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・・・・・ 第96回・・・・・

子どもの声を聞きながら、

おとなとして

責任を果たす

NPO法人 関西こども文化協会

理事 柳瀬 真佐子 さん

sub_ttl00.gif 多様な立場の人とともに

 関西こども文化協会は「子どもの権利条約」の具現化を理念とし、1996年に任意団体として立ち上げました。前身は親子で舞台芸術を鑑賞することを通じて子どもたちを感性豊かに育てようという「おやこ劇場」でした。  

その活動のなかで、早期教育の問題や「非行」、「不登校」から派生する「ひきこもり」問題、いじめ、など子どもたちをめぐる状況が時代を追うごとに厳しくなるのを実感することが多くなりました。文化環境の整備のみに特化して活動することに限界を感じたのが立ち上げのきっかけです。

その際に意識したのは多様な立場の人たちの参加です。おやこ劇場の活動は母親が中心となることが多かったですが、本来、子育ては母親だけが担うものではありません。母親や父親、教師、地域の人など、子どもを取り巻くさまざまな人たちが、子どもに関わることを重視しました。特に「子どもの権利条約」の具現化という方向性が明確にあったので、大学教授をはじめとする教育の専門家に理事として加わってもらいました

sub_ttl00.gif 「子育ての当事者」である親の実感をベースに

 「子どもの権利条約」は前文と54条からなり、子どもの生存、発達、保護、参加という包括的な 権利を実現・確保するために必要となる具体的な事項を規定しています。関西こども文化協会は、子どもたちが「安心して学び生活できる教育・文化環境の創造」「自分に自信がもてる教育・文化環境の創造」「自由を享受できる教育・文化環境の創造」を基本方針とし、一時保育事業や「不登校」の子どもたちの居場所事業、学習支援事業などをおこなってきました。

 また、京阪電鉄が開発したニュータウンにおける「京阪ローズタウン共育ステーション つくるところ」(民間保育園)の企画、運営など企業との連携もあります。

 このように、乳幼児期から学童期、思春期、そして青年期にわたる子育て支援、また子どもへ教育支援という幅広い事業内容ですが、どれも私たちメンバーが子育ての当事者、つまり親として感じたことがベースにあります。たとえば2005年に立ち上げた学習支援事業を紹介しましょう。子どもたちが不登校や非行をする背景には友だち関係や学校との関係、家庭環境などさまざまな要因があります。そのなかで実は「勉強がわからない」ということも大きなきっかけとしてあります。勉強は積み上げですから、わからなくなった時点まで遡って学び直す必要があります。ところが学校でも塾でもそこまでフォローしてくれるわけではありません。理解できない授業をずっと聞き続けるのは、子どもにとって大変な苦痛でしょう。しかし親も教師も「努力が足りない」「もっと勉強しなさい」としか言いません。しんどくなってしまった子どもは、不登校や非行という形で辛さを表現せざるを得ないのです。そうした事例に多く接した私たちは、一人ひとりの学習診断をしたうえで、少人数クラスでその子に合ったレベルで勉強をしていくという形の学習支援事業「小河学習館(おごうがくしゅうかん)」に取り組みました。そして現在では、さらなる発展を望んで「小河学習館」の運営は、小河教育研究所へ引き継いでいます。

sub_ttl00.gif 一人ひとりの子どもに合わせたサポート

 「不登校の子どものための居場所」事業は行政の委託事業ですが、不登校の子どもたちの居場所づくりを目的にスタートしています。学校に行けない、行きたくない状況がある一方で、家に一人でいるだけでは成長期のエネルギーを発散しきれません。また、居場所とは人間関係をつないでいく場でもあります。人間関係で傷ついた子どもたちは、人間関係のなかで回復していくことが重要です。そのためにコーディネーターをはじめとするスタッフが、一人ひとりの子どもたちの家庭環境や性格などを把握し、その子に合わせた活動プログラムを組み、メンタルフレンドと呼ばれるスタッフが一緒に活動します。

また、「居場所」にやってくる中学生の不登校の子どもたちの多くは高校進学を希望します。現在の高校は通信制や単位制など多様化しているので、保護者や相談員、中学校の先生と話し合いながら、本人と一緒に進学先を決めていきます。

sub_ttl00.gif 子ども時代の課題が長期化している

 

 

 子どもを取り巻く状況に対する危機感から生まれた私たちの活動ですが、この間にも、子ども時代の課題が解決できないまま長期化するなど、深刻化を増してきました。例えば、不登校が長期化し、高校や大学あるいはそれ以降も続くことがあります。いわゆる「ひきこもり」です。30歳40歳になっても家を出られない。しかし、家にいるから親子関係は良好なのかというと、実はそうではないことも多々あります。もともとのきっかけは学校や友だちとのトラブルだったとしても、その背景に親子関係のしんどさがあるということもあります。だからといって親の責任だということではありません。親は、子どもに「いい子ども」であることを求めてしまい、子どもも一生懸命、親の期待に応え、ある時点でしんどくなってしまうことがあります。

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「子育て」を社会化する

     

 

 親も子どもをもった時に初めて「親」になります。子どものことに一生懸命になる気持ちもわかります。地域や親戚とのつきあいも希薄になり、気軽に相談したり、子どもを預けたりする関係や場所も以前のようにはありません。かといって昔に戻れというのではなく、介護が社会化されてきたように、「子育て」も社会全体で支える仕組みが必要です。「子どもの貧困問題」や「虐待」など、子どもたちの生きる権利そのものも脅かされている今だからこそ、「子育て」の社会化が必要だと言えます。

 関西こども文化協会は、当事者である子どもの声を聞くこと、しかもできるだけ多様な立場の子どもたちの声を聞いていくことが大切だと考えます。子どもたちが安心して育ち、社会の一員として意見を言える場をつくっていくのが、おとなである私たちの責任です。

これからも、子どもを真ん中に、学校と教師、家庭と親、そして子ども、市民は何ができるのか、意見を表明し、互いに話し合い、当事者性を大切にした活動をしていきたいと思います。

(2013年9月掲載)