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・・・・・ 第107回・・・・・

在日外国人に

日本人と

変わらない医療を

特定非営利活動法人

AMDA国際医療情報センター

事務局主任 庵原典子 さん

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「困った時はお互い様」の理念

 私たちAMDA国際医療情報センターは、日本に在住したり観光、ビジネス、留学などで来日したりしている外国人の方々に対して、日本の医療情報の提供や診療時の無料電話通訳を行っています。「困った時はお互い様」の理念を持つAMDAグループに属し、ゆるやかにつながりながら活動しています。AMDAとは、グループで最初に設立された認定特定非営利活動法人アムダの当時の名称であるアジア医師連絡協議会(The Association of Medical Doctors of Asia)の略称です。

 AMDA国際医療情報センターは、外科医師である現理事長小林米幸が通訳付きの小林国際クリニックを開院したのが原点です。開院直後から外国人から電話相談が寄せられたため、電話相談に特化した団体としてセンターを立ち上げました。センター東京では英語、タイ語、中国語など8か国語、センター関西では英語、スペイン語、中国語、ポルトガル語の4か国語で、日本全国からの電話相談に対応しています。

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社会情勢と深く関わる相談

 相談の内容は、時代の流れや社会情勢と深い関わりがあります。1990年に入管法が改正され、ブラジルやペルーといった中南米出身の日系人労働者が一気に増えました。センター関西では、大手の語学学校が倒産して外国人教師が減ったことから、相談電話がかなり減ったこともあります。IT産業に従事するインド人の方が多くいましたが、2008年のリーマンショック以後は激減しました。現在は中国人の増加に伴い、中国語の需要が増えています。このように社会の変化に応じて、相談者が話す言語も変わります。

 一方、受け入れる医療機関の態勢はまだまだ十分とはいえません。英語で対応してくれるところはかなりありますが、その他の言語は個人の能力に頼っているのが現状です。厚生労働省が支援している「外国人患者受入れ医療機関認証制度」が2013年度から始まり、関西ではりんくう総合医療センターが認定されています。しかし、医療機関として積極的に取り組むところは全国的にはまだそう多くはありません。外国人患者を受け入れると未払いが生じるのではないか、言葉が通じないと医療事故につながるのではないか、通訳を介するとどうしても受診時間が長くなるため、日本人の患者さんからクレームがくるのではないか、などといった不安があるためだと考えられます。

sub_ttl00.gif 制度や考え方のギャップを埋めながら

 国によって医療制度や医療に対する考え方が違いますし、日本の医療に対する思い込みや誤解も少なくありません。できるだけトラブルを避けるため、「日本の医療はあなたの国の医療とは違います」というところからお話しします。例えば、日本は保険制度が整っていますが、それは普段からみんなが保険料を納めているという基盤があるから成り立つものです。医療を受けたい時だけ加入したいと相談されれば、保険制度の趣旨をていねいに説明します。治療や検査も公的保険を使うのであれば、必ずしも自分が望むものが受けられる訳ではありません。医師が保険制度に沿って、必要と判断した場合だけ受けられると説明しています。

  「いい医療機関を推薦してほしい」という相談もありますが、私たちは医療機関を評価することはできません。通じる言語、居住地、受診可能な時間など、なるべく相談者の希望に添うところを探して紹介しますが、最終的には複数の候補の中から自分で選択してもらうようにしています。

 オフィスを開けている時間内であれば全国どこからでもご利用いただけるよう、電話による情報提供と通訳のみという活動です。相談に対応する機関が増えたり、コミュニティやネットワークが築かれてきたりしたこともあり、相談件数自体は減少する傾向があります。けれども先に述べたように、外国人の方の仕事や生活は制度の変更や景気の影響を受けやすく、生活基盤が脆弱な人も存在します。ストレスから体調を崩したり、精神的な疾患にかかる人もいます。相談は減っても対応が難しいケースがあるので、相談の内容をしっかり把握して、対応していくために努力を続けています。

sub_ttl00.gif 医療通訳に対する社会的支援と理解を

多様化し、医療通訳のニーズが高まる一方で、医療通訳に対する社会的制度やサポートは十分ではありません。しかし、医療通訳には一定の医療知識や倫理観、さらには「様子をみましょう」といった日本独特な表現を「具合が悪い時は来てください」という意味であると的確に理解して伝えるための言語スキルが求められます。オプションという形で月々の保険料にいくらかプラスして支払うことで、必要な時に医療通訳に来てもらえるような保険制度の改革を検討してほしいという意見も出てきています。

 日本には現在、200か国近い国や地域の人々が住んでいます。「外国人患者が増えると経営に差し支える」と考えるのではなく、当センターの電話医療通訳を利用するなどして来院者数を増やすことは、病院の運営にプラスになりますし、社会的貢献にもなります。国際社会の一員として、ぜひ社会的に取り組んでいただきたいテーマです。

(2014年8月掲載)