新着情報

yamashita.JPG

・・・・・ 第97回・・・・・

子どもの権利条約と

ともに歩んだ

20年とこれから

社団法人 子ども情報研究センター

事務局長 山下 裕子 さん

sub_ttl00.gif 人権の視点に立った保育理論の確立を目的に

 

 社団法人子ども情報研究センターの前身は、1977年に創立された社団法人乳幼児発達研究所です。その名の通り0歳から6歳までの子どもの発達と育児環境に注目し、人権の視点に立った保育理論を確立することが設立趣旨でした。当時、子どもは未熟な者であり、おとなが指導や管理をしなくてはならないという考え方が社会では主流で、「子どもの権利」という発想は皆無といってもいい状況でした。

1980年から同和保育連続講座(現・人権保育教育連続講座)がスタートし、現在も毎年開催しています。1994年に社団法人子ども情報研究センターと名称変更し、活動はさらに広がりました。子どもエンパワメント事業として、18歳までの子どもの専用電話「チャイルドラインOSAKA」、子どもの人権侵害事象について一緒に考える「子ども家庭相談室」、不登校や家にひきこもりがちな子どもたちが安心して過ごせる場「自由空間☆きらり」などを運営しています。

sub_ttl00.gif 子どもの権利に対する意識の低さは変わらない

 

 また、子育て支援ネットワーク事業として、子育ての孤立化を防ぐために家族問題に関する電話「ファミリー子育て何でもダイヤル」、子どもの人権を大切にする保育を広く府民に啓発する「保育部ももぐみ」、さらに大阪市の委託を受けて2カ所で「つどいの広場」を実施しています。

 府民による子育て支援の輪を広げていくために大阪府子ども家庭サポーター養成講座修了生のネットワーク「サポーターネット」を立ち上げ、情報交換やスキルアップを図る研修などをおこなっています。

 さまざまな活動の原点にはすべて「子どもの権利擁護」という理念があります。子ども情報研究センターと名称変更した1994年、日本は子どもの権利条約を批准しました。子ども情報研究センターとしての歩みは、日本における子どもの権利擁護の取り組みとともにあったと言えるかもしれません。

 けれども子どもの権利条約の批准から20年近くが経った今、果たしてどれだけ社会のなかで子どもの権利が尊重されているでしょうか。率直にいえば「変わらないなあ」というのが実感です。たとえば、一度非行的な行動をすると「困った子」というレッテルが貼られ、その後、その子どもに何か困ったことが起きてもちゃんと話を聞いてもらえない、「おまえにも悪いところがあったんだろう」と決めつけられるといったことがよくあります。

sub_ttl00.gif 第三者として教育の現場に関わる

 2011年に滋賀県大津市の中学校で、いじめられた子どもが自死する事件が起こりました。いじめの内容のひどさや、学校側がいじめの訴えを受けていたにも関わらず十分な対応ができなかったことが社会的な問題となりました。その議論を受けて、2013年6月に「いじめ防止対策推進法」が国会で可決、成立し、9月から施行されています。さらに文部科学省の有識者会議が報告書のなかで、「いじめの調査には、専門的知識のある第三者を入れるべき」としたこと、大津の事件でも第三者委員会が設置されたことなどがあり、ここにきて第三者という存在が注目されるようになりました。

 そうしたことから、子ども情報研究センターの「子ども家庭相談室」にもいじめの相談が増えています。これまでは電話がほとんどでしたが、当事者である子どもと保護者が一緒に来所するケースが多くなってきました。そこで気になるのは、親と子どもの願いのギャップです。親は、私たちに第三者として事実調査をすることや、白黒はっきりさせること、学校や「いじめた子」を裁いてほしいと願っています。それを子どもに言わせようとする親も少なくありません。

sub_ttl00.gif

「わかってほしい」という思いを一番大切に

     

  

 けれども当事者である子ども自身は必ずしも親と同じ気持ちや願いではないのです。むしろ「つらい気持ちをわかってほしい」「自分の話を聞いてほしい」と願っていることが多いと感じています。それは「いじめられた子」だけでなく「いじめた子」も同じです。だから私たちは来所してくれた子どもたちの話をゆっくり聴くことから始めます。

 「いじめた子」にも言い分はあります。「やってしまった事実はあるけど、最初はこんなことがあった。そこはわかってほしい」という願いをもっています。そうした声を時間をかけて聴き、教育委員会や学校に伝えるのが私たちの役割なのですが、この時に「指導ありき」になってしまうのがとても残念です。いじめがあったかなかったか、どう対処するのかが優先で、その子の背景を受け止めながら一緒に考えていこうということにはなかなかなれません。自分たちの関わりが「指導」に結びついてしまうということがジレンマであり、課題です。

 「子ども家庭相談室」は、カウンセリングルームでも弁護する場でもなく、子どもの身に起きたことを子どもと一緒に解決していく場、子どもの人権を守ることを大切にしている場です。それは子ども情報研究センター全体に通じることです。日々の事業を大切にしながら、「子どもの人権を守る」「"ちがい"を認め合い、ともに生きる社会」という理念をどう具体化していくかを常に考えていきたいと思います。

 (2013年11月掲載)