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・・・・・ 第109回・・・・・

それぞれのペースに

合わせた訓練で

就労を支援する

社会福祉法人大阪障害者自立支援協会

常務理事 木村 重 さん

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障がいの程度や状況は人それぞれ

大阪障害者自立支援協会が運営する、大阪府障がい者社会参加促進センターは、障がいのある人たちの社会参加をサポートする拠点です。障がいといってもその内容や状況は一人ひとり違い、必要とされる支援も違います。私たちはさまざまな機関や団体と連携し、その人に必要な制度や施設をご紹介しています。


社会参加にもいろいろな形がありますが、大きな柱が「就労」です。当協会は社会参加促進センターに加え、障がい者の就労にとってITが有効なツールであることを早くから認識し、1999年に自ら「ITサポートセンター」を開設したのをはじめ、2002年から大阪府ITステーションの運営を受託しています。現在は、「第4次大阪府障がい者計画」に基づき、障がいのある人が就労に必要なIT技術を習得するための職業訓練や就労相談、障がい者雇用を考えている企業の支援などを行っています。

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福祉セクションでの就労支援という画期的な事業

一般的に障がい者の就労支援は、労働施策としての職業訓練と福祉施策としてのいわゆる授産施設などがあります。職業訓練でいえば、岸和田市と堺市に国が所管している職業訓練施設があるほか、大阪府立の職業訓練校もあります。私はこうした訓練校の校長を務めたこともあるため、その有効性もよく理解しています。

反面、限界も感じてきました。「学校」ですから週5日登校し、定められたカリキュラムの8割以上を履修しなければなりません。それが不可能な程度の障がい者、即ち体調に変動があったり、週に5日、1日につき6時間の訓練を受けるのが厳しい人は入学もできないということです。かといって反復繰返しの軽作業が中心となるいわゆる授産所での就労では、仕事としても、また経済的にも物足りない人もいる。多様な状況にある障がい者の中には、どちらにも合わない人たちがいることを実感してきたので、大阪府のITステーションの取組みには大いに賛同しています。

ユニークなのは、労働ではなく福祉セクションでの事業であることです。そのため職業訓練校のようなカリキュラムの縛りがなく、自分の体調や都合に合わせて自由に訓練を受けられます。障がいの種別に関係なく、IT関係の仕事をしたいと希望する障がい者の方ならどなたでも活用してもらえます。館内はバリアフリーで、パソコン200台を配備しています。あらゆる障がい種別の方の就労支援を行うカウンセラーもいます。ただし、精神障がいのある方は医療との連携が不可欠なため、就労可能という医師の意見書があることを条件にしています。

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在宅就労支援の取組みと課題

ある程度技術を習得された方のために、面接の受け方や履歴書の書き方をはじめ、ソーシャルスキルを学ぶ講座を用意しています。ITステーションに来られる人たちの中には、以前の職場環境が過酷で心身を傷めたり、これまで働いた経験がなかったりということから働くことに対して自信を持てない人がいます。そうした人たちが技術を習得し、ソーシャルスキルのトレーニングを受ける中で「自分も働けるのではないか」と考えられるようになっていくのは、とてもうれしいことです。ITステーションが現在の形になってからまだ3年目ですが、年間で約150人が訓練を受け、合わせて約100人が就職していきました。一緒に学んだ仲間が就労していくことも大きな励みになっているようです。


ITステーションでは企業からの求人情報も紹介します。また、民間の職業紹介所と連携し、登録はされているもののスキルが十分でないと思われる人をつないでもらい、訓練を受けてもらうということも行っています。

ITという特性を生かし、テレワーク(在宅ワーク)支援事業も行っています。テレワーカーとして登録を受け付け、ITステーションが在宅でできる仕事を企業から請け負います。テレワーカーさんに配分した仕事をまたITステーションに集め、企業に納品します。昨年度で10人弱の方がテレワーカーとして仕事を始められました。人数はまだまだ少なく、その理由としては、求人自体が少ないことや求められる仕事のレベルが高いことなどが挙げられます。

ただ、在宅就労支援のための訓練施設は全国的にも珍しく、今後のニーズも期待できます。通勤は困難だが仕事はできるという人もいるので、このような場を用意していることは大きな意義があると考えます。

sub_ttl00.gif 多様な選択肢が就労への意欲を高める

2005年に障害者自立支援法が成立して以来、障がいのある人に対する就労支援も様々に行われてきました。しかし冒頭でも述べたように、障害の程度や状況は100人いれば100通りです。現在は障害者総合支援法として様々な制度が用意されていますが、どこにも合わない人がどうしても出てきます。大きな法体系の枠組みは必要ですが、選択肢はできるだけ多く用意する必要があります。

 ITステーションのような取組みが広がれば、多くの障がい者が就労に踏み出せるのではないでしょうか。また、こうした取組みは経済的な部分も含めて行政との連携が不可欠です。今後も行政や企業の皆さんとともに、当事者である障がい者の皆さんのニーズを受け止め、それぞれのペースに合った社会参加を支援していきたいと考えています。

(2014年10月掲載)