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   ・・・・・ 第94・・・・・ 

福祉サービスの充実

 とともに

「その人らしい」人生を

社会福祉法人 日本ライトハウス

法人本部長 上村 賢 さん 

 

 
sub_ttl00.gif  ひとりの視覚障がい当事者が始めた活動

 

 社会福祉法人日本ライトハウスは昨年、創業90周年を迎えました。創始者である岩橋武夫が大学在学中に失明し、1922年から点字図書の製作を開始したのが始まりです。1935年、大阪市内に「ライトハウス」を建設、以後、視覚障がいのある方にさまざまな福祉サービスを提供してきました。

  具体的には一人ひとりの障がいの状況や希望に合わせた自立訓練(機能訓練)、就労移行支援、施設入所支援や、ホームヘルパーが自宅を訪問し身体介護や家事援助などをおこなう居宅介護、外出時の移動支援や外出先での情報提供などをおこなう同行援護などがあります。また、録音図書や点字図書、朗読などにより読書や勉強をサポートする図書・情報サービスや盲導犬の育成と提供などもおこなっています。 

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 約1,200名のボランティアで事業を支える

 

 視覚障がいの程度や置かれている環境は一人ひとり違います。ニーズもそれぞれです。また、少子高齢化にともない、先天的に視覚障がいのある人が減る一方で病気や事故で障がいをもつ人―中途障がい者といわれる人が非常に増えています。たとえば糖尿病性の網膜症であれば末梢神経がやられ、指先の感覚がなくなってしまうため、点字を読み取ることができません。そうした方には音声での情報提供が必要です。

 それぞれのニーズに合わせた福祉サービスを提供するには職員だけの力では足りません。日本ライトハウスには外出時の手引きや読み聞かせをしてくださるボランティアが約100名、盲導犬部門では子犬を育てたり、引退した盲導犬を引き取ってくださる、あるいは犬舎の掃除をしてくださるボランティアが約100名、そしてテキストデータを点字に変換したり、対面で週刊誌や新聞を朗読してくださる情報関係のボランティアの方が約1,000名と、合わせて1,200名ほどの方が登録ボランティアとして参加してくださっています。  

 sub_ttl00.gif   制度の充実と限界、意識面での課題

 

  就労支援も事業の大きな柱です。以前は視覚障がいのある方の仕事といえば、はり、あんま、三味線や琴の演奏と非常に限られていました。そこで私たちは目の見える人たちと同じように仕事ができるようにと職業訓練を始め、職域を開発してきました。たとえば早くからコンピュータに注目し、1971年にはコンピュータ・プログラマー養成コースを開設しています。

 社会的にも障がいのある人たちに対する支援も充実してきました。障がいのある人を雇用した企業には助成金が支給される、介助する人を配置したり、施設を車いすが通れるように改造したりすれば費用の一部が補填されるなどの制度があります。しかし残念なことに、こうした制度を利用している企業はまだまだ少ないというのが現状です。その背景には、制度があること自体が知られていない、そして知っていても使いにくいということがあるように思います。たとえば費用の一部が補填されるとしても自己負担分が厳しいという企業もあります。

 2013年4月1日から障がい者の法定雇用率が2.0%へと引き上げられました(民間企業の場合)。しかし1.8%だったこれまでも達成できていないところが多いという現実があります。物理的に制約があるというハード面の課題と、障がいのある人とともに働くことへのためらいというソフト面での課題の両方があります。

 一方で、障がいのある人たちの意識も変わってきたように感じています。福祉サービスが充実するなかで「それなりに生活できればいい」という思いが生まれ、技術を習得したり積極的に就労したりする気持ちになれないということがあるようです。日々の生活の安定を確保しながら、その人なりの自立や充実感を考えてもらうにはどうすればいいのか。私たちも一緒に考えていきたいものです。

 sub_ttl00.gif 「暮らしやすさ」を広げるために

 

 最近の課題としては、視覚障がいに精神障がいや知的障がいなどを併せもった複合障がいの方が非常に増えてきているということがあり、医療や福祉事務所などと連携した、より細やかな支援が必要です。

 盲導犬の育成も重要な事業ですが、生き物だけになかなか思うようにはいきません。年間100頭前後の子犬が産まれても、実際に盲導犬となるのは20頭ほどです。産まれてからユーザーさんの元にいくまで約2年かかります。そして8年から10年で引退します。ケアに大変な時間と手間がかかりますが、ユーザーさんにとっては大切なパートナーですので、これからも育成に力を入れていきたいと考えています。盲導犬について「犬がかわいそうじゃないか」という人もいますが、犬は人間と一緒に何かをすることに喜びを感じる動物です。健康管理もしっかりして大切にされる盲導犬は通常の犬よりも寿命が長いという統計もあります。

 盲導犬に限らず、視覚障がいのある人がどんな状況で、何に困るのか、まだまだ知られていないことが多くあります。そこで企業や学校、駅などに講師を派遣したり、実習を体験してもらったりする啓発活動にも取り組んでいます。ライトハウス周辺の銀行やスーパーなどは視覚障がいのある人の対応に慣れているため、「暮らしやすい」とこの周辺に引っ越してこられる当事者の方が少なからずおられます。その暮らしやすさが少しでも広がることが私たちの願いです。

                                                       (2013年7月掲載)