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・・・・・ 第105回・・・・・

さまざまな文化が

対等な関係で

共生する社会へ

特定非営利活動法人

多文化共生センター大阪

理事 中村満寿央 さん

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情報から隔離された外国人の人々

特定非営利活動法人 多文化共生センター大阪の活動の原点は、阪神淡路大震災です。現在、代表理事を務めている田村太郎は、当時、大阪梅田にあるフィリピン人向けの雑貨屋兼レンタルビデオショップで働いていました。

1995年1月17日早朝、大地震が起き、田村本人も被災したのですが、とにかく職場に行ってみると大勢のフィリピン人が不安な表情で集まっていました。その時に外国人に特化した支援の必要性を直感し、翌日にはボランティアによる支援グループを立ち上げました。

5日後には「外国人地震情報センター」という名称で、被災外国人への情報提供に特化したボランティアグループも立ち上げ、電話相談を受け始めました。まず感じたのは、圧倒的な情報不足です。私たち日本人は災害が起きたらまず地域の学校や公民館などが避難所になることを知っていますが、外国人の方にはそんな情報も行き渡っていません。「日本人は学校に逃げて暮らしているみたいだが、自分たちも行っていいのか」「怪我をしたがパスポートをはじめ何もかも地震で失った。どうすればいいのか」などといった相談内容から、地域のなかで孤立し途方に暮れている様子が伝わってきました。

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緊急支援から日常的支援へ

まずは孤立している人たちとつながらなくてはと15言語でチラシを作成し、1万枚以上配りました。最終的に約半年の電話相談活動で1000件以上の相談を受けました。震災直後は地震による直接的な被害の相談が多かったのですが、やがて「勤め先が被災して職場に戻れない」「引っ越したが子どもが新しい学校に行きたがらない」など、次第に日常的な問題にシフトしていきました。

相談を通じて痛感したのは、震災が起きたから困っているのではなく、震災によって外国人の人たちがさまざまな課題を抱えてきたことがあきらかになったということです。そして大きな打撃を受けた被災地や「日本人」の生活が徐々に復興に向かっても、外国人の人たちの課題はそのまま、というよりむしろより深刻な形で残されているということも見えてきました。継続的、日常的な支援が必要であり、日本社会自体も共生に向けて変わっていかねばならないと考え、1995年10月に「多文化共生センター」と名称を変え、活動を継続していくことが決まりました。

sub_ttl00.gif 当事者が力を発揮できる支援にとりくむ

「多文化共生センター」の設立にあたって、3つの基本理念を掲げました。「国籍差別のない基本的人権の実現」「民族的文化的少数者の力づけ」「相互協力のできる土壌づくり」です。

「民族的文化的少数者の力づけ」とはいわゆるエンパワメントです。私たちが最も重要だと考えるのは「共生」です。必要に応じて支援をする/されるのは当然ですが、一方通行の関係ではなく、ともに対等な人間としてひとつの社会で暮らしていく。そのためにはそれぞれが、特に少数者が力をつけていかねばなりません。

そこで、外国人の方が母語で発信するフリーペーパーや新聞の発行を印刷機の貸し出しやパソコン教室の開催という形でサポートするという活動もしました。

さまざまな課題のなかでも特に大きなものが子どもに関することです。外国人であることで学校でいじめられる、言葉の理解が十分でないことから勉強についていけない、そうしたことが重なることで不登校になるなど、電話相談を通じて孤立した子どもたちの実態が浮かび上がってきました。子どもの居場所とエンパワメントが必要だと考え、1998年から「子どもプロジェクト」として、さまざまな取組みをおこなっています。

たとえば、「ブラジル人の子どもの集い」は月に1度集まり、母語であるポルトガル語で話せる場をもつことで、自尊感情を育みます。また、高校受験を目指す子ども向けの進路ガイダンスを多言語でおこなう「多言語進路ガイダンス」も大阪市の学校と協力しあって立ち上げました。

親も日本語の理解が十分でないことが多いため、学校とのコミュニケーションがうまくとれないケースもあります。そこで通訳者の養成講座を開き、修了者には大阪府をはじめ行政にボランティアとして登録してもらい、必要に応じて派遣してもらうという事業もおこないました。
sub_ttl00.gif 子どもたちの未来に多様な選択肢を

最近特に力を入れているのは、学習支援です。2005年から毎週土曜日に教科や日本語の学習をする「サタデイクラス」、さらに2013年からは高校進学を希望する子どもたちに「たぶんか進学塾」を開いています。大阪市が発行する教育バウチャー(クーポン券)制度を利用し、経済的負担がかからないようにしています。初年度は受講していた9人全員が志望校に合格し、みんなで喜び合いました。そのなかの一人が「大学へ進学して、いつか自分が後輩の勉強をみたい」と言ってくれたことに大きな希望を感じました。多様なロールモデルのなかから自分の将来を思い描けることが重要です。

日本社会において、外国人の子どもたちが自尊心を育みながら十分な教育を受けられているとは言い難い現状があります。今後も、子どもたちが安定した環境で育ち、未来に希望をもてるような支援に取り組んでいきます。

(2014年6月掲載)