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   ・・・・・ 第102回・・・・・ 

「共生の地域福祉」

づくりに住民主体で

取り組む

(社福)岬町社会福祉協議会事務局長

  立花 直樹 さん

 
sub_ttl00.gif    「共生」を事業の根本理念にして

 

 

 私たちはさまざまな事業をおこなっていますが、根っこにある理念は「共生」です。「共に生き、育ち、学ぶ」というベースがあるのです。たとえば「ほほえみ」という名前の介護者家族の会があります。一般に介護者といえば高齢者をイメージされるかもしれませんが、「障がいのある人のご家族もどんどん入ってください」と呼びかけています。よく「障がい」「高齢」など属性で分けられていますが、私たちは属性を越えて出会い、交流することを常に意識しています。

 10数年前には岬町にも厳しい差別や偏見がありました。特に精神障がいに対する差別、偏見は強く、啓発や学習では取り除くことができなかったのです。それまでの人生のなかで刷り込まれてきた決めつけは、数時間の勉強で解消できるものではないと痛感すると同時に、その人たちと関わり、交流することにより初めて予断や偏見の解消につながるのだと思いました。 

 もちろん学習を否定するつもりはまったくありません。私たちはしょっちゅう学習会を開いています。誰かが「これってどうなんでしょう?」と疑問や不安を持ち込んできたら、すぐに学習会やディスカッションです。そして学校の先生や地域住民、民生委員などさまざまな立場の人たちを呼んできます。そしてそれぞれの立場から具体的な課題や不安を出し合い、共有したうえで、事業を立ち上げます。私たちの事業はそうして生まれてきました。

 

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グループ援助と個別援助を連動させたネットワーク

 

 

 具体的にご紹介すると、まずグループ援助と個別援助があります。 グループ援助はサロン活動とも呼び、自治区単位の「ふれあいいきいきサロン」(以下「サロン」)をベースに、少し範囲を広げた「コミュニティカフェ」、小学校区単位まで広げた「広域型コミュニティカフェ」と3パターンがあります。その他、テーマ型やセルフヘルプグループ単位、出向くことが困難な人たちのための出前型など、ニーズに応じてきめ細かく活動しています。援助とありますが、住民なら誰でも参加できます。

 

 個別援助としては「見守り訪問活動」を行なっています。自宅にこもりがちな高齢者や不登校の子ども、ひきこもりの若者が対象です。グループ援助と個別援助は連動してネットワークを形成しています。具体的な拠点と見守りによってどんな状況の人もこぼれ落ちないようにと考えています。

  たとえば「みんなのたまり場」というサロンでは知的障がいのある子どもと精神障がいのある人が一緒にボウリングゲームなどをして遊んでいます。その様子を日常的に見ている健常者もいます。また、地域の精神障がいや知的障がいのある人、近隣の施設利用者のウェイター/ウェイトレス実習も受け入れています。

 

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困りごとを安心して相談できる地域でありたい

       ~福祉と教育が地域で一つになる~

 

 

 

 ある時、中学校の先生から不登校の生徒について相談がありました。私たちはすぐ学校と地域の人たちをまじえた学習会を重ね、「学びは学校でしかできないものではない」ということを共有しました。そしてその生徒をサロンの実習生として受け入れたのです。学校で過ごすのはしんどいけれど、他の場所なら過ごせるという子もいます。その子はサロンでさまざまな人と接し、卒業していきました。卒業する時は地域の人たちも一緒に祝い、親御さんはとても感激されていました。

  小さな町だけに噂になるとつらいものです。だから家族は困りごとを隠そうとします。けれどもしっかりと受け止めるネットワークと人がいれば、安心して暮らせます。今は困っていない人たちも、こうした日々を積み重ねていくことで「この地域でともに生きるということにおいては健常だ障がいだと分けたりする必要はない」ということが実感できます。そして何か困ったことが起きた時も抱え込まず、相談することができます。

 

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三方よしの仕組みづくり

      ~キーワードは「子どものために」~

 

 

 

     

  

 

  私たちが新しいことを考える時、自分の中にある認識以上のものは生まれません。だからこそ継続した学習や実践が必要なのです。

 特に子どもたちにわかってほしいのは、「ええやんちがっても」ということです。それは、毎日の生きた福祉教育の実践でこそ伝えられることだと思います。

 排除や孤立をなくしていくために学校(行政)と地域、社会福祉協議会もそれぞれががんばっていました。でも、それぞれの立場や主張があり、当初一緒にやっていくことはなかなか困難でした。それを乗り越えることができたキーワードは、「子どものために」でした。そのために必要なことは何か、と考えていくことでお互いが協働しあう仕組みづくりにつながったのです。福祉と教育を融合させていくことで、それぞれが皆いい思いができる。三方よしの地域づくりにつながっていきました。

   
   
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相手の立場、状況を理解することから始まる

 

 

 

 

 しかしながら、スムーズにここまできたわけではありません。たとえば「うちのような小さな町に見守りなどいらない」という意見もありました。そんな時、私たちはとにかく対話を重ねます。そしてまずは相手の状況、立場、しんどさを話してもらいます。それがわかれば相手が反対するのも理解できますし、課題も見えてきます。さらに相手も「自分の立場を理解してくれた」と心を開いてくれます。そこから連携が始まります。地道なロビー活動の中で地域住民の意識を変容させる取り組みが必要なのです。

 地域の状況は年々変わります。柔軟できめ細やかな感覚と動きが求められます。ここ数年、新興住宅地ができ、他地域から転居してこられた世帯が増えました。一方で、代々岬町に住んできた世帯や、数十年前に入ってこられた世帯もあります。地域に対する考え方やスタンスはそれぞれ違います。違いを認め合いながら、住民主体の地域福祉をいかにつくりあげていくかが今のテーマのひとつです。学校では地域のボランティアの人たちによる平和体験学習などをおこなっているので、子どもたちに「今日勉強したことをお家の人たちにも話してね」と呼びかけたり、地区の福祉委員会に入ってもらうよう働きかけたりしています。親の立場や状況はさまざまですが、子どもたちはみんな地域で育ちます。それが未来の地域福祉の土台になります。これからも学習会と実践を重ね、官民や属性を超えて10年後20年後を見据えた事業を展開していくつもりです。 

 

(2014年3月掲載)