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・・・・・ 第110・・・・・

精神障がい者を

社会で支える

仕組みづくりに取り組む

公益社団法人大阪府精神障害者家族会連合会

会長 倉町 公之 さん

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精神障がいに対する無理解は今も

  

 公益社団法人大阪府精神障害者家族会連合会(大家連)は、大阪府内の市区町村において精神に障がいのある人の家族で結成されている地域家族会と個人賛助会員の集まりです。現在、府内には約50の地域家族会があります。1965年に全国連合会が結成され、5年後の1970年、大阪府に大家連がつくられました。

2013年に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」が制定されました。2016年の施行に向けて大阪府でも障がい者施策推進協議会に差別解消部会がつくられ、当事者へのアンケートなどを行っています。アンケートから今もさまざまな差別があることが明らかになりました。特に住宅問題での差別事例が目立ちます。「グループホームをつくろうとしたら地域の人たちに反対された」「家族に精神障がい者がいるとわかったら大家さんから出て行ってくれと言われた」など、精神障がいに対する理解が定着したとは言いがたい実態があります。

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社会から隔離してきた歴史が差別を生んだ

 これほど情報があふれているのに、なぜ差別がなくならないのでしょうか。ひとつは精神障がいがどういうものであるかという知識や精神障がい者がどのように生活しているのかが十分に知られていないことが挙げられると思います。

 ヨーロッパ、特にイタリアなどでは早くから精神科病院をなくす方向性を打ち出しています。最近見た映画では、精神障がい者もまちの中でみんなと一緒に生活しているのです。それが当たり前なので、地域の人たちも「特別な人」という感覚がなく、障がいというよりも個性として受け入れているようです。一方、日本では家庭や病院に閉じ込めていた時代が長く続き、一般社会から隔離された状態でした。身の回りに当事者がいないために、精神障がいの特性や対応の仕方を知らず、驚いたり怖がったりするのでしょう。

 こうして冷静に書いていますが、私自身もかつては偏見をもっていました。息子が19歳で発病し、初めて精神疾患に直面した時は「なぜ自分の子どもが」と動揺もしました。他の病気とは違う受け止めだったと思います。しかし自分なりに学ぶうちに、他の病気と同じように誰がいつかかるか分からないことや、きちんとケアすればその人なりの生活ができることなどを知りました。母親である妻は私よりも積極的に学んでいました。家族会と最初につながったのも妻で、本当によくがんばってくれたと思います。

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家族以外のつながりや支援が自立を促す

 

 長い間、親にとって最大の心配は「親亡き後」でした。自分たちが死んだ後は誰が子どもの面倒をみてくれるのかと。しかし最近は社会的なサポート態勢も少しずつ整ってきました。また、家族もそれを上手に使うことを覚えてきました。家族会の中では多くの会員が、「親亡き後ではなく、親あるうちに」と、行動を起こしています。

 私の息子も35歳で自立生活を始めました。発病してしばらくは障がいを受け入れられず、苦しんでいましたが、精神科病院の勉強会に参加したりケースワーカーと話したり、病院内のデイケアで同じ障がいをもつ人と出会う中でずいぶん生活が広がり、前向きになっていきました。デイケアで知り合った人の中に一人暮らしをしている人がいたり、ケースワーカーが「35歳を目処に独り立ちしようね」と声をかけてくれたりしたことから実現しました。親が一人暮らしを勧めると、まるで追い出したいかのように受け取るので、周囲の人が後押ししてくれたのは助かりました。部屋を借りる際も親は一切表に出ず、ケースワーカーが不動産業者に話をしてくれました。不動産業者も専門職と話をすることで安心できるし、息子もケースワーカーを信頼し、安心して相談するようになりました。お金や食生活の管理など課題はありますが、問題が出た時々で話し合い、親子ともに無理のない約束ごとをつくり、もう10年近く一人暮らしをしています。自分にもやれると自信を持つことが障がいの安定にもつながります。支援を受けながら自立した生活を送る大切さをつくづく感じます。

sub_ttl00.gif 要望活動や講座の開催を通じて理解とつながりを

 

 精神障がい者がごく当たり前に自立生活ができる社会にするためには、社会への働きかけが欠かせません。私たちも行政への要望活動を行っています。要望書を出すだけではなく、議会の各会派に出向いて説明をするなどして理解を広めています。例えば、身体障がいや知的障がいのある人には医療助成があるのに対して、精神障がい者にはありません。公共交通料金も同様です。この「差」は何なのか。こうしたことは当事者と家族以外の人にはほとんど知られていませんので、まずは知っていただくことが重要です。

また、毎年10回程度「精神保健福祉講座」として学ぶ機会をつくっています。家族はもちろん、どなたでも無料で受講していただけます。統合失調症や発達障がいなどの病気と薬の理解、家族と当事者との日常生活での接し方、困ったときの相談窓口、障害年金の手続など幅広いテーマで、関心のある講座の受講だけでも可能です。私たちにとっては多様な分野で活躍されている専門家のみなさんとつながる、いい機会ともなっています。

そして、月曜日から金曜日まで毎日「家族による電話相談」も行っています。会員である電話相談員と大家連の役員が、10時から15時まで、家族や当事者からの電話相談を受けています。相談者の悩みに対し、精神障がい者をかかえる家族が、悩みを受け止め共感し、必要によっては専門の相談窓口や診療機関の紹介なども行っています。年間600件くらいの相談があります。

仲間と支え合いながら、精神障がい者とその家族がより暮らしやすい社会をめざして、着実に取り組んでいきたいと思います。

(2014年10月掲載)