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・・・・・ 第108回・・・・・

通訳や健康相談を通じて

すべての人を

医療や福祉につなげる

特定非営利活動法人 CHARM

ポップ(プラー ポンキワラシン)さん

sub_ttl00.gif 医療と福祉へのアクセスから外れる人々の存在

CHARM(Center for Health and Rights of Migrants)は、「すべての人が健康に過ごせる社会」を目指して、中でもHIV陽性の人や日本語以外の言葉を話す人をサポートし、医療や福祉につなげる活動をしています。

 設立のきっかけは、2000年頃に関西のエイズ治療拠点病院に複数の外国籍エイズ患者が運び込まれたことでした。いずれも医療保険がなく、エイズを発症して初めてHIV感染が分かりました。外国籍の人々が医療と福祉へのアクセスから外れていることを痛感した医師やカウンセラー、ソーシャルワーカーなどが中心となり、2002年にCHARMを立ち上げました。関西のエイズ治療拠点病院やNGOと連携し、大阪府/市や京都市、厚生労働省の事業を受託しています。また、近畿圏内のエイズ治療拠点病院等でのHIV診療、保健所や保健センターでのHIV検査に際して通訳者を派遣しています。多言語対応のHIVに関する電話相談も受け付けています。

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言葉と偏見という壁がさらに医療から遠ざける

外国籍の人々がエイズを発症するまでHIV感染が分からなかった大きな理由は、言葉の問題です。日本には多くの外国人が住んでいますが、外国人が日本語や日本の制度を学んだり知ったりする機会がほとんどありません。情報はあふれているのに、言葉が分からないために様々な医療や福祉のサービスにアクセスできないのです。

 もうひとつ、「性」という問題があります。HIVや性感染症に対する偏見とアジア系外国人に対する偏見が結び付き、そのことがさら外国人の人々を医療から遠ざけています。私たちの事業の一つに移動健康相談会があります。外国籍住民が多く暮らす地域に出向き、体脂肪率が分かる体重計や血圧計を用意して気軽に測ってもらうのですが、本当の目的はHIVや性感染症に関する相談や情報提供です。けれどHIVや性感染症という表現を前面に出すと、多くの人は見ただけで通り過ぎてしまいます。興味を示すだけで自分が感染者だと見られるのではないかと怖れるからです。

sub_ttl00.gif 不安定な身分に置いたままでの管理強化の見直しを

私はタイ出身で、1991年に来日しました。日本の高校に入ったのですが、ちょうどその頃、タイでエイズの発症率が高いことが話題になっていました。そしてあるニュース番組で特集が組まれた翌日、見知らぬ高校生から「おまえもエイズか」と言われたのです。わずかな情報によって簡単に偏見を持たれることを実感しました。それでも私は恵まれていると思います。日本の高校、大学を出て就職し、ケンカもできる程度には日本語を使えます。

言葉が分からないということは、その社会の中での孤立や排除につながります。

入国管理法(入管法)の問題もあります。2012年に改正され、外国人登録制度が廃止、在留カードが導入されました。在留カードは入国管理局が発行し、在留資格のない人には在留カードが発行されなくなりました。2012年の改正前は、在留資格がなくても居住している自治体に住民登録していれば住民として行政サービスが受けられました。けれど今は在留カードがなければ住民として認められません。

「やましいことがなければ入管に行って在留カードを発行してもらえればいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、在留資格を認める条件は限定的です。例えば日本人の夫や妻がいる場合でも、様々な事情で別居しているだけで、6ヶ月間「夫婦としての実態」がないとして、外国人の配偶者は在留資格を取り消され、「非正規滞在者」とされる可能性があるのです。現在は在留資格があっても1年後にはどうなるか分からない。多くの外国人がそうした不安定な状態で暮らしています。

在留資格を失った状態で入管に行けば収容され、強制的に送還される可能性もあります。日本政府は最近、外国人を労働者として積極的に受け入れる政策を次々に打ち出していますが、ともに生きる市民として権利を保障するのではなく、不安定な身分に置いたまま管理を強化してきた現状をみると不安です。外国人を使い捨ての労働者として利用するのではなく、しっかりと受入れ態勢を整え、安心して働ける環境を作った上で受け入れてほしいと思います。

sub_ttl00.gif 本当の意味での先進国をめざしてほしい

  CHARMは民間団体であり、資源は限られています。現在も京都で様々な組織と連携して、HIVや性感染症の無料検査を匿名で行っていますが、こうした活動を少しずつでも広げていきたいと考えています。住んでいる地域で継続的に安心して医療を受けるためにも、特に行政との協働や協力は欠かせません。人数が少ないために優先順位が低くなりがちですが、今後は日本語のリーフレットを作成して日本人の皆さんにもこの問題の重要性を伝えていきます。すべての人が健康に過ごせる社会であることが日本全体にとって大きなプラスであり、本当の意味での先進国であることをみんなで共有していきたいと思います。

(2014年9月掲載)