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・・・・・ 第95回・・・・・

「盲ろう」という

障がいの

社会的認知と支援を

NPO法人 大阪盲ろう者友の会

代表理事 田中 康弘 さん

sub_ttl00.gif 聴覚と視覚に障がいがあるとはどういうことか

 私たちNPO法人大阪盲ろう者友の会は、大阪市内に「手と手とハウス」という拠点をもち、活動しています。同じ場所で生活介護事業所も運営しています。

 盲ろう者とは、視覚と聴覚の両方に障がいのある人です。一口に盲ろうといっても見え方や聞こえ方の程度はさまざまで、大きく4つのタイプに分けられます。まったく見えなくてまったく聞こえない「全盲ろう」、まったく見えなくて、少し聞こえる「全盲難聴」、少し見えてまったく聞こえない「弱視ろう」、少し見えて少し聞こえる「弱視難聴」です。それぞれのタイプによって必要なサポートは違いますが、共通していることもあります。それは見えない(または見えにくい)、聞こえない(または聞こえにくい)ために人との会話が困難なこと、周りの状況を知るための音や光の情報が入らない(または入りにくい)こと、そうしたことから一人で外出するのがとても難しいことです。また、視覚と聴覚の両方に障がいがあるため、平衡感覚を保つのが難しく、ただ立っているだけでも体が傾いてきたり、真っすぐ歩くことができなかったりします。こうした盲ろうという障がい特有の困難のため、日常生活において通訳や介助をする人が不可欠です。

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日常生活全般に不可欠な通訳・介助が不十分な現状

 先に述べたように盲ろう者のコミュニケーションは障がいの内容によってさまざまです。全盲ろう者の場合は手話の形を手でさわって読み取る「触読手話」を使います。弱視ろう者の場合は、その人の見える範囲内で手話を表す「接近手話」を用います。点字の読み書きができる盲ろう者はブリスタと呼ばれる速記用点字タイプライターを使うか、点字タイプライターの代わりに通訳・介助者が盲ろう者の指を直接たたく「指点字」を使います。その他、盲ろう者の手のひらに文字を書いて伝える「手書き文字」などもあります。いずれもそうした技術をもち、なおかつ介助もできる通訳・介助者の数がまだまだ足りないのが現状です。

また、盲ろうという障害特有の困難が国や行政にもまだまだ理解されていないため、福祉サービスも不十分です。たとえば通訳・介助者の数が足りないだけでなく、利用するにも制限が設定されているため必要な支援を受けられないことが少なくありません。たとえば「手と手とハウス」には府内全域から利用者が来所しています。その時には大阪府の制度を利用できますが、来所時の往復の通訳・介助とそれ以外では施設内でのサービスの利用は1時間だけ認められています。しかしこれは車いすが必要な障がいのある人から車いすを取り上げるようなものです。盲ろう者の人が通訳・介助者なしに人とコミュニケーションをとったり作業したりすることはできません。そのため残りの時間は通訳・介助者がボランティアでサポートすることになります。

sub_ttl00.gif 医療や金融機関、投票所には通訳者の配置を

 通訳・介助のサポートが日常全般で保障されていないということが盲ろう者の自立生活を困難にさせています。生命の危険にさらされることも度々です。たとえば火事が起きても自分の周囲が熱くなるまでわかりません。火傷をしながら裸足で逃げたという人が何人もいます。災害も含め、緊急時に情報が入らないのが一番困ります。

 プライバシーの問題もあります。郵便局のATMはボタン式もあるので盲ろう者にも利用できますが、銀行はほとんどがタッチパネルのみなので通訳・介助者に手伝ってもらわねばなりません。パスワードも教えざるを得ないのでとても困ります。医療にかかる時も、選挙で投票に行くにも、通訳は自分が受けられる福祉サービスから使わなくてはなりません。医療機関や投票所などにはあらかじめ通訳者を配置してほしいと思います。なかでも選挙は候補者の情報が掲載された選挙公報の点訳版が届くのが投票日の2、3日前です。これでは点字を読むのに時間のかかる人は間に合いませんし、期日前投票もできません。国民の権利である選挙権が十分に行使できないのは大きな問題です。         

sub_ttl00.gif 孤立している盲ろう者とどうつながるか

 

冒頭でさまざまな通訳法をご紹介しましたが、最も気持ちが伝わるのは手と手を合わせてやりとりする「触読手話」・「指点字」・「手書き文字」です。「手と手とハウス」という名前には、そうした意味がこめられています。

 具体的な活動としては、新聞やテレビで報道された情報などの提供や、日帰り旅行、ボーリングなどのレクリエーション、調理研修や手作り品の製作、販売などがあります。利用者の方のコミュニケーションの幅を広げるため、点字や触手話の学習会もおこなっています。外部との交流を深めるとともに盲ろう者という存在を知ってもらうため、さまざまな団体のイベントに参加したり、近くのショッピングセンターの協力を得て毎月11日にお客さんからレシートを提供してもらうキャンペーンもやっています。集まったレシートの合計金額の1%を必要な品物と交換してもらえます。

こうして現在の利用者さんの生活の充実をはかりつつ、自宅にこもっている盲ろう者の方とつながる活動も必要だと痛感しています。日本には約1万2千人から2万人の盲ろう者がいるといわれていますが、「盲ろう」という障がいの枠組みがないため、その実情は行政的にもほとんど把握されていません。家のなかで孤立している盲ろう者の方とつながり、必要な情報や支援を提供し、生きる喜びや充実感のある生活を送ってほしいと願っています。

(2013年8月掲載)