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・・・・・ 第100回・・・・・

発達の凸凹を生かし合うことで、

誰もが

生きやすい社会をつくる

NPO法人発達障がいをもつ大人の会

(DDAC)

代表  広野ゆい さん

sub_ttl00.gif 「できないこと」に振り回され、苦しんだ日々

「NPO法人発達障害をもつ大人の会(DDAC)」は2002年から成人の発達障がい者の交流会や相談活動をおこなっています。設立のきっかけは、自分自身の生きづらさでした。

子どもの頃から忘れ物が多かったり、集団に合わせて行動できなかったりといろいろしんどいことがありました。でもそれは私に注意力や協調性がないせいだと言われ続け、自分自身もそう思い込むようになっていました。それでも学生時代は何とかやっていましたが、最初に就いた仕事が秘書という職業で、業務内容にはスケジュール管理や片付けなど苦手なものが多くありました。周りの人が私に何を求めているのかがわからないのも苦痛でした。遠回しな言い方や、「これを言えばわかるだろう」という指示の仕方では何をすればいいのかがまったくわからないのです。そして求められていないことを一生懸命やって叱られ、「仕事ができない」と言われ、自分で自分を責めて本当に苦しい思いをしました。

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二次障がいとしてうつ病も発症

20代後半になってようやく診断を受けるために病院へ行きました。その頃には本などで発達障がいに関する知識があり、自分はADHDではないかという確信がありました。その診断を受けるつもりで受診したのですが、まず「うつ」だと言われました。その頃にうつ病になったのではなく、成人してからずっとうつ状態だったのだと思います。「どうして他の人にできることが自分にはできないのか」と悩みながら必死でがんばり続け、できない自分を責め続けるなかでうつ病を発症していたのでしょう。

こうした経験から発達障がいのある大人のための会が必要だと痛感しました。当時、すでに子どもの会や親の会はたくさんありましたが、大人になった当事者の会はまったくなかったのです。

当初の参加は主婦の方が中心で、「家が片付けられない」「近所づきあいがうまくいかない」「子どもが発達障がいと診断されたがどうすればいいのか」という悩みが多く聞かれました。けれど 2008年にいわゆるリーマンショックが起こり、不況になるにつれて働くことの難しさが多く聞かれるようになりました。

sub_ttl00.gif 「できること」を生かせばストレスもトラブルも減らせる

景気がいい時は少々コミュニケーションがうまくいかなくても派遣やアルバイトで雇ってもらえます。ところが景気が悪くなると、「仕事ができない」と判断された人から切られていきます。正社員で働いていても配置換えなどで辞めざるを得ない方向へともっていかれることがあります。そうなると変化に弱い発達障がいの人はたちまちしんどくなり仕事どころではなくなります。うつ病を発症し、追い詰められて退職せざるを得なくなる人も少なくありません。そういう状況になって初めて発達障がいの診断を受ける人も多くいます。

仕事を失えば生活の基盤が不安定になります。うつ病など二次障がいが出れば社会とつながること自体が困難になります。しかし発達障がいのある人は「できないこと」ばかりが多いわけではありません。障がいの特性にもありますが、緻密な作業が得意、集中力や企画力がすぐれているなどの長所もあります。できないことばかりに注目され、「できるように努力しなさい」と言われがちですが、むしろ「できること」に注目し、そこを生かせるような環境を整えることでストレスやトラブルも大きく軽減されます。自分の経験からも、当事者と企業を調整することが必要だと考えました。そこで2012年度から大阪府の緊急創出基金事業・重点分野雇用創出事業として大阪府から委託を受け「発達凸凹と企業をつなぐコンサルティング事業」を始めました。

sub_ttl00.gif 特性を受け入れ、助けを求められるスキルを身につけて

私たちは「発達障害をもつ大人の会」ですが、現在はあえて発達障がいではなく「発達凸凹」と表現することが増えています。発達凸凹とは認知(理解、記憶、推論などの知的活動)の能力の高い部分と低い部分の差が大きいということです。それだけでは障がいにはなりませんが、適切な支援や理解を得られないまま成人し、結果的にうつなど二次障がいを抱えて社会適応が難しくなっている状況が加わることで「発達障がい」となるというふうに私たちはとらえています。

また、「発達障がい」という言葉に対して「うちは障がい者を雇ったことはないので」と尻込みされたり、給料を減額したりするケースがあります。「障がい」に対する偏見や差別ですが、まずは私たちの特性について理解してもらおうと『発達障がいと発達凸凹はちがう??』『発達凸凹活用マニュアル』というパンフレットや冊子をつくり、企業に配布したり研修をおこなったりしています。

こうした活動を通じて、私自身も自分の特性を受け入れられるようになりました。苦手な片付けに一生懸命取り組んだこともありましたが、今はできる範囲でいいと割り切れます。誰にでも多少の凸凹はあります。まずは自分自身が「できないこと」を受け入れ、周囲に理解と助けを求められること、そのスキルを身につけることが一番大事です。そして助けてもらったら、感謝とともに自分が得意なことで「お返し」をする。そんなやりとりがどこでも自然にできるようになれば、発達障がいの有無に関わらず、どんな人も生きやすい社会になるのではないでしょうか。

(2014年2月掲載)