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・・・・・ 第98 回・・・・・

共同生活や

作業から医療まで、

さまざまな資源で若者を支える

NPO法人 フェルマータ

理事 小林 將元 さん

sub_ttl00.gif 病気ではないが困難を抱えている人の社会参加を

 

 NPO法人フェルマータは、精神的、発達的な悩みを抱えた人や不登校、ひきこもり、ニート状態で社会とのつながりが切れてしまった人の相談や支援をしています。設立したスタッフはもともと高槻市内の精神病院で看護職員として働いていました。そのなかで15年、20年と長期入院をしている人たちがいることに疑問をもち、社会復帰とその後の生活支援をするために地域生活支援センターを立ち上げたのが活動の原点です。気軽に来れる居場所をと喫茶店を併設したところ、地域でニートやひきこもりの若者を支援しているNPOの人や子どもの不登校に悩んでいる人なども訪ねてきて、相談を受けるようになりました。

90年代半ば頃から社会とのつながりが切れてしまった若者たちがひきこもりやニートと呼ばれるようになり、社会問題化してきました。私たちは地域での活動を通じて、この若者たちのなかには軽度の知的障がいや発達障がい、精神疾患を抱えている人も少なからずいると感じていました。精神疾患であれば保健センターや病院と連携することができますし、そのルートも知識もあります。しかし、病気ではない人たちが社会に参加する場所はなかなかありません。今後はそういう場が必要だと、2001年に任意団体「障害者の街の暮らしを創る会」を立ち上げ、翌年にはNPO法人として活動を始めました。ちょうど同じ地域で若者支援をしているNPO法人ニュースタート事務局関西とそうした問題意識を共有し、連携ができたことが大きな力となっています。

sub_ttl00.gif 「空白」が長いほど回復への時間がかかる

 

 ひきこもっている若者たちの「高齢化」も大きな問題です。30代になって初めて相談につながる人やあちこちでカウンセリングを受けた末に来られる人など経過はそれぞれですが、いずれにしても社会とのつながりが切れてからの時間が長いほど「回復」にも時間がかかります。

 なぜもっと早く具体的な行動を起こせないのかという問題にはいくつかの要因が考えられます。まず、高校時代までは学校の先生という社会との接点がありますが、卒業あるいは中退すると切れてしまい孤立状態になること。そして、その頃はまだ親も若く経済力があり、働き盛りで多忙なこともあって「様子をみる」ということで事実上放置してしまうこと。相談、特に保健所や医療機関につながることに抵抗が大きいことなどがあります。子どもがいわゆる大学卒業年齢になって初めて危機感を抱くものの、どうすればいいのかわからないまま、あっという間にさらに数年が過ぎ、親子ともに途方に暮れるというケースが後を絶ちません。この空白期間の間に精神疾患になることや、強いこだわりや思考の偏りが生じて社会生活が困難になることもあります。できれば10代のうちに、せめて20代半ばまでに相談機関につながることがひきこもりやニート問題の大きなポイントだと思います。

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一人暮らしや作業を通じて社会とつながっていく

 フェルマータでは現在、建築会社の寮だった建物を再利用した寮形式の住居と、民間ワンルームマンション2棟を借り上げた住居を用意し、その人の状況に合わせて提供しています。マンション借り上げには地域の不動産業者の理解と協力があります。

 また、一般の人も利用できるレストラン兼喫茶店を運営しており、訓練生や障がいのある人が仕事や参加プログラムに合わせて食事をとれるようにしています。職業訓練や雇用の場にもなっています。食品加工場も2カ所で運営していて、農家で借りた畑でメンバーが育てた野菜や果物をジャムやペーストに加工したり、おにぎりやドーナツなどをつくったりしています。

親元を離れ、こうした作業や共同生活、一人暮らしを通じて、空白だった社会生活を取り戻していきます。時には喧嘩めいたこともありますが、それも大切な経験です。

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メンタルクリニック開院で、医療とのつながりも

     

  

 

2012年にはフェルマータ・メンタルクリニック(精神科・心療内科・神経内科)を開院しました。診察をはじめ、心理検査やカウンセリング、うつ病で休職中の方を対象とした復職支援プログラムなどをおこなっています。現在のところ、全国に160カ所ある地域若者サポートステーションのうち、医療部門をもっているのは私たちだけです。精神医療というと服薬治療をイメージされる方が多いかもしれませんが、私たちは必ずしも薬が必要だとは考えていません。その見極めも含めて、医療部門をもつ重要性を感じています。ひきこもりやニート状態の子どもと長年過ごしてきた親のカウンセリングもニーズがあります。

 課題としてはやはり早期の「再チャレンジ」です。縦割り行政の弊害もあり、事業が細分化されがちですが、現在の私たちの活動の根本は「若者支援」にあると考えています。地域の教育機関や私たち自身のスキルアップに取り組みながら、さまざまな困難を抱えながらも社会とつながること、働くことを求めている若者たちに最大限のサポートを提供していきたいと思います。

  (2013年12月掲載)