、相談者が分散したと考えられます。件数が減少しても内容のしんどさは変わりません。6割前後が国際結婚をしている人からで、相互理解の難しさが反映されています。中国人同士でも、夫は日本で育って日本社会になじんでいる、しかし妻は中国から来たばかりでなじめない、という場合は、国際結婚と同様の問題が起きてきます。要は異なる文化を知り、尊重し合うこと。特に異なる文化の社会に入ってきたばかりの人に対して温かいサポートをすることが何よりも大事なのです。これからもみなさんに支えていただきながら、一つひとつの電話をしっかりと受け止め、つながっていこうと考えています。

(2014年11月掲載)